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『弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦』(元榮太一郎、上阪徹) [読書(教養)]

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 弁護士ドットコムがユニークな理由は二つあります。
 一つは、僕が弁護士の資格を持っているということ。弁護士がみずからベンチャーを起業し、創業社長として自分の会社を上場させたケースは他にありません。日本初の東京証券取引所マザーズ市場への上場です。
 もう一つは、僕たちが行なっている「困っている人と弁護士とをインターネットでつなぐ」というサービスを提供しているのが、弁護士ドットコムだけだということ。つまりこの分野でほぼ一社独占です。
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Kindle版No.7

 月間訪問者数660万人、月間相談数1万5千件。今や日本の弁護士の5人に1人が登録している「弁護士ドットコム」。人もうらやむエリート弁護士の地位を捨ててまで、なぜベンチャー企業を立ち上げたのか。弁護士ドットコムの創業者が語るその経緯、そして志。単行本(日経BP社)出版は2015年1月、Kindle版配信は2015年1月です。


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 新しいことを始めようとする人が理解されないことはよくあります。僕も、大きな法律事務所を辞め、“エリート弁護士”の道を捨てて起業することに、周囲の知り合いや仲間の全員から反対されました。(中略)
 そんな状況でも、僕はあきらめようとは絶対に思いませんでした。トラブルに巻き込まれて困っている人や、誰にも言えない悩みを抱えている人を、弁護士とつなげたい。その一心でした。
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Kindle版No.16、25


 法律のことで困っている人が気軽に弁護士に相談できるようにしたい。その理念を実現するためにスタートした「弁護士ドットコム」。その創業者へのインタビューを再構成した一冊です。


「第1章 どうせなら、ブルーオーシャンを生きたい」
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「どうしてせっかく司法試験に合格して弁護士になったのに、ベンチャー企業を始めたのですか?」という質問は数えきれないほど受けましたが、その答えは「人と違うことをしたかったから」ということにつきます。
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Kindle版No.255


 最初の章では、なぜ弁護士の職を捨てて起業したのかが語られます。若い頃の体験から始まって、人と同じことをするのではなく他人がやっていないこと(ブルーオーシャン)で生きたい、逆境にあっても理念を貫くことの大切さなど。


第2章 幅広い経験が人間をつくる
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 司法試験の勉強でわかったことがあります。物事に真剣に取り組むのなら、泥臭くやらなければならないということです。脇目もふらず、かっこつけずに、ベストを尽くさなければなりません。後の弁護士ドットコムの立ち上げにもこのときの経験が生きました。
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Kindle版No.695


 サッカー、学生バイト、司法試験、弁護士事務所、ベンチャー企業家との出会い。紆余曲折した人生を歩んできたようでいて、後から見るとそのすべてが起業のための準備だったとしか思えない、そんな筋の通った人生体験が語られます。


第3章 創業したのに収入ゼロ!
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無料にするという決断は本当に苦しく、精神的にもつらいものでした。ただ、そもそも弁護士ドットコムを立ち上げた目的は、「弁護士」という存在を身近にするためでした。こういうときこそ弁護士ドットコムの“志”が試される。弁護士とユーザーがつながる場所は社会に絶対に必要だという確信が僕にはありました。それならば、築き上げるべきはこのサービスなのです。運営を続けていくための収益を上げる方法は、後から考えればいい。
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Kindle版No.846


 弁護士法第七二条で「株式会社による有料の弁護士の仲介」が禁止されていることから、収益化のあてがないまま無料サービスとしてスタートした弁護士ドットコム。その創業期の苦労が語られます。


第4章 読んで、仕掛けて、待つ
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 弁護士ドットコムを作るときに強く意識したのが「利用者の目線」でした。これは、悩みを抱えて困っている人の目線だけでなく、弁護士の目線でもあります。もし自分が弁護士のユーザーとして弁護士ドットコムを使う立場になれば、どういったサービスがほしいか、と徹底的に考え抜いたのです。
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Kindle版No.1272


 「みんなの法律相談」から「弁護士ドットコムニュース」まで様々なサービスをどのようにして実現し、ヒットさせてきたのか。弁護士の有料会員制度を普及させるためにどのような苦労をしたか。弁護士ドットコムが軌道に乗って爆発的に成長していった過程が詳細に語られます。


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新たな収益の基盤ができたおかげで、2014年に入ってからは、月商ベースで前年同月比二倍の売上高となりました。赤字が長く続いた弁護士ドットコムでしたが、ようやく採算が取れるようになったのです。焦らなくて良かった、と僕は心から思いました。(中略)
「八年間も実質的に赤字だったけど、あきらめずに運営してきた苦労が報われた」と、感慨深かったのです。
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Kindle版No.1342、1348


第5章 「掛け算」こそが人生だ
第6章 人の縁が会社を成長させる
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 これまでもお話ししたように、秩序を重んじる弁護士と、自由を重んじるインターネットとを掛け合わせることはなかなか難しくもあります。だからこそ、チャンスだったのです。
 こうした掛け算は、世の中にいろいろあると思っています。まだまだ空白地帯があるわけです。
 どのようなものを掛け合わせればいいかというと、「違和感のあるもの」の組み合わせです。そのほうが独自の切り口が生まれやすく、「一番」になれる可能性が高い。
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Kindle版No.1435

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「これから起業しようという人に何かアドバイスがありますか?」
 もしこんな質問をされたら、いろんなことが言えますが、自分なりのアドバイスをするならば、「若いときの貯金なんて誤差の範囲だから、自分に投資しよう」でしょうか。(中略)
 独立して法律事務所を立ち上げたとき、二十代で自己投資したおかげで知り合うことができた方々を中心として顧問先になっていただきました。そのとき初めて、なるほど、自己投資とはこうやって返ってくるんだ、と思ったのでした。
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Kindle版No.1712、1724


 あらゆる人、特に異業種の人に話を聞きまくる。ネットに詳しくない一般利用者の立場で考える。掛け算の発想でチャンスを見つける。成功するまでじっくり耐える。これから起業を目指す人のために、弁護士ドットコムの経営体験から様々なコツを教えてくれます。


第7章 弁護士の未来を一緒に考える
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 かつては、顧客開拓のために積極的に活動しなくても、待っているだけで依頼がやってくる時代が長く続きました。だからこそ、法律事務所には経営効率や業務効率の向上、マーケティングの活用といった考えはまったく不要でした。しかし、これからは違う。依頼者に選んでもらうには、安定した経営が必要になってきました。そのためには、所員の採用やマネジメントなどあらゆる面で、事務所経営も一般企業のように行うことが求められる時代なのです。
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Kindle版No.1792

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 民間企業にとっては昔から当たり前のことが、弁護士業界ではこれから導入されていくでしょう。うまくいっている法律事務所は、「サービス業」という意識がしっかりと浸透している印象を受けます。弁護士業界は守られていたため、サービス業としては遅れていると言えるかもしれません。逆にいうと、企業の経営で当たり前のことを導入すれば、法律事務所の成長につながる。これはある意味、「タイムマシン経営」です。
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Kindle版No.1919


 弁護士という職業が競争にさらされ、一般企業と同じくサービス業としての経営戦略が重要になってきた現代。これから弁護士は、法曹界は、そして一般社会は、どのように変化してゆくのでしょうか。弁護士ドットコムの経験から、これからの弁護士業が目指すべき姿を考えます。


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「日本もアメリカのような訴訟社会にすべきだ」という意見はあまり受け入れられないでしょう。僕も違和感を覚えます。僕はそれよりも、日本を「予防法務」を充実させた社会にするべきだと考えています。(中略)
一部の悪質な企業を除いては、なるべく法的なリスクを抑える方向に進むはずです。そして、そうしたリスクを抑えるために、予防的に弁護士を活用する時代になると思います。これが「予防法務」です。
 この予防法務が浸透した社会というのは、日本の国民性に合っていると思います。訴訟合戦が繰り広げられる世知辛い世の中よりも、トラブルにならないよう事前に対処しておくほうがいいでしょう。
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Kindle版No.1826、1844


 というわけで、弁護士ドットコムを軸に、起業から弁護士の将来象まで様々なトピックが語られます。

 自慢話や説教臭い物言いがなく、他人を批判することもなく、ひたすら伝えたいことを、分かりやすい言葉で、丁寧かつ情熱的に語っており、好感が持てます。さすが弁護士。同じことを何度も繰り返し語っているのは気になりますが、これはむしろ「今、ここで話している」というライブ感、講演の雰囲気を出すためかも知れません。

 というわけで、「弁護士という存在を一般の方々にとって身近なものにする」という弁護士ドットコムと同じ理念に貫かれた一冊。弁護士ドットコムに興味がある方、法曹界を目指している方、起業を考えている方はもちろんですが、これから自分の人生を切り拓いてゆく若者にも読んでほしい本です。


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 本書には、元榮さんの人生のエッセンスがたくさん詰まっている。興味深いキーワードとエピソードが次々に展開されていく。表面的な、薄っぺらい、見せかけではない「本当の意味での人生の成功」を目指す人に、ぜひ手にとってほしいと願う。
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「縁に導かれて──あとがきにかえて」(ブックライター 上阪徹)より
Kindle版No.2096


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