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2010年を振り返る(4) [年頭回顧]

2010年を振り返る[サイエンス/テクノロジー/教養]

 2010年に読んだサイエンス/テクノロジー/教養本のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2010年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 昨年は、とにかくポピュラーサイエンス本が大当たりの年でした。

 まずサイエンス一般としては、家庭で出来る「爆発や放電などスペクタクルを伴う科学実験」の方法を、美麗カラー写真と共に具体的に教えてくれる『Mad Science 炎と煙と轟音の科学実験54』(Theodore Gray)のインパクトが大きかった。幼い頃にこの本に出会った子供は、きっと人生が変わるでしょう。

 『サはサイエンスのサ』(鹿野司)は、科学という「ものの見方」の面白さに焦点を当てたサイエンスエッセイ集。『悩ましい翻訳語 -科学用語の由来と誤訳』(垂水雄二)は、科学書の翻訳における混乱や誤訳について教えてくれる本。いずれも、はっとさせられる面白さです。

 疑似科学まわりでは、稀代の名サイエンスライターが専門家と組んで鍼灸やホメオパシーなどの代替医療を徹底的に検証した『代替医療のトリック』(サイモン・シン、エツァート・エルンスト)、進化論を否定する宗教的右派に対する滑稽にも思えるほどの猛反撃『進化の存在証明』(リチャード・ドーキンス)、ただの「ニセ科学」なのか「パラダイム変換をうながす大発見」なのか微妙な境界線上にある謎を集めた『まだ科学で解けない13の謎』(マイケル・ブルックス)といった本が素晴らしい。

 物理・天文学関連では、銀河系そのものの成り立ちや運動を扱った『銀河物理学入門』(祖父江義明)、極端な高圧や極低温など極限環境における物性の不思議を扱った『極限の科学』(伊達宗行)、そしてミクロとマクロの中間にある微細現象の驚異を扱った『ミドルワールド -動き続ける物質と生命の起原』(マーク・ホウ)が印象に残っています。

 数学では、様々なパズルやパラドックスなど数学の面白い話題を詰め込んだ『数学の秘密の本棚』(イアン・スチュアート)およびその続編『数学の魔法の宝箱』(イアン・スチュアート)が素敵でした。

 ポアンカレ予想を証明したロシアの数学者グレゴリー・ペレルマンの評伝『完全なる証明』(マーシャ・ガッセン)は、一人の数学者と社会との関わりをじっくりと描き、鮮烈な感動を呼びます。

 他に、悪戦苦闘する数学者の姿をかいま見せてくれる『数学10大論争』(ハル・ヘルマン)、『新装版 数学・まだこんなことがわからない』(吉永良正)も良かった。

 生物学では、何といっても『飢えたピラニアと泳いでみた へんであぶない生きもの紀行』(リチャード・コニフ)の面白さは衝撃的でした。我が身を省みないでひたすら邁進する研究者たちの姿に呆れるか感動するかは読者しだいですが、とにかくフィールドワークというもののイメージが変わってしまう多大なインパクトがあります。

 『ニワトリ 愛を独り占めにした鳥』(遠藤秀紀)、『イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか -樹木の個性と生き残り戦略』(渡辺 一夫)、『ミツバチの不足と日本農業のこれから』(吉田忠晴)、『粘菌 その驚くべき知性』(中垣俊之)の四冊は、身近な生き物について自分は何も知らなかった、という驚きに満ちています。

 その他、今年大いに話題になった生物多様性についての解説書『生物多様性とは何か』(井田徹治)、『笑う科学 イグ・ノーベル賞』(志村幸雄)、『昆虫にとってコンビニとは何か?』(高橋敬一)などが印象に残っています。

 テクノロジー関連では、『増補 スペースシャトルの落日』(松浦晋也)や『図解 橋の科学』(田中輝彦、渡邊英一、土木学会関西支部)といった本で巨大建造物について知り、『脳の情報を読み解く BMIが開く未来』(川人光男)や『人体再生に挑む』(東嶋和子)で医療技術の発展が引き起こす事態を現実的に考えさせられたり。
 
 事故や遭難などで死にかけた人々が決まって出会うという謎めいた人物について扱った『奇跡の生還へ導く人 極限状況の「サードマン現象」』(ジョン・ガイガー)も今年の収穫でした。次から次へと登場する事例の迫力と面白さに心奪われました。

 超常現象やオカルト方面では、謎解き本として今や定番となった『謎解き 超常現象II』(ASIOS)も相変わらず楽しいし、UFOマニアからネオナチまで様々なアウトサイダーにインタビューした『ヘンテコピープルUSA』(ルイ・セロー)も素敵でした。『カルト・陰謀・秘密結社 大事典』(アーサー・ゴールドワグ)、『未確認飛行物体UFO大全』(並木伸一郎)の二冊は、うーん、部分的に興味深い情報もありましたが、全体的には期待外れの観が強かったかも。

 その他の教養本としては、錯視図形を扱った『だまし絵のトリック 不可能立体を可能にする』(杉原厚吉)、幻聴という症状のイメージを刷新してくれる『幻聴の世界 ヒアリング・ヴォイシズ』(日本臨床心理学会 編)、アルコール中毒の恐ろしさについて当事者の立場から生々しく教えてくれる『西原理恵子×月乃光司の おサケについてのまじめな話』、偉い先生が世の中について言ってることがいかに間違っているかをご存じ反社会学の不埒な研究者が分かりやすく解説してくれる『13歳からの反社会学』(パオロ・マッツァリーノ)、などが良かったと思います。

 国際関連では、何かと分かりにくい米国の政治風土について解説してくれる『アメリカン・デモクラシーの逆説』(渡辺靖)、切手を舞台とした情報戦やプロパガンダ合戦という知らなかった世界を見せてくれた『事情のある国の切手ほど面白い』(内藤陽介)、世界中で食されているスシがどのようなことになっているかを美しいカラー写真と共に紹介してくれる『日本人が知らない世界のすし』(福江誠)が興味深い。

 最後にITまわりですが、社会への多大なる影響力を持つニュースサイトの内幕を扱った『ヤフー・トピックスの作り方』(奥村倫弘)、グーグル社の電子書籍戦略の暗黒面に踏み込む『グーグルに異議あり!』(明石昇二郎)が良かったと思います。

 2010年も新書が山ほど出た年でした。正直がっかりするような本も多いのですが、いっぽうで人生観や世界観を一変してくれる素晴らしい一冊との出会いもあります。「ハズレ」の海にたじろぐことなく、自分にとっての良書を探して、今年も読んで読んで読みまくりたいものだと思います。