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『SFマガジン2016年12月号 VR/AR特集』(ケン・リュウ、他) [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2016年12月号には、VR/AR特集として、仮想現実や拡張現実を扱った短篇5篇が掲載されました。また、新・航空宇宙軍史、製造人間ウトセラ、裏世界ピクニック、それぞれのシリーズ最新作も掲載されました。


『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』(柴田勝家)
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 中国南部、雲南省とベトナム、ラオスにまたがるところに、VRのヘッドセットをつけて暮らす、少数民族スー族の自治区がある。
 彼らは生まれた直後にヘッドセットをつけられ、仮想のVR世界の中で人生を送る。(中略)彼らにとってはVR空間こそが現実であって、現実世界というものは我々にとっての夢と同様のものに過ぎない。
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SFマガジン2016年12月号p.25、29

 仮想空間のなかで生きる人々の文化と世界観を紹介する、v文化人類学SF。


『シミュラクラ』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
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 父は、現実を捕捉し、時を止め、記憶を保存する事業に携わっていると主張している。だが、かかるテクノロジーの実際の魅力が、現実を捕捉することにあったためしはない。(中略)現実を凍結させたいという願望は、現実を避けることなのだ。
 シミュラクラはこうした傾向の最新かつ最悪の具現化だ。
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SFマガジン2016年12月号p.69

 仮想現実のなかで不倫をしていた父親を許せない娘。母が死んだとき、父を許し和解しようとしたのだが……。「仮想現実テクノロジーによる現実逃避という現実」に向き合った短篇。


『キャラクター選択』(ヒュー・ハウイー、大谷真弓:翻訳)
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「ゲームの目的はスコアを稼ぐことだって、わかってるよな?(中略)君は一点も取っていないじゃないか。そんなの……どうかしてる」
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SFマガジン2016年12月号p.78、79

 夫が留守の間、こっそりオンラインシューティングゲームをプレイしているのがばれた妻。夫はむしろ喜んで、プレイの様子を見せてくれと頼む。驚いたことに、それは一人も敵を殺すことなく激しい戦場を駆け抜けるという超高難度プレイだった。だが、最初のステージすらクリアしないで何度も何度も再挑戦してきた妻は、いったい何を目指しているのか。ラスト一行の皮肉が痛烈なゲーム小説。


『ノーレゾ』(ジェフ・ヌーン、金子浩:翻訳)
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電波塔の森から、毎日、毎夜、四六時中、世界が放送されてる。おれは発信し、受信して、一体となってる。想像してみろ、亀裂も、輝点も、ひび割れも、汚れもないおれを。(中略)もっとピクセルが必要 そうとも もっとピクセルが必要、もっともっとピクセルが……
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SFマガジン2016年12月号p.87、88

 視覚インプラントによって誰もがプロジェクションマッピングされた現実を生きている時代。解像度こそ経済格差。もっと高い画素数を、より解像度の高い現実を、もっとピクセルを。貧しい者は低解像度現実を忘れるためにハイレゾドラッグに走る。だが全てを失ったとき、そこには編集もプロジェクションもされてないむき出しのノーレゾ現実が立ち現れる……。場面ごとの解像度に合わせて文体や表現が変わるなど、今や懐かしいサイバーパンク風の短篇。


『あなたの代わりはいない』(ニック・ウルヴェン、鳴庭真人:翻訳)
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「われわれが作られたのはたった一つのものを求めるため。真実の愛だ」
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SFマガジン2016年12月号p.106

 この世はすべて幻、人生は偽り。どんな豪華な料理も、唇をつけた途端に消え失せてしまう。でも、それなら愛は? 真実の愛も、手を触れれば消えてしまうの?
 永遠のハーレクインロマンスを繰り返す仮想世界を舞台としたベタ甘vロマンス短篇。


『航空宇宙軍戦略爆撃隊〈前篇〉』(谷甲州)
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 これは骨抜きではなく、悪質な手抜きだとさえ思った。行動計画に記されていたのは、現実を無視した作戦でしかなかった。それにもかかわらず行動計画の作成者は、作戦成功の可能性が非常に高いと評価していた。
 しかし原案を作成した早乙女大尉には、ただの誤魔化しとしか思えなかった。
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SFマガジン2016年12月号p.195

 第二次外惑星動乱を予想し、何年も前から警告していた航空宇宙軍の早乙女大尉。だが警告は無視され、作戦行動立案も骨抜きにされ、さらに非武装の探査船を急遽改造した特務艦イカロスの艦長を命じられる。SFマガジン2016年8月号に掲載された『イカロス軌道』に続く、新・航空宇宙軍史シリーズ最新作。


『最強人間は機嫌が悪い』(上遠野浩平)
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「彼は僕に用があると?」
「ええ。なんの用かはわかりません。我々としては、あなたには極力危険なことには関わってもらいたくないのですが――」
「仕方ないよ、世界最強の男がお呼びなんだからね。誰にも逆らえないさ」
 ウトセラはそう言って、くすくすと笑った。
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SFマガジン2016年12月号p.211

 世界中の軍事力を投入しても傷一つつけることのできない最強人間、フォルテッシモ。彼は各国の指導者たちを人質にした上で、統治機構の製造人間ウトセラを呼び出す。二人は微妙にいらだつ会話を続けるが……。SFマガジン2016年6月号に掲載された『双極人間は同情を嫌う』に続く、シリーズ最新作。


『裏世界ピクニック 八尺様サバイバル』(宮澤伊織)
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 困惑して目をしばたたいたとき、不意に、自分が掴んでいるのが鳥子の腕じゃないことに気付いた。
 八尺様だった。
 私は八尺様の生腕を掴んでいるのだ。
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SFマガジン2016年12月号p.228

 危ういところで「くねくね」を倒し、それぞれに特殊な力(見る能力、触る能力)を手に入れた二人。再び裏世界に向かった彼女たちが出会ったのは、一歩ごとにボルトを投げてはアノマリーの有無を確認しながら〈ゾーン〉を探査する、初代『S.T.A.L.K.E.R.』プレーヤーみたいな男だった。ようやく目的地にたどりついた三人を、「くねくね」に続く2ちゃん発ネットロア妖怪「八尺様」が襲う。SFマガジン2016年8月号に掲載された『裏世界ピクニック くねくねハンティング』(宮澤伊織)に続く、シリーズ最新作。



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