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『Life in the Desert 砂漠に棲む』(美奈子アルケトビ) [読書(随筆)]

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ほとんど毎晩、安くておいしいサンドウィッチを買って砂漠に出かけていた。8月のある夜、食事をした後、砂丘の上で寝転んで話していると、その日はたまたま流星群の日だったらしく、流れ星が次々に流れ、ふたりで明け方までそれを数えた。その時にオットは「ここに家を建てよう」と思ったそうで、その場所に今私たちは住んでいる。
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 ガゼル、イヌ、ハト、ウマ、ウサギ、ラクダ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、オット、ネコなど200個体の家族と共に砂漠に棲んでいる著者による、砂漠と動物たちの美しい写真集。単行本(玄光社)出版は2017年4月です。


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 アラブ諸国にも、UAEにも、イスラム教にも、砂漠にも、まったく縁がなく、興味もなく、知識も偏見もなにもない、まっさらな状態でオットと知り合い、ほぼまっさらなままでここに来た。(中略)よく「結婚を決めるのに不安はなかったのか」と聞かれるけど、UAE人と結婚してアル・アインに住んでいる日本人は多分いないと聞いた時には、「初めての日本人!」と、わくわくした思いしかなかった。
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 結婚してアラブ首長国連邦UAEのアル・アインに移住した「初めての日本人」である著者。それだけでもすごいのに、さらに砂漠に家を建て、そこで200個体の家族と共に暮らしているというから驚きです。

 本書は、そんな著者による、美しい砂漠の光景や家族の写真を集めた写真集です。全体は四つの章から構成されています。


「砂漠」
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13年という長い付き合いをしてきた砂漠は、天候、空の色、時間帯と、その時々に違う顔を見せ、一度として飽きたことはなく、荒れ狂うような砂嵐も、時に見とれてしまう。
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 砂丘をとりまく風紋、砂の平原を包み込む霧、ラクダの隊列、撥ねるガゼルたち、砂漠の地平線から昇りゆく太陽。息をのむような砂漠の光景が広がります。「ラクダやロバが当たり前のようにわが家の裏を散歩してゆく」という砂漠の暮らし。


「家族」
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わが家の家族構成は、私とオット、ほかは、カゼル、イヌ、ハト、ウマ、ネコ、ウサギ、ラクダ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリと、全て動物。約200の命と顔を合わせる毎日である。ラクダやウシは売ることもあるし、ヤギやヒツジやニワトリは食べることもある。ざっと数えて60匹のネコたちは、ほとんどが外で自由気ままに過ごしていて、ふらっといなくなり、またふらっと帰ってくる者もいる。そんな彼らも、私たちは「家族」と呼んでいる。(中略)ただ「かわいいね」だけで済ませるわけにはいかない存在。それが私たちにとっての「家族」。
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 「オットのことを母と思って育った」ガゼルは家の中で堂々と昼寝し、「著者のことを自分の妻と思っている」ハトは“ライバル”であるオットを追い出そうとし、ラクダの子供たちは“幼稚園”に集まって遊び、ネコは砂漠をどこまでも歩いてゆく。家族である動物たちの活き活きとした写真が掲載されています。


「暮らし」
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家の土台になっている砂丘は、崩れないように4ヶ月かけて地固めし、砂漠の地下を流れる地下水をいただいて生活している。家は自分たちで設計し、タイル、窓、ドア、照明、洗面台、鏡などは、あちこち歩き回ってひとつひとつ探し、自分たちでデザインもし、時には「これは失敗だったね」ということもあるけれど、ふたりの好きなものがそこここに詰まっている。
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 玄関、門扉、別棟(ゲストハウス)、そして様々な家具や調度品の写真が掲載されています。当たり前のように居間で寝ているガゼル。


「そして人生は続いていく」
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砂漠に棲むことも、動物たちと本気で向き合う生活を送るなんてことも、想像すらしていなかった。今日の鮮やかな夕日に映えた風紋と同じものを見ることは二度とない。明日も同じように一緒に散歩するつもりだった家族に、突然、永遠に会えなくなることもある。(中略)特別なことはない、淡々とした、でも、いつまでもこんなふうに続いていくとは限らない、ぎゅっと握っていたくても、いつでも簡単に手からこぼれてしまいそうな日々が愛おしい。この本に収めた写真はどれも、私にとって日常を切り取ったものだけれど、ひとつひとつに、そんな想いが詰まっている。
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 あとがき。結婚に至るまでの話や、アル・アインの位置を示す地図(意外にドバイに近い)、オットと二人で写っている写真、ガゼルたちの名前リストなど。



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