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『宇宙最大の爆発天体 ガンマ線バースト』 (村上敏夫) [読書(サイエンス)]

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ガンマ線バーストとはひとことで言えば「宇宙で最大で最強の星の爆発」のことです。そう説明すると詳しい方には「それは超新星の爆発(スーパーノバ)のことだろう!?」と反論されそうですが、実はそうではありません。
(中略)
1個の星の爆発に過ぎないのに、その明るさ(エネルギー)は数千億の星からなる銀河よりも明るく、爆発の瞬間には宇宙全体の全ての星が出す光のエネルギーに匹敵するのです。
(中略)
それ程のものなら稀な現象と思われそうですが、弱いガンマ線バーストなら、平均すると1日に1回は起きていて、決して珍しい現象ではありません。
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Kindle版No.9、32、81

 宇宙のすべての星が出す光に匹敵するエネルギーを、一度の爆発で放出する途方もない規模の大爆発、ガンマ線バースト。その正体が解明されるまでには、何と30年もの歳月が必要だった。宇宙最大の謎に挑んだ研究者たちの困難な道のりを専門家が解説してくれる一冊。新書版(講談社)出版は2014年3月、Kindle版配信は2015年6月です。


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発見からの約5年間は国家機密の扱いで、どこかの国がこっそりと原爆の実験を行ったと考えて極秘の調査が始まったのです。
(中略)
ガンマ線バーストの発見者はノーベル賞を逃してしまったように思います。ガンマ線バーストを除いた他の現象は比較的早くに現象の理解が進みました。しかし、ガンマ線バーストは1997年まで本質的な理解が進みませんでした。発見から30年間もその原因がわからなかった現象は珍しい例です。
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Kindle版No.131、363


 極秘の核実験を監視するために打ち上げられた衛星がとらえた、謎のガンマ線。その事実は国家機密とされ、やがてそれが宇宙の彼方からやって来ることが判明してからも、なかなか正体が分かりませんでした。あまりにも大きな爆発規模、途方もない放出エネルギー。それは人類の理解を軽く超えるものだったのです。


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「ハッブル」宇宙望遠鏡がガンマ線バーストの発生方向を観測したのは、ガンマ線バーストの発生からすでに1ヵ月もたっていました(中略)
1ヵ月もたっていたのに、背後に淡く輝く銀河全体の明るさよりも残光のほうがより明るかったのです。数千億個の星からなる銀河よりも、1ヵ所のガンマ線バーストの残光のほうが、1ヵ月たっても明るいのですから、とてつもないエネルギーが放出されたことがわかります。
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Kindle版No.915

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「ハッブル」宇宙望遠鏡だけではなく、あらゆる地上の大型望遠鏡やあらゆる電波望遠鏡やあらゆる人工衛星が動員されて観測を競う態勢が組まれました。それから約10年間、1997年から2005年頃までの天文学や物理学の話題をガンマ線バーストが独占したのは言うまでもありません。
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Kindle版No.937


 観測データが集まってくるにつれて、これは超新星どころの騒ぎではないことが判明してゆきます。スーパーノバをも超える、未知の現象。それは……。


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 普通の超新星をスーパーノバと呼ぶので、極超新星はスーパーより大きいことを意味するハイパーノバと呼ばれるようになりました。「ガンマ線バーストはハイパーノバの爆発」からだったのです。
(中略)
極超新星の爆発では、ガスが光速に近い速さで外に向かって膨張していたのです。極超新星では爆発のエネルギーが普通の超新星に比べて1桁以上も大きいために、ガスが光速に近い速度まで加速されていたのです。
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Kindle版No.1034、1064

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ジェットを考慮に入れると、ガンマ線バーストの発生頻度は、我々が検出しているより100倍も多くなります。我々はジェットの正面にいる時にだけ、偶然にガンマ線バーストを見ているだけで、我々に見えていないガンマ線バーストが大量にあることになるのです。
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Kindle版No.1108


 超新星よりも1桁以上も大きい爆発エネルギーで加速されたガスが、ほぼ光速で放出される「ジェット」。紆余曲折を経て、ついに相対性理論を駆使した新理論が誕生します。それは、ジェットからガンマ線バーストが生じるメカニズムをついに解き明かし、観測データに見られる不可解な特徴を見事に説明したのです。


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光速の流れの物質といえども、当然速度にはムラがあり、速度が異なった塊が生まれます。速い塊は遅い塊に追いつき追突します。速度差が大きいので、この衝突は衝撃波を作ります。
(中略)
強い衝撃波の中では電子が加速され強い磁場が生成することはよく知られています。この磁場と高エネルギー電子が作用してガンマ線バーストのガンマ線をシンクロトロン放射として作るのです。
(中略)
光速で走るジェットは、光速であるために強い相対論的ビーミング効果を示し、始めは正面からしか見えません。徐々に速度を落とすとビーミング因子が下がりビームは開いて来ます。ビームが開くと、時間とともに見える領域が広がっていくのでゆっくりと明るさが落ちていきます。
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Kindle版No.1239、1244、1250


 ジェットの内部衝撃波、シンクロトロン放射、相対論的ビーミング効果。予想を超えたメカニズムも衝撃的ですが、それを定量的に説明できてしまう科学の凄さにも痺れます。

 とはいえ、最初にガスを光速近くまで加速してジェットとして放出する極超新星(ハイパーノバ)の正体は何なのでしょうか。それは……。


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ブラックホールがガンマ線バーストの原因と考えられています。ブラックホールが作られる、その誕生の産声こそがガンマ線バーストなのです。百パーセント全てがそうかと問われると著者も腰が引けてしまいますが、「強いガンマ線バースト」は百パーセントそうです。
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Kindle版No.1370

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京都大学の中村卓史らが計算機の中に2個の中性子星を連星として置いて、その後にどうなるかを一般相対論までを考慮して計算しています。(中略)重力波を出しながら合体し、確かにブラックホールが作られることや短いガンマ線バーストになることが計算機の中で実現できています。
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Kindle版No.1425


 二つの中性子星の連星が衝突してブラックホールになるときに発生するガンマ線バーストは、『ディアスポラ』(グレッグ・イーガン)に劇的な形で登場するので、SF読みなら知らない人はいないでしょう。

 こうして、巨大な恒星の重力崩壊、あるいは中性子星の合体、など様々な原因によりブラックホールが生み出されるとき、放出される亜光速ジェットがガンマ線バーストとして観測されるということを、ついに人類は突き止めたのです。

 では、すべての謎は解かれたのでしょうか。もちろん、そうではありません。


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まだ解決を見ない話題が幾つも登場してきました。ある疑問が解けるとそれを基礎にして次の疑問が出てくる。それを解くために性能の高い観測が企画、実行されると、さらに謎が深まるものです。これは学問の自然な成り行きです。まだまだ私たちには、多くのやり残した問題があるのです。
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Kindle版No.1602

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 ガンマ線バーストを使って、残された数億年の「暗黒時代」と「一番星」を研究する人工衛星が計画されています。名前はガンダムGUNDAM(Gamma-ray burst for Unravelling the Dark Ages Mission)です。ガンマ線バーストとガンダムを使って宇宙の暗黒時代を解明すると宣言しています。
(中略)
若い皆さんが将来、これらの学問に参入して、ガンダム実験や重力波の観測にたずさわることを期待しています。
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Kindle版No.2905


 ガンダムで宇宙の暗黒時代を切り拓く。まずネーミングが素晴らしい。

 というわけで、宇宙最大規模の壮大な現象、その謎に挑んだ科学者たちの努力、そして今後も続く様々な研究プロジェクト、最初から最後まで知的興奮が止まらない一冊です。



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