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『玉繭の間取り』(中家菜津子、装幀:カニエ・ナハ) [読書(小説・詩)]

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【緊急告知】文フリ F-1カニエ・ナハさんのブースで、昨年びーぐるに連載させていただいた「玉繭の間取り」をまとめた詩集を少数販売します。もちろん装幀はカニエさんです。立体的に飛び出す詩。隙間から覗くと一行だけが見えたり、見る方向を変えると短歌が消失したり。ぜひ遊びに来て下さいね
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これはもはや本なんだろうか。建築みたいでもあり、好きに間取りをつくれるドールハウスみたいだし、ピクニックセットとかレジャーシートみたいだし、アートピースみたいだ。
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中家菜津子氏による2017年5月6日付けツイートより
https://twitter.com/NakaieNatsuko/status/860826975337725953
https://twitter.com/NakaieNatsuko/status/860827757076291587


 2017年5月7日に開催された第二十四回文学フリマ東京にて入手した中家菜津子さんのポップアップ詩集。発行は2017年5月4日。装幀(というか製作)はカニエ・ナハさん。

 「季刊びーぐる」第31号から第34号に連載された詩作を、いわゆる飛び出す絵本、ポップアップブック仕立てにしたものです。折り畳まれた台紙を開くと、詩の書かれた紙パーツが立体的に飛び出してくるという仕掛け。これを何部も手作りした労力を考えると頭が下がります。

 各台紙はそれぞれ居間、台所、書斎、玄関という部屋を模していて、全体でタイトル通り「間取り」になっている、というこだわり。目次と表紙を合わせたようなページが一枚付いていて、こちらは裏面が銀色の反射鏡。姿見でしょうか。

 それぞれの部屋に対応する詩作がポップアップ部分に印刷されているのですが、分割されていて同時に全体を見ることが出来なかったり、隙間から覗き込むようにして読むしかなかったり、全体をひっくり返しつつ様々な角度から見ないと読めなかったりと、これまたびっくりするほどのこだわりデザインを感じさせます。


「Living Room」
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 雨上がり、死んでしまった人に裸を見つめられる。遺影の中の微笑みは、くだらない善悪から解き放たれているのに、抱きあったあとのわたしたちは、後ろの正面あたりがうしろめたい。れんめん、れんめん、連綿と遺伝子を交歓してここが、終点なのですか。
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 ポップアップしたパーツが合わさってドアも窓もない部屋が立体的に構成されます。詩は部屋の内側に書かれているので、上からこう、覗き込むようにして読むことに。他人の部屋や心を盗視しているような後ろめたさ。


「Dining Kitchen」
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 「蚕を飼ってみたいの、豚や牛と同じで家畜として殺す運命にあるもの」
君はそう言ったのに、「翼の退化した天使みたい」なんて言って愛玩している。愛を捧げたら飼われているのは君の方で。繭から羽化した白兎と昆虫のキメラみたいな生きものは、飛べないけれど翅を持ち、食べられないから口はない。
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 台紙を90度開くと細いパーツが三つ、テーブルのように、あるいは食器棚や食洗機の仕切りのように、立ち上がります。そのパーツに印刷された三行だけが、詩の中から、文字通り浮き上がって見えるのです。


「Library」
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 ひらけごま。薄暗い書斎のドアを開けよう。チェリーの床、オークの机、楢の書棚、そしてその棚に収められた本のページは樅や松やユーカリやポプラ、それに桑のパルプからできていて。加工された針葉の、広葉の木々が、今も森閑と立っていることに、君は気づく。言葉の葉擦れの音がざわめき出し、そのざわめきが君の耳と相似の葉を探した。
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 波形のパーツが貼り付けられており、書棚に見えます。台紙を開いている途中だと空っぽの白い書棚、十分に開いて別角度から見ると、一つ一つの「本背」に短歌が印刷されていることに気づきます。台紙の反対側には二つに折られた紙片が貼り付けられており、本を開くようにして紙片を開いて中身を読むことに。


「門出」
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玉繭の一頭孵り
   残された
 鱗粉まみれの
  蛹きらめく
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 ポップアップするパーツが三つ、玄関から外門までの石畳と塀でしょうか。詩と短歌が様々な方向に印刷されており、上から読んで、手前から読んで、ひっくり返してまた読むことに。



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