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『台灣民間故事』(陳千武、保坂登志子:翻訳) [読書(教養)]

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 この『台灣民間故事』は、陳千武が1984年に出版した児童文学著作の中の一冊です。
 台湾民間伝説を主材として書いたもので、児童を主要な読者対象にするつもりでありましたが、一般成人の方にも読んでいただきたいという意図もあったのではないかというのが私の知る所です。(中略)
民間伝説は台湾各地に及ぶので、文学的興味の他に、台湾によく旅行される方等にもその土地にまつわる話は興味深いのではないでしょうか。
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 英雄伝説、動物寓話、武術の達人、不思議な仙人の話など、台湾各地に伝わる民間伝承を集めた一冊。単行本(リーブル出版)出版は2015年3月です。

 児童向け昔話集というから、「むかしむかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが」式の物語かと思ったら、そんなぬるいものではありませんでした。


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 その頃、オランダはヨーロッパの強国であり、ジャワを占領して植民地とし、東方では貿易の利益を搾取し、だんだんと北方に進出していました。1622年6月、澎湖の占領を開始し、媽宮(馬公)城と多くの砲台を建設しました。しかしその2年後に、福建の巡警南居益が戦船40艘と2000以上の兵を率いて討伐しました。オランダ人は澎湖を引き揚げ、また台湾南部の安平海岸に回って来ました。
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単行本p.12


 多くの話が、こうした歴史教科書レベルの記述から始まります。娯楽や教訓より何よりもまず、子供たちに台湾の歴史を伝えよう、という意志の強さを感じます。

 内容も、「オランダ人がどのようにして台湾原住民を騙して土地を奪ったか」「鄭成功はいかにして原住民の反乱を鎮圧し、漢民族による台湾支配を確立したか」といった話が多くなっています。

 英雄譚もこんな感じだったり。


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どうしたことか防衛線を出た三人は幾日経っても戻って来ませんでした。救援兵も見えず、敵兵の包囲線はいよいよ人数を増していき、もう密林を逃げ出すチャンスもありませんでした。林将軍と兵士たちは皆命がけでしたが、食糧を食べ尽くし、水もなくなり、気力も失せ、全員密林の中で餓死しました。
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単行本p.131


 動物寓話もありますが、動物を助けたら恩返ししてくれた、といった甘い話ではなく。


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 ある日、猫は鼠兄弟たちに言いました。
「わしがお前さんたちに代わってお経を唱えてやろう。お前さんたちがわしのお経をよく聞けば、災難や不幸から免れることができるのだよ」
(中略)
小さいお友だち、わかりますか? 猫は首に数珠をかけていましたね。数珠は仁慈、つまり情け深い心を表すものです。ですから数珠をかけた人は、生きものを殺したり残酷なことをするはずがありません。しかし猫が本性を変えることは絶対にありません。猫が鼠を捕まえて食べるのは本性で、改めるのはとても難しいことなのです。
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単行本p.10、11


 あきらかに「統治者がどんなに“自分は徳が高くて慈愛に満ちている”と宣伝しても、決して騙されてはいけません。権力者は人民をむさぼり食うもので、その本性を変えることは絶対にないのです」ということを、子供たちにきっちり教えてくれるのです。

 他に「相手がインチキをしていると裁判で訴えたものの、相手は知事(判事)との間で取引をしていたらしく、判決は覆りませんでした」とか、「冤罪で逮捕された青年が、自分は名門の家柄だと嘘をついたおかげですぐに釈放されました」とか、「“三銭で団子食べ放題”の店で、あえて一銭で団子2個だけ買った青年が、その資質を認められ、大会社の会計士になって出世しました」とか、何と言うか、色々と大変だなあ。

 武術の達人が微動だにしないまま相手を倒す話とか、瓦飛ばしの名人が瞬く間に寺院を積み上げてしまう話とか、楽しい話もあります。育ての母と産みの母が子供の親権を争ったとき、両側から子供の手を引いて決めさせた話とか、日本でもよく知られている話も。

 個人的に最も気に入ったのは、こんな話。ある金持ちが、悪行の限りを尽くした後にふらりと旅に出て、通りすがりの女性に「これから私がどうするつもりか当ててみなさい。当たったらこのお金をすべてあげましょう」と話しかける。女性は「死ね」と吐き捨てるが、金持ちは「お見事」と讃え、所持金をすべて彼女に渡し、その後に首をくくった。

 というわけで、全体的にシビアな話が多く、こういう昔ばなしを聞いて育つ台湾の子供たちは、おそらく甘ったれた人生観は持たないのだろうなあ、と思いました。


タグ:台湾
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