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『死体は今日も泣いている 日本の「死因」はウソだらけ』(岩瀬博太郎) [読書(教養)]

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 日本では今、年間120万人以上の人が亡くなります。そのうち、警察に届け出のある死者は約14パーセント。7人に1人が、明らかな病死ではない死を迎えています。しかも、その数は年々増えています。それなのに、日本では、誰も死因をきちんと追求しようとはしません。
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Kindle版No.36


 死因の追求に極めて消極的、先進諸国と比べて解剖率が極めて低く、いい加減な判断で「事件性なし」とされ、そのまま燃やされてしまう死体。再犯、冤罪、社会問題隠蔽、医療統計過誤など、様々な弊害を生み出している日本の死因追求制度の不備を法医学者が告発した一冊。新書版(光文社)出版は2014年12月、Kindle版配信は2015年1月です。


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 当然、犯罪の見逃しも起こります。
 伝染病の発見も遅れます。
 虐待も見過ごされます。
 事故の危険性も見落とされます。
 補償金や生命保険料の支払額にも誤りが生じます。
 そして、ごく少数の人を除いて、誰もこの恐ろしい事実を知りません。
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Kindle版No.40


 解剖率が極めて低く、検査や試料保存なども行われていない日本。遺体はすぐに「事件性なし」として火葬されてしまうため見逃される犯罪が多く、それに味をしめた犯人による再犯が起こる。また物証がないため自白に頼りがちとなり、冤罪が頻発。さらには医療統計がデタラメとなり、子供の虐待や製品の欠陥など対処すべき社会問題の存在も隠されてしまう。本書には、このような恐るべき実態が詳しく書かれています。

 例えば、パロマ湯沸器事故。遺族が強く要求するまで死因が追求されることなく、すべて「病死」「事件性なし」で済まされてきました。こうして問題の発覚は20年も遅れ、その間に多数の犠牲者が出たのです。


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もしも最初の事故で警察が原因をきちんと追及し、パロマガス湯沸かし器に対する警告が発せられていたならば、20年間も同じような事故が繰り返されることもなく、その後に亡くなった19人は、生きていたはずなのです。
 メーカーであるパロマに責任があるのは、もちろんです。しかし、「犯罪性なし」として事故の原因を追及せず、危険を放置し続けた警察、いや、そうした制度を放置した日本政府にも、大きな責任があります。
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Kindle版No.1169


 様々な事件や事故の実例が取り上げられ、それぞれ、もしも初期の段階で遺体を解剖して検査していれば、その後の悲劇を防げた可能性が高いことが解説されます。

 「解剖までして死因をはっきりさせたとしても死人が生き返るわけではないし」「遺族の気持ちを考えれば多少の疑念はあってもそっとしておいたほうが」、などといって済ませられる問題ではないことがはっきり分かります。

 なぜ、解剖もしないで、心不全だ、病死だ、事件性なしだ、ということになってしまうのでしょうか。いったい、どうしてこんな問題だらけの死因追求制度がまかり通っているのでしょう。そもそも、誰がどうやって死因を判断しているのでしょうか、この国では。


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一般の臨床医の先生に、初めて診た遺体の死因を判定させ、しかも彼らが死因がわからないと思っていても、警察の都合によって病死とする方向に医師が誘導されてしまう日本の制度が、おかしいのです。
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Kindle版No.818

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 解剖や検査がろくに行われていない上に、死亡診断書(死体検案書)にもまちがいが多いため、日本では死因統計もデタラメです。(中略)
日本の死因統計は、医師が記入した死因をそのまま集計しただけで、正確かどうかをチェックする仕組みがないのです。
 統計の重要性は、その数字に基づいて医療や公衆衛生や福祉の施策が決まり、税金が投入されることにあります。
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Kindle版No.985、1004

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日本では、理念なく行き当たりばったりに死因究明方法を独自に改変させてきた結果、「解剖や薬物検査を含む医学的な検査を最初に行ってから犯罪性の判断をする」という先進諸国のスタンダードとはかけ離れた死因究明方法を構築してしまい、迷宮から抜け出せなくなっているのです。
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Kindle版No.1593


 捜査などの面倒を避けたい警察が、初動捜査でよほど不審な点がなければ、遺体を調べる前に「事件性なし」という結論を先に出してしまい、それから(専門の解剖医ではなく)一般の臨床医に依頼して「病死」とした書類を出してもらう。どうせすぐに焼かれてしまうから「証拠」は残らない、遺族を含め誰からも非難されない。

 怠慢というより犯罪の隠蔽に加担しているも同然。何ともあきれた話ですが、では他のいわゆる先進諸国ではどうなっているのでしょう。


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先進諸国では、犯罪性の有る無しにかかわらず、医学的観点で異状と考えられる(明らかな病死とはいえない場合すべて)死体は解剖し、血液や尿などの試料は何年かの期間を決めて保管しておくように義務づけられているところが多いのです。(中略)
解剖率はスウェーデンが約89パーセント、オーストラリアが約54パーセント、英国が約46パーセントであるのに対して、日本は監察医制度を含めた全国平均で約11パーセント、監察医制度のない地域の全国平均は約5パーセント。薬毒物検査に至っては、どこの国でも異状死体が出た場合には数百~数千種類の薬物をスクリーニングするそうですが、日本には薬毒物専門の検査拠点すらありません。日本では、毒殺されてもまず見つからない、と言っても過言ではないのです。
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Kindle版No.539、1619

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 先進諸国では、各地域ごとに“死体のための総合病院”とでも呼ぶべき法医学研究所が設置され、死因が明らかでない遺体について解剖や各種検査などを行い、死因を究明しています。日本では、監察医制度がこのような拠点になる可能性があったものの、残念ながらそうなることはかないませんでした。現在、法医学研究所と呼べるような施設は、東京都監察医務院がそれらしいとはいえますが、他には、日本には一つもありません。
 さらに先進諸国には、解剖された遺体から採取された血液や尿などを用いて薬毒物検査を行う検査センターがありますが、日本にはこのようなセンターもありません。
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Kindle版No.1531


 比べてみると、その違いに呆然とします。では、こんないい加減な制度の下で働く法医学者はどんな扱いを受けているのか。


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現実に法医学者がどのような立場に置かれているかといえば、悲惨なものです。まず、収入は同年代の開業医の半分程度、医師のなかの最低ランクです。その上、3K職場の最たるものであるのに、それに対する補償がまったくないのです。
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Kindle版No.1417

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千葉大学法医学教室では千葉県全体、約600万人をカバーしていますが、解剖医は2人、従業員は非常勤を入れて7人、解剖台はたった1台でした。もちろん、感染症対策の完備した解剖室もありません。それに対してビクトリア州メルボルンの法医学研究所では、千葉県より少ない約500万人をカバーしていますが、常勤・非常勤を含めて解剖医は12名、従業員は150名程度、解剖台は12台もあります。
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Kindle版No.1733


 次第に個人的グチの色合いが増してきたような印象もありますが、まあ、いずれにせよ深刻な社会問題だということが分かります。個人的には「遺体を解剖しないことで多くの虐待が見逃されている」という指摘が特に響きました。


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 犯罪性があろうがなかろうが、検死する医師が医学的に死因がわからず、異状死と判断する場合はすべて、法医学研究所のような専門機関に持ち込み、医師が主体となった医学的死因究明が行われ、一方では警察など捜査機関は死亡までの経緯について必要な調査を行い、相互の対等な連携の下で死因を究明し、それを公益に役立てる、遺族に知らせる。こんなシンプルなことが、日本ではなぜできないのでしょうか?(中略)私たち国民の権利が守られ、安心して暮らせる国、死体が泣かない国に、日本はなるでしょうか?
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Kindle版No.2133


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