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『猫の西洋絵画』(平松洋) [読書(教養)]

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実は18世紀末から20世紀初頭にかけて、
見るものの心をとろかせ
抱きしめたくなるような
可憐で愛らしい猫の西洋絵画(以下、猫画)が
大量に描かれてきたのです。
ところが、現在の美術史は、
こうした猫画を評価することなく、
まるで存在しなかったかのようです。
本書は、
そうした美術史が忘却した
もう一つの猫画をご紹介し、
その可愛らしさを、愛くるしさを
堪能していただきたいのです。
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単行本p.6


 総勢270匹を超える猫が躍動する。現代の美術史から無視されてきた、知られざる西洋猫画の世界。18世紀末以降に描かれた「可愛い猫を主役とする西洋絵画」の数々を取り上げ、その魅力を堪能する画集。単行本(東京書籍)出版は2014年9月です。

 可愛い猫たちが、ちょこんと、あるいはどえーんと、ときにはぎっしりと、画面いっぱいに描かれた西洋絵画が大量に収録された画集です。猫好き読者ならページをめくっているだけでうっとり。猫いいですよ猫。

 著者によると、現代の美術史からは、これらの猫画はほぼ完全に黙殺され、「なかったこと」にされているといいます。なぜ?


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本書のような、あまり知られていない猫の西洋絵画を集めた書籍は世界的に見ても珍しいと思います。
 なぜ、有名でない猫の絵を取り上げたのか不思議に思われた方も多いかもしれません。しかし、私からすると逆に、何故、18世紀以降、20世紀初頭まで、ここまで数多く描かれてきた猫の絵が、全く評価されず、西洋美術史によって、いわば黙殺されてきたことのほうが不思議なのです。
  (中略)
こうした猫画が流行していたこと自体、西洋美術史の教科書や解説書、さらには美術事典にさえほとんど掲載されていません。まるで、可愛い猫画など世の中に存在しなかったかのようなのです。
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単行本p.126、138


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批判を恐れずにいえば、猫が主役で可愛い絵画は、現代の美術史においては黙殺され、醜い猫が片隅に描かれた作品が評価されているということなのです。
 これには、美術史のパラダイムに関わる大きな2つの力が働いてきたからだと考えています。その一つが、キリスト教による猫とその文化への迫害であり、もう一つが、モダニズムによるアカデミズムへの排撃です。
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単行本p.127


 キリスト教による猫文化の迫害、モダニズムによるアカデミズム芸術の批判と解体。こうした歴史的背景によって、「可愛い猫」を描いた絵画は無視されてきたのだそうで、それはとても悲しい。

 猫画の不幸な歴史を象徴しているようにも感じられるのが、ルイス・ウェインの作品。写実性を残しながら猫を擬人化したユーモラスな作品を描いた画家ですが、やがて生活苦から精神に異状をきたし、精神病院で亡くなったといいます。

 本書には、精神を病んでから描かれた作品も収録されているのですが、これがもう、多大なるインパクト。最初はリアルだった猫の絵が、次第に猫をモチーフにしたシンボルのようになってゆき、色も原色多用の幻覚じみてきて、やがてカラフルな抽象図形へと還元されてゆく。精神病の進行をイメージさせずにはいられないその変化は、劇的です(ちなみにウィキペディアの解説によると、精神病学の教科書でもそのように説明されることが多いものの、そういった記述は不正確で誤りだとのこと。直感と印象だけで分かった気になってはいけないようです)。

 猫画のそれぞれに画家の生い立ちが解説されており、こうした不幸はあちこちに散見されます。ただ、本書に収録されている猫画の猫たちが可愛いので、眺めているだけでほのぼの幸福感がわき上がってくるのが幸い。

 というわけで、まず魅力的な猫の絵に感激し、解説を読んで感心するという、二度おいしい素敵な猫画集です。


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