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『モーアシビ 第33号』(白鳥信也:編集、川上亜紀・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第33号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第33号 目次]
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『風裂』(北爪満喜)
『四月のバスで荻窪駅まで』(川上亜紀)
『夏の姉のための三重奏』(川上亜紀)
『フユアケボノ、@GINZA』(森岡美喜)
『amaoto』(浅井拓也)
『水の貌』(白鳥信也)

散文
『古楽へのお誘い・・・いざなわれ編』(サトミセキ)
『カモシカ生息調査』(平井金司)
『新宿を歩く』(清水耕次)
『風船乗りの汗汗歌日記 その32』(大橋弘)

翻訳
『幻想への挑戦 7』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
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 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com


『風裂』(北爪満喜)
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風にワンピースがねじられる
巻きあげられてゆく長い髪は
生きもののように逆巻いて
額を泳ぐ 乱れさせる
目を覆われていても 分けられたあなたの気配が伝わってくる
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モーアシビ第33号p.5

 場面が進むにつれて、うねりが段々と強くなり、渦巻き、ヒフを切り裂く。風の印象が鮮烈な詩作。読者を混乱させる人称代名詞のトリッキーな使い方も印象的です。


『四月のバスで荻窪駅まで』(川上亜紀)
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八重桜の枝が風に揺れ
消防車のサイレンが響き
明るい四月の光のなかを
バスは窓を開けたまま行く
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モーアシビ第33号p.8

 タイトル通りの、のどかな情景。その底から、地震がくればあっけなく失われてしまう日常のもろさ、人工物の儚さ、のような感慨が立ちのぼってくる詩作。


『夏の姉のための三重奏』(川上亜紀)
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どうしてもたどりつきたかった
そこへ その場所へ 高い空の彼方
その夏に飛んだ高度はいまも計測不可能だ

わたしは十六歳で空は青く青く広がり
手に楽譜を持たされたまま困っている
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モーアシビ第33号p.12

 失われてしまったものへの感傷をのせて三重奏曲が流れる詩作。J-POPの歌詞のような表現を巧みに配置することで、異なるイメージを描き出してゆく手際が見事。


『古楽へのお誘い・・・いざなわれ編』(サトミセキ)
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ピアノは感情をダイレクトに鍵盤に流し入れることができるが、たとえばチェンバロはそう簡単にはいかない。楽器と音と自分のあいだに、不思議なギャップもしくは空間があり、それをコントロールできないと音楽が成立しないのだ。
 古楽器の場合、「わたしが楽器を弾きこなす」のではない。わたしが楽器を弾いているのか、楽器にわたしが弾かれているのか。楽器と自分と作曲家の音楽が一体になり、空間にその響きがうまく溶け合って、初めて古楽器の演奏が人の心に届くものとなるのだ。
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モーアシビ第33号p.44

 古楽器にハマっているという著者が、その魅力を存分に語る随筆。ものすごく興味深くて、今号収録作品中で個人的に最もお気に入り。


『カモシカ生息調査』(平井金司)
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 新潟県教育委員会がカモシカの生息調査をやっていて、調査員に私も加わることになった。欠員の補充としての新任である。本誌に寄稿している浅井拓也さんは調査員を何年もやっているが、私を推薦してくれたのだ。
(中略)
 調査は各自八回、八五〇〇円の日当が支給される。全員が八回調査するとかなりの金額になるが、それだけ予算が計上されているわけだ。簡単な説明を受けただけで生態のことなど知らない私がまともな調査ができるはずはない。拓也さんに相談すると、報告書を出しさえすればいいのだという。
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モーアシビ第33号p.46

 国の特別天然記念物であるニホンカモシカ。その生息調査に参加したときの、わりと赤裸々な体験記。


『風船乗りの汗汗歌日記 その32』(大橋弘)
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帰宅後はスペクトルマンですよ。いよいよ流星仮面ですよ。この回はどちらも巨大化せず人間並みのサイズで戦う。仮面ライダーを見るような気分。流星仮面はそのネーミングに負けない大げさなマントがどうしても接近戦には邪魔だろうから、光線類の「飛び道具」で仕事をしているのだろう。ゴルゴみたいだね。二人とも表情がないので、ストーリー展開上随所で、とりわけ流星仮面には激しくあるはずの感情の揺れが、戦闘中もことさら表面化しない。(中略)うっかりすると見ていて目頭が熱くなる。やばいですな。ただ、ゴリやラーが邪悪なのを通り越してどうかすると無邪気な感すら覚えるのに比べると流星仮面は情に厚くて生真面目で、と何とも追い込まれやすいキャラクターなので、かえって遣る瀬無い気分になる。
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モーアシビ第33号p.56

 仕事のこと、書籍購入、読書録、旅など、つらつらと綴ってゆく身辺雑記。静かに、やや抑鬱的なトーンで語られる日々の暮らし。という文章のなかに「今日もスペクトルマン。午前中からスペクトルマン」「朝っぱらからスペクトルマン」「ストーリー、無理があるような気がするのは気のせいか…」などと生真面目に書かれているのが妙におかしい。