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『ドーレ・ホイヤーに捧ぐ 『人間の激情』『アフェクテ』『エフェクテ』』(スザンネ・リンケ) [ダンス]

 2016年12月11日は、夫婦であうるすぽっとに行ってスザンネ・リンケの公演を鑑賞しました。ドイツ表現主義舞踊のダンサー、ドーレ・ホイヤーに捧げるトリプルビルです。


[キャスト他]

『人間の激情』
ドーレ・ホイヤーによる初演: 1962年
スザンネ・リンケによる初演: 1987年
振付:
  「名誉/虚栄心」「欲望」「不安」「愛」 ドーレ・ホイヤー
  「哀しみ」 スザンネ・リンケ
出演: レナーテ・グラツィアデイ


『アフェクテ』
初演: 1988年
振付: スザンネ・リンケ
出演: ルイーザ・ブラーツ・バティスタ、バウル・ヘス


『エフェクテ』
初演: 1991年
振付: スザンネ・リンケ
出演: ルツィナ・ズヴォリンスカ、セルゲイ・ズーコフ


 『人間の激情』は上演時間30分のソロ作品。人間が持つ五つの強い感情を題材に、一つ一つの激情をダンスで表現します。「名誉/虚栄心」では気取ったポーズをぴたりとキメてそのままゆっくり回るなど“身体のドヤ顔”。「欲望」「不安」「哀しみ」では、両手で顔を覆い、ぶるぶる震えるそれを上空に突き出し、背中に回して、身体を揺さぶって、膝をついて、といった、とてもわかりやすい劇的な表現。

 ドーレ・ホイヤーが1962年に振り付けたオリジナルを、関係者の記憶や映像資料を元に再現(それにリンケ自身が振り付けた「哀しみ」を追加)したものだそうで、舞台上にはドーレ・ホイヤーが踊る様子を映した映像が投影され、比較できるようになっています。

 『アフェクテ』は上演時間30分のデュエット作品。男女のロマンスをストレートに扱った作品ですが、そのストレートさ、身も蓋もなさが凄い。

 それぞれ「男らしさ」「女らしさ」を過剰にアピールする求愛場面(古典バレエでいえば『ドン・キホーテ』一幕のメルセデスとエスパーダのかっこつけシーンが単調に繰り返されるような感じ)で、「これはただの馬鹿なのか、それともドイツ表現主義におけるロマンス表現なのか」と戸惑っていると、背景音がカエルの求愛鳴き声で満たされてゆき、あ、前者か、と納得。

 そこから諍いと対立と暴力を経て、ようやく二人が抱き合う、かと思ったら、背景音が、激しい銃撃音、迫撃砲の轟き、爆撃機のエンジン、あちこちで爆発が、という凄惨な戦場に。二人はぱったり重なって床に倒れ、もぞもぞ動き、それから立ち上がって、機関銃の強烈なスタッカート音、砲弾の炸裂音、狙撃銃の銃声、二人はぱったり重なって床に倒れ、もぞもぞ動き……。まあ、男女のロマンスってこういうもんですよね。わかる。

 『エフェクテ』は上演時間35分のデュエット作品。無個性な白服に黒いサングラスの、無表情な男女が、無機質な舞台に、無情に登場して、無彩色な金属製の箱を並べたり、それを移動させたり、組み合わせてステージに見立てて乗ってみたり、テーブルに見立てて食器を並べてみたり、という動作をロボットのように淡々と行います。『アフェクテ』のロマンス後の家庭生活かも知れません。むしろ工場労働者に見えますが。

 情感に欠けたまま淡々と進む舞台。個人的にはガジェットの使い方が面白くて、次に何をしでかすか予想がつかない面白さが気に入りました。最後の最後、二人がコンタクトして、それまで機械的に見えた動きに情感が込められ、楽しそうな雰囲気がかもし出され、と思うやそこでシャッター音と共に暗転して断ち切られるという、この意地の悪さ。

 全体的に照明効果が素晴らしく、照明の変化だけで舞台の雰囲気が一瞬にしてがらりと変わってしまう演出に最初から最後まで驚かされました。



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