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『デザインを科学する 人はなぜその色や形に惹かれるのか?』(ポーポー・ポロダクション) [読書(教養)]

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 最近の多感な女子高生は日本地図を見て、「北海道と九州だったら、北海道のほうがかわいいよね」などという。彼女たちの「かわいい」という評価、その根拠はいったいなんなのか? 彼女たちはなにに対して「かわいい」といっているのか? その正体を探るのは非常に興味深い。本作では無謀にも、その根拠や認知するしくみを科学的なアプローチによってひも解いていきたいと考える。(中略)人がデザインから受けるイメージや、なにに対して魅力を感じるかを解明しようと挑戦している。
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Kindle版No.7

 人間はどんな色や形に好感を持つのか。どのような配置からどのような印象を受けるのか。心理学、脳生理学、感性工学などの知見も駆使して、デザインの客観的「根拠」を探ってゆく一冊。新書版(ソフトバンククリエイティブ)出版は2009年3月、Kindle版配信は2014年12月です。


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 私がこのようなことに挑戦したいと思ったのは、いまから20年ほど前、デザイン教育に対する不信感をもったときからである。理由のないデザインの理屈を「これはこういうものだ」と押しつける。自分では納得しないままそれを覚えていく。これでは人の豊かなデザインの感性は育たないと感じた。人の感覚を大事にしたいからこそ、デザインを科学的な見地から、理論的に積み上げたいと思った。(中略)
 それからデザインの現場に生きてきて、多くの人がデザインに対する可能性を狭くしているのに気がついた。「センス」という名のもとに、明確な理由もなくほかのデザインを批判している現場もあった。後世の優秀な人材を育てるためにも、デザインを科学的にアプローチすることが大事なのではないかと思った。
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Kindle版No.203、204


 デザインの善し悪し、デザインから人が受ける印象。そういった、個人差が強く、曖昧で、数値化しにくいものを、何とかして客観的な法則として整理する。本書はそんな無謀とも思える目標に挑戦したものです。全体は5つの章から構成されています。


「第1章 デザインの認知」
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人の認知システムには、いくつかのおもしろい傾向がある。(中略)私たちの見ている映像は、脳がつくりだしたイメージを見ていることになる。私たちはついつい見ているものが「真実」と思ってしまいがちだ。しかし、それは間違いである。
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Kindle版No.59、60


 第1章では、目の仕組みから脳における視覚情報の処理まで、色や形の認知メカニズムを解説した上で、デザインに関わる認知の「癖」を紹介してくれます。人間には色型タイプと形型タイプがいる、右視野より左視野が優先される、図と地の識別法則、ストループ効果、色や大きさの恒常性、文脈効果、などなど。


「第2章 認知とイメージ」
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色の組み合わせや形の組み合わせは、合う合わないという手法で決めてはいけない(中略)デザインを考える場合、どう組み合わせると合うのかを考えるのでなく、どう組み合わせると、どういうイメージを発信するか、それを考えるのが大事なのである。
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Kindle版No.78


 第2章では「かわいい」「派手」「平凡」など人がデザインを見たときに受ける印象がどのようにして決まるのか、その法則を探ってゆきます。色のイメージ、配色から受けるイメージ、色と形の組み合わせから生ずるイメージ、などを具体的にまとめた後、応用として、ピクトグラム、道路標識、ロゴマーク、選挙ポスターなどを取り上げ、それぞれどのような狙いでデザインされているかを解説します。個人的には、選挙ポスターにおけるデザイン戦略の話が興味深かった。


「第3章 イメージの根拠を探る」
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 平面デザイン画を例に挙げて、アンケート調査による分析から「かわいい」「平凡な」「派手な」「お洒落な」という言語イメージとデザインの関係性を明らかにした。
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Kindle版No.


 あるデザインが、なぜ特定の印象を与えるのか。その根拠となる法則を様々なアンケート調査の結果から調べてゆきます。例えば、「かわいい」と感じる人が多いデザインには、以下のような共通の特徴があることが分かったそうです。

「図柄が整った形、整った配列をしている」
「図柄同士が重ならないほうがよい」
「図柄の大きさはさほど関係がない」
「特定の色よりはビビッド、ペールなどのトーンが重要」

 同様に「平凡」「派手」「お洒落」も分析してゆきます。曖昧な「センス」に頼らずにデザインを分析するための基本が分かります。


「第4章 人はなぜその色や形に惹かれるのか?」
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 デザインと人の好みの関係は簡単な方程式で表せるようなものではない。ところが細部や傾向に関しては、次第に明らかになっているものがある。たとえば、「人が好みやすい形状」「脳が大好きな形」などはわかってきている。(中略)
 ここではさまざまな研究結果やデザインの調査でわかってきた「人の好みとデザインの関係」について解説し、人が特定のデザインに魅了される法則について、色と形の視点からアプローチしていきたい。
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Kindle版No.144


 色の好みに関する性差や地域差、色彩調和による「心地好い色の組み合わせ」の法則、黄金比や白銀比といった形のバランス、「心地よい形状」の特徴、「脳がもっとも好む究極のデザイン」とはなにか。デザインと人の好みとの関係について探ってゆきます。


「第5章 デザインのパワー」
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最後の章では、いままで解説したさまざまなデザインの機能や、人の認知特性を応用したデザインを考える。
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Kindle版No.183


 記憶に残るデザインの法則、露出効果、ユーザビリティ効果、心地好いデザインのまとめ方、5種デザインの法則、シンプルなデザイン、視線の設計、そしてデザインに求められるもの。これまで解説してきた知見を用いて、どのようにして実際のデザインを作ってゆくかを考えます。


 というわけで、デザインの善し悪しをある程度まで客観的・定量的に考えるための基礎知識をまとめてくれた、デザイナー入門書、あるいはデザインの教科書というべき本です。

 デザイナーを目指す方はもちろん、身の回りにあふれている色彩と形の組み合わせにはどういう意図があるのか、なぜ特定の配色や形の組み合わせに好感を覚えるのか、どうしてグローバル企業のロゴはみんな青色なのか、そういったことが気になる方にお勧めです。