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『うさと私』(葉月幹人) [読書(小説・詩)]

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人の言ったことがすぐに分からないとき。意地悪されてもなかなか気がつかないとき。何か言われてもすぐに言い返せないとき。ぼんやりしているとき。ぼんやりしている間に周りが変化してしまっているとき。誰かと話していて、話している内容より思い出したことのほうが気になるとき。君にはちっとも将来への展望がないねと言われるとき。何考えてるのかわからないと言われるとき。でも幸せなとき。
 こういうとき、人はうさぎ時間にいる。
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単行本p.61

 うさとみきのらぶらぶうさぎせいかつをえがいたはかいりょくばつぐんのふぁいんあんどきゅーと詩集。単行本(新風社)出版は1996年2月です。


『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』(高原英理:編)より
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そうだ、昔発表した『うさと私』は、かわいいこと、キュートな何かに心奪われて書いた詩でした。私にとってキュートなものもまた生きる糧である。
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文庫版p.8


 『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』の巻末に収録されていた『うさと私』は衝撃的でした。ひたすら「うさかわいい」ということが書いてあるのです。詳しくはこちら。

  2015年05月14日の日記
  『ファイン/キュート 素敵かわいい作品選』(高原英理:編)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-05-14

 解説によると、これで「全編の四分の一ほどを抄出した」(文庫版p.345)とのことで、じゃ残り四分の三ほどは、いったいどんな内容なのか。まさか、この四倍もの長さの詩が、ひたすら、かわいい、かわいい、うさうさ、かわいい、だけ、ということは、さすがに、ないだろう、と。

 そういうわけで、現物を手に入れて読んでみたのですが……。結論から言うと、私は甘かった。甘かったんだ。


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「地味な兎ですが、ずっとつきあってください」
 誕生日に貰ったポストカードにはこう書かれていた。私は決意した。
 半月後、兎は私の右側に座っている。兎はよく寝る。ときどき起き出してはよく笑いよく泣く。

「何て呼べばいい?」
 兎はひどく考え込む。私は言う。
「『うさ』はどう?」
「うれし」
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単行本p.6


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 夜中に目が醒めると、隣に兎が寝ていた。嬉しかったが、眠いのでそのまま寝てしまった。

 夜中に目が醒めると、隣に兎がいなかった。悲しかったが、眠いのでそのまま寝てしまった。

 うさの頭に小さな塵。何度取ろうとしても指から抜けて頭にくっつく。うさが言う。
「ここが好きみたい」

 うさは「愛してる」と言わない。そのかわり、私の手をとって、「なかよし」と言う。

 魚の真似をするうさを捕まえる。ぴちぴち跳ねる。私は必死でしがみつき、うさの頬に、ちゅっ。
「麻酔」
 うさぐったり。
 でも、すぐに麻酔は切れて、またピチピチピチ。再び必死でうさの頬に、
「麻酔」
 ちゅ。
 うさようやくぐったり。でも口を離すとまたピチピチピチ。
「このうさかな、元気!」

 一緒に寝ころんでいるうさが、突然、
「巨大化」と言い、
「ずんずんずんずんずん」と迫る。
「わー、ウサラだー」私は慌てふためく。
「ずんずんずんずんずん」
「わー、ウサラだー」
「ウサラ、何もしないよぉ」
「ウサラ何するの?」
「寝てるだけ」

「うさ、もう、ダンゴムシ!」
 うさベッドに転がり込み、丸くなる。とても恥ずかしいことを思い出したとき。
「ダンゴムシ、他人と思えない。何か、怖いことやヤなことあると、あんなふうに丸くなってたい、うさ、前世、ダンゴムシだったんじゃないかな」
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単行本p.8


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 うさは自信がなくなるとすぐに自分のことをつまらないうさぎだと思うらしい。
「だめだよお、寝てばっかりのうさなんか、ただの丸顔の寝うさだよお」
 私は言う。
「あ! ただの丸顔の寝うさだ! 今までずっと探してたんだっ、やっとみつけた」
「うれし?」
「うれし!」
「きゅー!」
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単行本p.35


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「でも、もし、うさぎ村、行っちゃうときは、みき、ついて来ない?」
「行く行く」
「いいの? 兎になって、たんぽぽ食べて暮らすんだよ、それでいい?」
「うにゃ!」
「ずっと兎でいようか」
「うにゃ!」

「あのねー、うさぎ村はねー、実は、月にあるんだ。ほら」
 うさが空を指さす。満月の夜。

 うさと私の作った詩
  「うさぎ村」
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 いっぱいのうさうさ
 みきみきもいるよお
 いっぱいのうさうさ
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単行本p.12


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