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『DEDICATED 2016 DEATH 「ハムレット」』(中村恩恵、首藤康之) [ダンス]

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中村「自分のパートもそうですが、私はこれまで振付家として『首藤さんだから』という創り方をしたことはないんです。ひとりの男性ダンサーとしてニュートラルに捉えていた。でも今回はそれぞれの個性を活かしていこうと思っています。振付作品の中にダンサーがいるのではない。画家が自画像を描くように、首藤さんがハムレットを通して自画像を描く。その手伝いを、私は振付でしている感じです。きわめて主観的な作り方で、初めての試みです」

首藤「ただそれを、恩恵さんははじめからバーンとイメージされていたんです。すごいですよね。いきなり『ここを美術館にして、肖像画を置きましょう! それがハムレットだし首藤さんです!』と言い出したときには、全く意味がわかりませでしたけど(笑)」
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「インタビュー 首藤康之/中村恩恵」より


 2016年10月2日は、夫婦でKAAT神奈川芸術劇場に行って中村恩恵さんの振付・演出による新作公演を鑑賞しました。DEDICATEDのシリーズで、今回のテーマは”DEATH”(死)。プロットとしてシェイクスピア『ハムレット』を使い、幻想的な空間を作り上げます。首藤さんがハムレットを、中村さんがオフィーリア(恋人)とガートルード(母)を二役で踊り、七人の俳優がアンサブルをつとめる、75分の公演です。


[キャスト他]

演出・振付: 中村恩恵
出演:首藤康之、中村恩恵、白井晃(声)
アンサンブル: 末武拓也、紀村龍、吉家翔琉、松葉洋人、森本絢斗、小山勝士、希志真ロイ


 美術館に見立てられた舞台上には、『ハムレット』の登場人物の肖像画が天井から吊り下げられています。額縁は全部で10枚ありますが、肖像画が入っている大きな額縁は6枚だけ。ハムレット関係者(母、父、伯父)、オフィーリア関係者(本人、父、兄)。つまり作中で死ぬ者ばかり。ハムレットの父はすでに死んでいるので、骸骨の姿で描かれています。

 ちなみに小さな額縁3枚は空で、原作で死なずにすむ人たち(友人とか)はこの舞台では用なしということでしょう。最後に1枚だけ空の大きな額縁がありますが、誰の予約席かは明らか。以上、KAAT芸術監督の白井晃さんがハイテンションで紹介してくれます。

 これら10枚の絵や額縁が、天井から降りてきたり、昇っていったり、肖像画がドアのように開いて背後から登場人物が出てきたり、オフィーリアがぶら下がって投身したり、登場人物の心理状態やストーリー展開を視覚的に表現したり、と大活躍します。美術館だけに。

 冒頭、首藤さんと中村さんが「愛のデュエット」(公演プログラムより)を踊るのですが、ここがもう素晴らしくて。オフィーリアの霊に導かれ、首藤さんがハムレットの世界に入り込んでゆくのと並行して、観客もぐぐっと舞台に引き込まれます。

 動きの印象はこれまでのDEDICATEDのシリーズに比べても際立ってバレエ的。まるでバレエ版『ロミオとジュリエット』におけるバルコニーの場を連想させるような美しくドラマチックなデュエットが展開します。当然ながら、二人ともバレエを踊っても凄い。なにしろ凄い。

 バレエ『ロミオとジュリエット』といえば、冒頭の「愛のデュエット」と対をなすような後半の劇的なデュエット(ハムレットがオフィーリアの遺体と踊る「墓場」のデュエット)も、いかにもそういう感じで、これが異様に盛り上がります。「愛のデュエット」と同じ振付も繰り返され、涙腺にこみあげてきます。マーラーのアダージェットががんがん流されるし。


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首藤「名曲はそれ自体に固有のイメージが付いている場合も多く、使うのに勇気が要るんですが、今回は名曲も否定しません(笑)」
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「インタビュー 首藤康之/中村恩恵」より


 というわけで、シェイクスピア劇のファンはともかく、バレエファンなら大満足する感動的な舞台でした。個人的には、ハムレットの苦悩を表現するところで、首藤さんがサングラスをキメて、アメフト選手みたいにドクロ抱えて走り踊るという、コミカルな演出がお気に入り。アンサンブルも軽快なリズムに乗せて"To be, or not to be"と繰り返し叫ぶし。



タグ:中村恩恵
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『Cross Transit』(北村明子) [ダンス]


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命は儚く、永遠はない。
場所場所に生き、去っていく。その場所を去っていく。
人と自然の空間、記憶だけを遺して。
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「作品の中でキム・ハクが語っているテキストの和訳」より


 2016年10月1日は、夫婦でシアタートラムに行って北村明子さんの公演を鑑賞しました。カンボジア、ミャンマー、マニプール(インド)など各地の文化リサーチに基づいて制作された、五人のダンサー(+北村明子さん)が踊る75分の舞台です。

 インドネシアとの共同制作プロジェクト『To Belong』に続く作品。今作はカンボジアの芸術団体「Amrita Performing Arts Center」の支援を得ており、またカンボジアの写真家とダンサーが出演します。


[キャスト他]

振付・演出: 北村明子
ドラマトゥルク・ビジュアルアートディレクター: キム・ハク(Kim Hak、カンボジア)
音楽ディレクター: 横山裕章(agehasprings)
振付・出演: 柴一平、清家悠圭、西山友貴、川合ロン、チー・ラタナ(Chy Ratana、Amrita Performing Arts、カンボジア)


 舞台の周囲をぐるりと取り巻いているのは、白いダンボール箱を積み重ねて作られた白い壁。箱はわざとでこぼこになるように角度を微妙に変えながら積まれており、そこに映像が投影されると、まるでたくさんの写真を並べたように見えます。

 写真家キム・ハクの語り(後半には本人によるライブ肉声も)に導かれ、白い壁に投影された様々な写真を背景に、五人のダンサーが踊ります。廃墟、失われたものの記憶、死、そして写真。静寂で霊的な空間から、格闘技のように鋭く宙を切る上半身の動きが印象的な激しいダンスまで、緩急さまざまに繰り出される場面は観客の心をとらえて離しません。

 白い壁にはときに「いない人物」の影が映り、また五人以外の人物が立っていたりする(もちろん北村明子さんなのですが、うす暗いのではっきりとは分からない)など、死んだ者、失われたもの、その霊的記憶のようなものを連想させるシーンには、ちょっと忘れがたいものがあります。

 個人的には、格闘技の演舞を思わせる流れるような手の動きが、これが好きで好きで。チー・ラタナさんの動きと発声には、インパクトと説得力を感じました。あと個人的には、動きだけで場の空気を自在にあやつるような川合ロンさんの器用さ、西山友貴さんの躍動感など、ぐっときました。



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