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『通勤電車でよむ詩集』(小池昌代:編著) [読書(小説・詩)]

 古今東西の名詩から、通勤電車のなかで読める作品を厳選したアンソロジー。新書版(NHK出版)出版は2009年9月です。

 ポケットにこそっと入れておけるコンパクトな新書版に40篇をこえる名詩が収録されており、しかもほとんどが短い作品(2~3ページ)なので、次の駅で降りるまでにもう一作、という感じで読むことが出来る、そんな詩集です。

 でも中身は本格派。谷川俊太郎、北原白秋、中原中也、宮澤賢治、萩原朔太郎、ディキンソン、パウル・ツェランなど、有名詩人たちの名作のうち、それほど難解ではない作品、一読して何が書かれているか理解でき、どこが感動ポイントか分かりやすい作品、が選ばれているようです。むろん例外はあります。

 お恥ずかしながら、半世紀近く生きてきてほとんど詩というものを読んだことがない私なので、収録作のほぼ全てがはじめて出会う作品ばかり。詩の入門書として読ませて頂きました。

 正直にいうと、半分くらいは「どこがいいのか分からない」という感想で、じんときた作品が5、6作くらい。そして、「これは私のための詩だ」と感じたのは1作だけでした。その一作は、四元康祐さんの『言語ジャック 1新幹線・車内案内』です。

    今日も新幹線をご利用くださいまして、
    どうも感情面をご理解いただけなくて、

    有り難うございます。
    情けのうございます。

 で始まる作品で、定型的な新幹線の車内案内に自暴自棄っぽい毒舌を寄り添わせ、ときどき韻を踏んだり踏まなかったり、最後は合わせる努力を放棄して自爆。というか詩で爆発オチですか。実に素晴らしい言葉のファイプレーというか珍プレーなんですが、数々の名作を差し置いて何でこれに一番感動したのかは自分でもよく分かりません。

 選者の小池昌代さんが書いた短い解説が作品毎についており、どういう風に鑑賞すればいいのかを教えてくれるのも助かります。ときどきナイスなツッコミがあるのも素敵。

 例えば、女が男をなじる詩『昨日いらつしつて下さい』(室生犀星)について「書きながらこの詩人は、言われた身になって、歓びを覚えていたんじゃないか」(新書版p.130)と指摘したり、家族愛の醜悪さを書いた詩『家』(石垣りん)について「こんな詩人と暮らしていた、義母とか弟、義弟、そして父親。彼らはどんな思いでいたのだろう」(新書版p.144)と考えたり。解説を読むだけでも面白い。

 巻末には、全作品の作者紹介と出典となる詩集が示されており、本書を読んで気に入った作品があれば、それが収録されている詩集を入手できるようになっています。本書をきっかけに、これから詩集にも手を出してゆこうと思います。


タグ:四元康祐
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