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『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら paper version 2』(川口晴美:詩、芦田みゆき:写真、小宮山裕:デザイン) [読書(小説・詩)]

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Kindle版を完成品としたら、この【paper version 2】は、その完成の2段階ほど前の、デザイナー・小宮山の脳内と言ったらいいものかもしれません。(中略)そんな、ゆらゆらとあやうい状態こそが【双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら】というものなのかなという気がしていて、それを紙で形にしてみたら、こんな箱詰めのものたちになりました。
これらのものたちを最終形にするのは、「あなた」です。
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 2015年7月5日は、夫婦で江戸東京博物館に行って、第19回ポエケット(ポエトリー・マーケット、詩歌の同人誌即売会みたいなもの)に参加。事前情報で楽しみにしていた【双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら paper version 2】を購入しました。

 これは、Kindle電子書籍の形で連載されている長編詩と写真のコラボレーション『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら』(現時点でvol.4まで配信済。vol.6で完結する予定。読み始めるなら今がチャンスですよ)、その派生作品です。

 いわゆる二次創作とかスピンオフとかそういうのではなく、Kindle版制作途中のデザイナーさんの脳内状態を物質として具現化させたようなもの。


「双花町の作り方」(小宮山裕)より
http://kijinsha.blog40.fc2.com/blog-entry-906.html
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テキストはプリントアウトして手元に置き、
画像は一覧表示にして眺める。
これかな? あれかな?と、
脳内で組み合わせ、動かし、
脳内で誰にともなくいろいろと説明しつつ、
脳内で作っていく。
このとき、なるべくあやふやな部分がないようにしたいのだけど、
どうしてもどこにも当てはまらない写真や、
どの写真のイメージとも違う詩の言葉も出てきてしまう。
そういうときは、いくつかの違う説明を考えたり、
写真を入れ替えた案を考えたりする。
この作業がだいたい丸一日が二日間ぐらい。
ずーっと考えてる。考えて考え続ける。
脳内での作業だから、PCの前を離れても考えてる。
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 箱をあけると、Kindle版『vol.2』を構成しているテキストと写真が、様々な形をとって収められています。

 ホテルのルームキーに付いているタグのように、リングで束ねられたカードに記された「あなた」と「フロント係の若い女」との会話。パンフレットのように折り畳まれた「観光ガイド」。封筒に入れられた手書きの「手紙」(染みや汚れが丁寧についている)。書類の形をした「文書」(不穏な血痕付き)。領収書、メッセージカード、コースター、クリップでとめられた絵葉書数枚。いずれも写真とテキストが“完成版”とは別の形で組み合わされています。

 もしかしたら銀色の錠剤が数粒はいっているのではないか、と思って探しましたが、残念ながら封入されてませんでした。もちろん、気づかないうちに落としてしまった、という可能性は常にあります。

 取説(?)によると「テキストの順番や写真の組み合わせを変えて(中略)あなただけの「双花町」を作り上げてみてください」とのことですが、個人的にはむしろ雑然と机上に広げて眺めてみた感じが素晴らしいと思いました。写真とテキストの組み合わせが定まらず、デザインもまだゆらゆらとしている状態が、見事に物質化しています。

 さらに、購入時に三枚の写真を選ばせて同封する、という仕掛けが効いています。すなわち完全に同じセットを持っている人はたぶん他に誰もいない、自分だけの証拠品(?)が今、手元にあるわけで。なにこの、ぞくっとくる感じ、こわい。

 引き続き『vol.3』の【paper version3】も制作されるといいなあ、と思います。


タグ:川口晴美
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