SSブログ

2014年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション] [年頭回顧]

2014年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション]

 2014年に読んだノンフィクションのうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2014年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 妖怪ブームの一年でしたが、妖怪まわりで非常に面白かったのが次の二冊です。

『ブラジル妖怪と不思議な話50』(野崎貴博)

『現代台湾鬼譚 海を渡った「学校の怪談」』(伊藤龍平、謝佳静)

 前者はブラジルで言い伝えられている怪異譚を収録した一冊ですが、何しろラテンアメリカの妖怪すげえ。その文化ギャップに愕然としたり、意外に身近な妖怪の親戚がいたり(例えばトイレのロイラさん)、どきどきしながら読みました。

 後者は台南の学生たちに対する聞き取りを中心としたリサーチにより、現代台湾における「学校の怪談」を、特に対日比較という観点から明らかにしていく本です。その微妙な距離感には興奮。

 妖怪とは別に、身近にある異界という点で次の二冊も興味深いものでした。

『池袋チャイナタウン 都内最大の新華僑街の実像に迫る』(山下清海)

『魔女の世界史』(海野弘)

 前者は、池袋駅北口に形成された「見えない中華街」、知られざる都内最大のチャイナタウンの歴史と現状を詳細にレポートしてくれる本です。やや内容が古くなっているので、続編あるいは更新版が望まれます。

 後者は、現代〈魔女カルチャー〉の起源と変遷を追った一冊。19世紀末に現れた新しい魔女のイメージが、フェミニズムやニューエイジ、近代オカルティズムとも連動しながら、70年代に新魔女運動(ネオペイガニズム)として花開き、今もなお〈ゴス〉文化を通じて息づいている様を要領よくまとめてくれます。いわゆる西洋近代オカルト史の本が、いかに男性中心視点で書かれてきたか痛感させられます。

 その他、次の二冊も良かった。

『うわさとは何か ネットで変容する「最も古いメディア」』(松田美佐)

『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門』(岩瀬昇)

 前者は、関東大震災当時の流言から現代のネット都市伝説まで、「うわさ」の流布について俯瞰した一冊。後者は石油の「埋蔵量」が時代とともにどんどん増えてゆくのはなぜか、という話題から、日本のエネルギー問題について語る本です。

 さて、翻訳本としては、まず次の二冊が素晴らしかった。

『バンヴァードの阿房宮 世界を変えなかった十三人』(ポール・コリンズ)

『スエズ運河を消せ トリックで戦った男たち』(デヴィッド・フィッシャー)

 前者は、偉大な業績を成し遂げながら、今では完全に忘れ去られてしまった人々の驚異と感動の実話集です。世界最長のパノラマ画で巨額の富を稼いだ者、シェイクスピアの未発見原稿を偽造した者、ニューヨークに空圧式地下鉄を敷設した者、地球空洞説、N線、青色光療法、シェイクスピア=ベーコン説、史上初の宇宙人ブームを巻き起こした男など。もう、目茶苦茶に面白い。

 後者は、北アフリカ戦線でロンメル軍団に対して連合軍が駆使した様々な偽装、カモフラージュ作戦を指導したステージ・マジシャン、「戦場の魔術師」ことジャスパー・マスケリンの伝記小説です。一応、実話ということになっていますが、あまりに面白すぎてちょっと信じられません。

 他に、次の二冊も感動的でした。

『カタツムリが食べる音』(エリザベス・トーヴァ・ベイリー)

『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』(デイヴィッド・ミーアマン・スコット、リチャード・ジュレック)

 前者は、難病で寝たきりになり絶望していた著者が、一匹のカタツムリと心を通わせ、その神秘に触れることで、生きる力を取り戻してゆくまでを描いた感動の手記。泣けます。

 後者は、アポロ計画におけるマーケティングとPRの実態を描いたノンフィクション。NASAはどうやって「人類を月に送り込む」というアイデアを納税者たちに途方もない高値で売り込むことが出来たのか。知られざる角度からアポロ計画の全貌に光が当てられる様には大興奮です。

 どういうわけか、犯罪まわりの本に収穫が多かった一年でした。特に次の二冊はお勧めです。

『食品偽装の歴史』(ビー・ウィルソン、高儀進:翻訳)

『万引きの文化史』(レイチェル・シュタイア)

 前者は、生産者、商人、消費者、政府、科学者、消費者運動家が、ときに闘い、ときに共謀しながら、作り上げてきた食品偽装の歴史を詳しく解説する一冊です。1820年代の英国、1860年代の米国、そして現代の中国。繰り返される食品偽装の根底には何があり、どうすれば対策できるのか。英国の著名フードライターが情熱を傾けて真摯に語ります。素晴らしい。必読。

 後者は、万引きという軽視されがちな犯罪について書かれた一冊。犯罪なのか、窃盗症(クレプトマニア)という病気なのか、それともカウンターカルチャー運動の一種なのか。様々な角度からこの犯罪を分析してゆきます。個人的には、万引き依存症の人々が語る生々しい肉声に大きなインパクトを覚えました。

 犯罪といえば、次の二冊も面白い。

『美術品はなぜ盗まれるのか ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』(サンディ・ネアン)

『世界が驚いた科学捜査事件簿』(ナイジェル・マクレリー)

 前者は、ターナー盗難事件の当事者が、盗まれた絵画を取り戻すまでの8年半にも及ぶ長い苦難を語る本です。さらに、換金が困難であるにも関わらず高名な美術品が盗まれるのはなぜか、また世間に広まっている「美術品窃盗団」のイメージがどれほど実態からかけ離れているか、なども丁寧に解説されます。

 後者は、科学捜査技術の歴史を紹介する一冊です。銃弾、指紋、微細小片、毒物、血液、そしてDNA。犯行現場に残されたものから被害者の身元や犯人を特定する技術がどのようにして発展してきたのかを、実際の事件ベースに紹介します。

 最後に、図鑑あるいは画集として次の一冊をお勧めしておきます。

『錯視芸術図鑑 世界の傑作200点』(ブラッド・ハニーカット、テリー・スティッケルズ)

 古今東西の錯視を利用した芸術作品から選び抜かれた200点の傑作を収録したフルカラー画集。最近流行りの「目も眩むような錯視図形」ではなく、あくまで芸術性を基準に選ばれた作品が集められており、その静かな美しさには圧倒かつ幻惑されます。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: