SSブログ

『傑作! 物理パズル50』(ポール・G・ヒューイット、松森靖夫:編) [読書(サイエンス)]

 米国の物理教育者向け雑誌"The Physics Teacher"誌の名物連載"Figuring Physics"から、よりすぐりの50問を厳選した傑作物理パズル集。ブルーバックス新書(講談社)出版は2011年3月です。

・粒の大きさが色々の、たくさんのイチゴが詰まった箱があります。この箱を揺らし続けると、大きなイチゴは沈むでしょうか、浮かぶでしょうか、それとも小さなイチゴと混ざってゆくだけでしょうか?

・家の屋根の斜面にバケツが置いてあります。このバケツに水を入れてゆくと、どこまで水が入った時点で屋根を滑り落ち始めるでしょう?

・途中で細くなっているパイプ内を気泡が混じった水が流れています。水流がパイプの太い部分から細い部分に入ると気泡の大きさはどう変化するでしょう?

・春分から秋分までは約186日あるのに、秋分から春分までは約179日しかありません。この約7日の差はなぜ生じるのでしょうか?

・とても暑い日にエアコンで冷房した家を30分ほど留守にすることになりました。エアコンをつけっぱなしにして出かけるのと、消して出かけてゆき戻ってから元の温度まで下げるのと、どちらが電力の節約になるでしょうか?

 こんな設問がぎっしり詰まった素敵な本です。いずれも初等物理の知識だけで解けますから、理系文系問わず高校を卒業された方ならどなたでも挑戦できるというのも素晴らしい。

 でも、本当の魅力は、直観だけでは解けないこと。回答に驚きがあること。そしてその驚きが物理の理解につながること。例えば、こんな問題をご覧ください。

・ここに木材と鉄の塊があります。計測したところ、どちらも1トンでした。では質量が大きいのはどちらでしょうか?

・乾燥した空気と湿気の多い空気では、どちらの密度の方が高いでしょう?

・ふたを開けたガラス瓶の中で、長さの異なる二本のろうそくが燃えています。ここで瓶にふたをすると、先に炎が消えるのはどちらのろうそくでしょう?

・2個の同じ風船を空気で膨らませて、天秤の両側につるして水平に釣り合わせています。左側の風船を針でつついて割ったら、天秤の釣り合いはどうなるでしょう?

・二軒の同じ家があり、片方は白塗りで、他方は他の色に塗られています。他の条件は全く同じとします。白塗りは太陽光をよく反射するので、夏の室温は白塗りの家の方が低く(涼しく)なり快適です。では、冬の室温はどうでしょうか?

・サイダー(炭酸水)が詰まった同じ缶を斜面の上から転がしたら同じ早さで転がります。では片方を振って中身を泡立ててからもう一度やると、今度はどうなるでしょうか?

 直観に従って答えると、たぶん間違えます。

 答を見て驚き、そして解説を読んで納得する。浮力、重力、摩擦力、対流、熱容量、放射熱、ケプラーの法則、ベルヌーイの法則。テストが終わるやいなや忘れていた初等物理の知識が、活き活きと蘇ってくる瞬間は実に感動的です。

 量子論だ、相対論だ、自由落下状態だ、などと難しい話を持ち出さなくても、ごく初歩的な物理法則とありふれた日常的なシチュエーションから小気味よく直観を裏切ってくれる意外な現象を引き出す腕前には感服する他はありません。

 本書収録作品のなかで、まったくの偶然ながら、最もタイムリーな話題を扱ったパズルは、おそらく次の設問。

・ここに放射性物質を含んだ3枚のクッキーがあり、それぞれアルファ線、ベータ線、ガンマ線を放出しています。あなたはどれか1枚を食べ、1枚をポケットにしまったままとし、1枚をずっと手に握っていなければなりません。どうすれば健康被害を最も少なくすることが出来るでしょうか?

 時節柄あまりのインパクトにのけぞりました。でも、いくら新聞やTVの解説で「放射線の透過性」について聞いてもさっぱり頭に入らなかった私でも、この問題について考え、何度も想像被曝してみたおかげで、放射線種の違いが「身に沁みて」よく分かりました。教育効果は抜群です。

 というわけで、楽しみながら物理の基本が身につく素晴らしいパズル集です。物理が好きな方はもちろんですが、むしろ物理に苦手意識を持っている方にこそ読んで楽しんで頂きたいと思います。

 学校の授業に活用するというのも素敵なアイデアかも知れません。というかこれらのパズルは物理教育者向け雑誌に掲載されたわけで、それが本来の使い方なのでしょう。こういうパズルを出題してみんなで議論する、というような授業であれば、物理嫌い、理科離れになる学生は減るのではないでしょうか。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: