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『ノイズの海』(南村千里) [ダンス]


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きこえない人が、どのように世界を認識しているのか、きこえる側は考えて想像するしかない。同様にきこえない人も、音とは何か、音楽とは何かを考え、想像している。
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南村千里さんインタビューより(文:乗越たかお)


 2016年12月17日は、夫婦であうるすぽっとに行って南村千里の新作公演を鑑賞しました。六名の出演者とテクノロジーの協業により、聴覚と視覚の境界を、耳の聞こえない人とそうでない人の境界を、それぞれ破ってゆく80分の舞台です。


[キャスト他]

振付: 南村千里
出演: 紅日毬子、菊沢将憲、酒井郁、田上和佳奈、南雲麻衣、望月崇博


 「音(ノイズ)を聞く」という体験を、耳の聞こえない人に振動や視覚効果を使って疑似体験させる、と同時に、耳の聞こえる人にはその疑似体験を想像させる、そんな作品です。

 基本となるのは音の視覚化。例えば舞台背景に投影されている幾何学模様は、舞台上で発生する音や振動とシンクロしてゆがみ(リアルタイム処理かどうかはよく分かりませんでした)、ノイズに合わせてさざ波のようなグリッチが走ったりします。

 スピーカーから大音量で流れる心臓の鼓動音は、振動となって客席を駆け抜け、同時に舞台上に吊るされた赤い提灯(じゃなくてたぶん心臓)が同期してちらちら明るさを変えます。

 ときに出演者が手にする2メートルくらいの長い蛍光管は、動きと振動に反応する仕掛けになっているようで、床を突くと光ったり、ネオンサインのように光点が流れたり、スターウォーズごっこのように光の軌跡を残して動いたり。

 耳の聞こえない出演者と耳の聞こえる出演者の対話がはさみこまれ、後者が前者に「ドップラー効果の体験」を伝えようと苦心したり、逆に前者が後者に「明るい光は大音量ノイズと同じ」苦痛に感じられるということを伝えようと苦心するなど、両者の相互理解の試みを見せます。

 ダンスも「どんっ」と音を立てて床を踏む動作が多く、出演者の間で動き出しのタイミングをとると共に、観客に振動を感じ取らせて、耳の聞こえない人が「どのように舞台を観ているか/体験しているか」を想像させます。聴覚ノイズと視覚ノイズに包み込まれるような共通体験をさせるクライマックスには鳥肌が立ちました。

 ただ、身体の動きそのものからはあまりときめきが感じられず、そこは残念でした。共感覚的に音が聞こえてくるダンスだったら凄いだろうなーと思いました。



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