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『ロックンロールは死んだらしいよ』(山﨑修平) [読書(小説・詩)]


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 僕たちが注文したミルクセーキが届き隣の席に座った白髪の紳士の帽子が風に揺れた時はもうロックンロールは死んでいたらしいよ
 僕はときどき君に難しそうな顔をして伝えるのだけれど君が里芋の煮っころがしを旨そうに食べている顔を観ていると何となく僕の全てが肯定された気になるのだでも少しだけ里芋に嫉妬しているかもしれない
(中略)
洗い終わりシンクの上に干したまな板からシンクへと垂れている水の粒がはじけリズムになっている人類がかつて原始人だった頃を思い浮かべている
 火の爆ぜる音に動揺し興奮し風吹きすさぶ下で明日の天気を思い互いの手を叩き合い湖の水面に雨粒がこぼれ落ちた時に大切な人に想いを告げたのだろう
 ロックンロールは死んだらしいよ
 もう僕はそんな事はどうでも良くて
 君といられて嬉しいって思っているのだよ
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『ロックンロールは死んだらしいよ』より


 ロックンロールは死んだらしいよ。でも大丈夫、今年もまた奇跡の復活をした大物が来日コンサートやるし、それに君といればロックの歌詞の言葉だってきらきら輝く現代詩。まじか、のけぞった瞬間も転がり続けるかっちょいぇい詩集。単行本(思潮社)出版は2016年10月です。


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午前1時7分。部屋の外を一台の原付が走り抜ける。乾いた匂いのする部屋。東京を埋め尽くすほどの無塩バター、あるいは音楽雑誌を用意してくれ。すべてを愛したいと無責任なことを言ったボート乗り場で、キッチュな階段の前で。
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『美しい日々』より


 少女マンガの言葉が先鋭的な現代詩になると思い知らされた僕たちも、まさかロックンロールの歌詞がクールな現代詩になるとは気づかなかった。もう思い切り叫んでもいいんだ。


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つまり僕や君のすべてを台無しにしてしまうような
甘ったれた覚悟のことだ
僕はここに立つことに決めた最後までここに立つよ
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『ぬるい春』より


 思い切り叫ぶのはやめておくとして、この痛みは何、この痛みは。


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たぶん、良いことばかりは起きなくてこのあとも辛いこと悲しいことは起きるのだろうけど駅まで信号が全て青だったとか釣り銭が777円だとかそんなたまにある良いことはあるもの。例えば流れてゆく車窓はあっという間に過ぎてしまうものだけれど今あそこに行きたい誰もいない公園に誰も観ていない花のつぼみが今日咲いた。
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『甘い踊り』より


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ペットボトルの水はもったいなくて捨てられなくて飲み干すんだ四弦が切れた日の午後に飲むアイスカフェラテとミニマルミュージック。
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『美しい日々』より


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十代はね、溶けて。
二十代はね、流れだすのよ。
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『美しい日々』より


 よどんで、にごって、乾いてしまった僕たちは、どうすれば、というか一人称に僕たちを使う癖いい歳なのでもうやめたい。そしてある種の言葉や表現を、ださい、ふるい、いけてない、と決めつけていたことを恥じたい。ロックは死んでもロック魂は不滅。とか言ってみたい。いつか。


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決して間違ってない狂人が湯浴みをする横で
確かに僕は息をしながら
イエローマジックオーケストラの素晴らしさを語りもう一度あなたを抱きかかえた
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『スンの近くに』より


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演出助手は電車がS字カーブに差しかかるころ減速する車内で金平糖を皆に配り始める、俺なりのルールと何度も言って君は近代都市を三センチ壊してしまう
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『朝のはじまること』より


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簡単な会話のあとに誰かの好きだったJポップをとびきり明るくうんざりするようなJポップを笑いながら肩にもたれて
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『朝のはじまること』より


 とびきり明るくうんざりするようなJポップを歌いながら、
「乾季のみ客を受け入れる街の隅に置かれた毛布はひとつの哲学」とか、
「飛翔した都市の内部構造について」とか、
「あなたの音は私にはなれない」とか、
タイトルだけでもう脳がしびれて、現代詩はロックだ、とか断言しちゃうんだ。僕たちは。



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