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『Cross Transit』(北村明子) [ダンス]


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命は儚く、永遠はない。
場所場所に生き、去っていく。その場所を去っていく。
人と自然の空間、記憶だけを遺して。
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「作品の中でキム・ハクが語っているテキストの和訳」より


 2016年10月1日は、夫婦でシアタートラムに行って北村明子さんの公演を鑑賞しました。カンボジア、ミャンマー、マニプール(インド)など各地の文化リサーチに基づいて制作された、五人のダンサー(+北村明子さん)が踊る75分の舞台です。

 インドネシアとの共同制作プロジェクト『To Belong』に続く作品。今作はカンボジアの芸術団体「Amrita Performing Arts Center」の支援を得ており、またカンボジアの写真家とダンサーが出演します。


[キャスト他]

振付・演出: 北村明子
ドラマトゥルク・ビジュアルアートディレクター: キム・ハク(Kim Hak、カンボジア)
音楽ディレクター: 横山裕章(agehasprings)
振付・出演: 柴一平、清家悠圭、西山友貴、川合ロン、チー・ラタナ(Chy Ratana、Amrita Performing Arts、カンボジア)


 舞台の周囲をぐるりと取り巻いているのは、白いダンボール箱を積み重ねて作られた白い壁。箱はわざとでこぼこになるように角度を微妙に変えながら積まれており、そこに映像が投影されると、まるでたくさんの写真を並べたように見えます。

 写真家キム・ハクの語り(後半には本人によるライブ肉声も)に導かれ、白い壁に投影された様々な写真を背景に、五人のダンサーが踊ります。廃墟、失われたものの記憶、死、そして写真。静寂で霊的な空間から、格闘技のように鋭く宙を切る上半身の動きが印象的な激しいダンスまで、緩急さまざまに繰り出される場面は観客の心をとらえて離しません。

 白い壁にはときに「いない人物」の影が映り、また五人以外の人物が立っていたりする(もちろん北村明子さんなのですが、うす暗いのではっきりとは分からない)など、死んだ者、失われたもの、その霊的記憶のようなものを連想させるシーンには、ちょっと忘れがたいものがあります。

 個人的には、格闘技の演舞を思わせる流れるような手の動きが、これが好きで好きで。チー・ラタナさんの動きと発声には、インパクトと説得力を感じました。あと個人的には、動きだけで場の空気を自在にあやつるような川合ロンさんの器用さ、西山友貴さんの躍動感など、ぐっときました。



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