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2010年を振り返る(2) [年頭回顧]

2010年を振り返る[一般小説/随筆]

 2010年に読んだ一般小説および随筆のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2010年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 昨年はつまるところ笙野頼子さん復活の年だったと言えるでしょう。単行本『海底八幡宮』の出版以来、一年近く音沙汰がなかったので心配していたのですが、いきなり新作『神変理層夢経』の連載を「文藝」および「すばる」にまたがる形でスタート。これは全六部作になる大作だそうです。さらには代表作の一つ『金毘羅』が文庫化され、話題になりました。今年も期待できそうです。

 春に『猫とねずみのともぐらし』、『膝のうえのともだち』、『あなたにあえてよかった テースト・オブ・苦虫(8)』が出版された町田康さん。秋になって『どつぼ超然』と『人間小唄』という力作を読むことが出来ました。特に『人間小唄』は凄い。その純文学っぷりにやられました。必読です。

 山尾悠子さんは、『夢の遠近法 山尾悠子初期作品選』と『歪み真珠』という二冊の幻想短篇集を出版しました。どちらも素晴らしい作品集です。特に『歪み真珠』が素敵。興奮した勢いで『ラピスラズリ』と『山尾悠子作品集成』も読んでみました。

 斉藤倫さんの『本当は記号になってしまいたい』は、そのユーモアと鋭い発想、巧みな言葉の使い方に、脱帽するしかない詩集。慌てて『いぬはなく』、『手をふる 手をふる』、『さよなら、柩』といった以前の作品集も読みました。『手をふる、手をふる』が良かった。

 栗田有起さんの作品にハマったのも今年です。『ハミザベス』、『お縫い子テルミー』、『オテル モル』、『マルコの夢』、『蟋蟀(こおろぎ)』、『コトリトマラズ』と読み進めましたが、どれもいいです。どれか一つというのであれば、『オテル モル』がいっとうお気に入り。

 『乙女の密告』(赤染晶子)、『星座から見た地球』(福永信)、『魚神』および『おとぎのかけら 新釈西洋童話集』(千早茜)といった作品に感激しました。

 伊藤比呂美さんの『読み解き「般若心経」』は何度も読み返したくなる傑作です。金井美恵子さんのいわゆる目白四部作、『文章教室』、『タマや』、『小春日和(インディアン・サマー)』、『道化師の恋』を読んだのも今年でした。

 その他、池上永一さんの『王様は島にひとり』および話題作『テンペスト』のスピンアウト作品集『トロイメライ』、森見登美彦さんの(たぶん)ソラリスの本歌取りSF『ペンギン・ハイウェイ』、久保寺健彦さんの短篇集『オープン・セサミ』、三崎亜記さんの熱血スポーツ長篇『コロヨシ!! 』などが印象に残っています。

 随筆や歌集としては、笹公人さんと和田誠さんがタッグを組んで全力で遊んだ『連句遊戯』、大型書店員の苦労を書いた田口久美子さんの『書店繁盛記』、書評家のお仕事について分かる藤田香織さんの『ホンのお楽しみ』、地に足ついた現場からの日本人論『歌舞伎町より愛をこめて 路上から見た日本』(李小牧)といった作品が素晴らしい。

 海外小説では、今年は米国のノーベル文学賞作家、トニ・モリスンの作品を読んだ年でした。『青い眼がほしい』、『スーラ』、『ソロモンの歌』、『タール・ベイビー』、『ビラヴド』、『ジャズ』、『パラダイス』、『ラヴ』、『マーシィ』と読み進め、米国における黒人文化を“内側”から見る体験は衝撃的でした。黒人の受難の歴史を背景とした『ビラヴド』や『パラダイス』が最高傑作だという一般的な評価はよく分かりますが、個人的な好みでは『ラヴ』がお勧め。いかにもありがちなメロドラマが、ここまで魅力的な小説になるとは。

 岸本佐知子さんが編集翻訳した『変愛小説集2』は、ヘンな作家のヘンな作品がぎっしりで最高でした。あまりにも面白かったので、『パストラリア』(ジョージ・ソウンダース)、『いちばんここに似合う人』(ミランダ・ジュライ)など収録作家の作品集も読んでみました。ミランダ・ジュライはけっこう好み。

 というわけで、こうしてまとめてみると、明らかに海外小説の読書量が不足していることが分かります。今年はもう少し翻訳モノに手を出そうと思います。


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