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『これから猫を飼う人に伝えたい10のこと』(仁尾智、小泉さよ:イラスト) [読書(随筆)]


僕の手にもう生傷がないことで
       子猫が猫になったと気づく
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 そこに猫がいる二十年。猫があなたを追い抜いて年を取っていく二十年。(中略)
 猫を飼うことは、当たり前だけれど、猫の一生をまるごと引き受けることです。
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 猫を飼う覚悟、名前の付け方、心がけ、猫との別れ。タイトル通り、これから猫を飼う人に伝えたい10のことを、一つ一つ短歌とエッセイで表現した一冊。全項目に小泉さよさんのイラストつき。同人誌出版は2015年12月です。


猫がしちゃいけないことのない家で
     しなくていいことばかりする猫
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ちなみに我が家は、最初から家全体を爪とぎに見立てている。ソファや壁はボロボロだけど、気にならない。だって、この家はでっかい爪とぎなのだから。
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 猫の飼育マニュアル、かと思ったら大間違い。猫歌人・猫エッセイストの二尾智さんが短歌とエッセイで綴る、猫と生活する心構え、というか猫がいる幸せ、というかつまり猫馬鹿あるある。


幸せは重くて苦い
ひざに寝る猫を起こさず
すするコーヒー
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 神様がいるとしたら、彼(彼女?)の一番の手柄は、この猫の喉の音じゃないだろうか。まず発想がすごい。「心地よくなると、うっかり喉が鳴ってしまう」なんて仕組み、どうやって思いついたのだろう。
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ヒゲのない猫などいないはずなのに
       ヒゲと呼ばれる顔をした猫
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 我が家で言えば、「吾輩」と言いそうだから「なつめ」と名付けた猫は、いま「ヒゲ」と呼ばれています。
 また、白地にグレーの柄だから「しぐれ」と名付けた猫は、いま「ニー」と呼ばれています。
 さらに、濃い三毛猫だから「こみ」と名付けられた猫は、いま「グタ」と呼ばれています。グタが何を意味するのか、呼んでいる僕らにもよくわかりません。いつの間にかそうなりました。
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入ってた袋のほうでじゃれる猫
僕の選んだおもちゃをよそに
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 買ってきたおもちゃを不思議そうに眺めながら素通りされても、全然悲しくない。
 買ってきた爪とぎを尻目に、すぐ隣のソファで爪をとぎ始めても、全然悲しくない。
 美味しそうに見えたおやつに一切口をつけてくれなくても、全然悲しくない。

 全部僕のために買った僕のものだから。
 猫は、期待に添わない生き物だから。
 期待に添わないところが、いいのだから。
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 楽しいエッセイが大半ですが、猫との別れを綴った最後の短歌とエッセイには、やはり悲しい気持ちになります。それも含めて、猫と生きること。


衰えた猫はやっぱり撮れなくて
     アラーキーにはなれそうもない
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 猫の死は、きつい。
 どこかをもがれたような感覚がずっと続く。突然、腹の底から「悲しみ」としか言えないものがせり上がってきて、吐くように泣く。自分ではまったく制御できない。

 我が家には、いま九匹の猫がいる。あと最低九回も、あんな思いをしなければならないなんて、考えただけで、考えたくなくなる。
 だけど、そこは腹にぐっと力を入れる。

 これまでどれだけ猫に救われてきたというのだ。僕が看取らないでどうする。この恩知らずが。
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