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『SF宝石2015』(上田早夕里、他) [読書(SF)]

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未来の風を感じろ!
2年前に“復活”した「SF宝石」が満を持して再登場。
新企画〈ショートショートの宝箱〉にも大注目。
もちろん全編豪華書き下ろし!
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 すべて新作読み切り短篇20篇を収録した「SF宝石」2015年版です。単行本(光文社)出版は2015年8月。

[収録作品]

『アステロイド・ツリーの彼方へ』(上田早夕里)
『あるいは土星に慰めを』(新城カズマ)
『最後のヨカナーン』(福田和代)
『地底超特急、北へ』(樋口明雄)
『親友』(中島たい子)
『伯爵の知らない血族(ヴァンパイア・オムニバス)』(井上雅彦)
『輪廻惑星テンショウ』(田中啓文)
『五月の海と、見えない漂着物(風待町医院 異星人科)』(藤崎慎吾)
『架空論文投稿計画(あらゆる意味ででっちあげられた数章)』(松崎有理)
『サファイヤの奇跡』(東野圭吾)
〈ショートショートの宝箱〉
  『泥酒』(田丸雅智)
  『ある奇跡』(弐藤水流)
  『生き地獄』(井上剛)
  『聖なる自動販売機の冒険』(森見登美彦)
  『蛇の箱』(両角長彦)
  『虫の居所』(荒居蘭)
  『母』(井上史)
  『闇切丸』(江坂遊)
  『辺境の星で(トワイライトゾーンのおもいでに)』(梶尾真治)
  『新月の獣』(三川裕)


『アステロイド・ツリーの彼方へ』(上田早夕里)
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 メインベルト彗星から無数の微生物が宇宙空間へ撒き散らされるように、バニラもまた、アステロイド・ツリーの彼方、遥か遠くの惑星へ向けて旅立っていった。
 僕は、それを甘い感傷に彩られた記憶として心に留めるようなーーそんな人間にはなりたくないと思っている。
 生命とは何か、知性とは何か。
 その問いに対する好奇心と探究心を満たすために、僕たち人類が何をしたのか、いつまでも覚えておくつもりだ。
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単行本p.42

 テレプレゼンス技術により、地上にいながらにして宇宙探査が可能な時代。語り手は「宇宙探査機搭載用AIの世話」という仕事を引き受ける。見た目は猫そっくりのロボットの形をしたAI「バニラ」と次第に打ち解けてゆく語り手だが、バニラという存在には隠された秘密があった……。
 SFを使って「人間とは何か」を切実に問い続けてきた作家が、「人間はなぜ“人間とは何か”を切実に問い続けるのか」を問う。収録作品中唯一と言ってよいハードSF作品。


『あるいは土星に慰めを』(新城カズマ)
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 わたしたちは二つの世界に生きていた。《夢》で《実感》しているカノープス周回軌道上の経験と、この地球という小さな《惑星》上の日常。どちらも等しく大切なもの。(中略)いずれのかけらも《実感》のともなった現実だった。それがわたしたちの日常だった。たとえ複数ではあっても。そして、どちらの日常も永遠に続くと思われた。
 もちろん続くはずがなかった。
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単行本p.60、61

 りゅうこつ座アルファ星・カノープス。地球から309光年離れた恒星系にいる異星種族と、地球で生活する平凡な高校生、二つの人生を生きる若者たち。同じ体験をしている仲間で小さなサークルを作り、《夢》について語り合う彼らは、しかし二つの世界の相互作用について分かっていなかった……。日渡早紀『ぼく地球』をベースにした青春SF。


『地底超特急、北へ』(樋口明雄)
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この列車が、東京から札幌の間、およそ900キロメートルの距離を貫通し、地上から平均150メートルの深さという大深度地下トンネルを、それも最高時速880キロというスピードで走るためだ。
 夢のスーパーリニア、地底超特急〈さくら〉。本日はその、初の公開試乗会であった。
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単行本p.109

 スパイラル型電磁誘導システムで浮上走行する最新式の超特急に乗り込んだ新聞記者。最新技術により何の問題もなく列車は目的地まで到着するはずだったが……。何しろタイトルからして「ウルトラQ」なので暴走必至。まさかのゾンビパニックものへと。


『聖なる自動販売機の冒険』(森見登美彦)
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荒れ果てた屋上で私は自動販売機におずおずと触れた。この自動販売機こそ、人類に次なる一歩を促すために遣わされた2015年宇宙の自販機。特許事務所職員たるこの私が宇宙的存在へシフトするときだ。坂本龍馬風に言うなら、人類の夜明けぜよ。
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単行本p.226

 残業中に屋上に出た語り手は、謎の自動販売機を発見する。それは人知を超えたオーバーテクノロジーの産物、それが証拠に「チェリオ」を売っていたりするのだ。見よ、SFの夜明けを。
「未来的な技術を結集して『きつねうどん』を出すなんて、人類って可愛いなあと思う」(単行本p.229)。


『輪廻惑星テンショウ』(田中啓文)
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「この星にも探偵はいるが、浮気調査、素行調査が専門の連中だし、もちろん警察もあるが、霊界の捜査は彼らの手に余る。きみへの依頼は、私を殺そうとしている霊魂がいったいだれのものなのかを突きとめる、ということだ。よろしく頼む」
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単行本p.349

 限られた数の霊魂が輪廻を繰り返している惑星テンショウ。探偵である語り手はそこで霊界捜査の依頼を受ける。何しろ霊界捜査なので、犯人も幽霊、探偵も幽霊、ということで、じゃ、よろしく、えっ、でもどうやって霊界に行けば、パーンッ、ばたっ。
 SF読者からもミステリ読者からも距離を置かれそうなSFミステリ。


『五月の海と、見えない漂着物(風待町医院 異星人科)』(藤崎慎吾)
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もし、この赤ん坊も僕とそっくりに成長したら、どうなるのか。トモヒコくらいになって、同じように分裂したら、また赤ん坊が生まれるのか。そして、その赤ん坊がやっぱり僕にそっくりだったら……。
 無限に自分が増えていった場合、何が起きるかなんて知りようがなかった。とくに問題はないのかもしれない。しかし何となくまずそうだ、という予感はした。
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単行本p.407

 幼い語り手が海で見つけた不思議な物体。それは「僕」そっくりに成長し、しかも分裂して増えてゆくのだった。ストレートな『E.T.』展開で読者の心をつかむジュブナイルSF。


『架空論文投稿計画(あらゆる意味ででっちあげられた数章)』(松崎有理)
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「ねえ。この事件ってさ、すっごくあほらしくて世間的にはとるに足らないんだけど、じつは背後におそろしい問題がひそんでるよね」
「そのとおり」よかった、やはり肝心なぶぶんでは察しがいい。「それでですね。この問題を世に問うために、ひとつ実験をやってみようと思うんです。松崎さん、協力してもらえますか」
(中略)
 松崎からのメールにかんたんな説明をつけて代書屋のアドレスに転送する。こうして架空論文計画がスタートした。
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単行本p.454、460

 蛸足大学の文系食堂でとんぶり入り納豆定食を食べているとき、「超高学歴独身男、高層ビルから油揚げをばらまく」というローカルニュースに目をとめ、その背後に恐るべき事態(独身中年ポスドクの人生展望とか)を見たメタ研究心理学研究室のユーリー小松崎は、小説家・松崎有理と、某論文代書屋の手を借りて、架空論文投稿計画を立てる。ソーカル事件と違うのは、それが「かけんひ」を投入した研究だということだった。形式的にもっともらしい爆笑ものの嘘っこ論文をそのまま収録、しかも2本も。


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