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『私的台湾食記帖』(内田真美) [読書(随筆)]


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台湾、特に台北での楽しみは、大きくはない街にぎゅっと中華八大料理が集まり、その日の気分で食を選べるところです。また、小吃と呼ばれる街角で食べられる屋台料理や、専門店が多くあるデザートを食べたり、芳しい台湾茶を楽しんだり、一日で何通りもの食を体験することが出来ます。
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単行本p.5


 子連れで台湾、ひたすら食べる。料理研究家が、台湾の美味を紹介してくれる料理専門の台湾ガイドブック。単行本(アノニマ・スタジオ)出版は2016年3月です。

 台湾旅行の前には、何やら昂る気持ちを抑えきれず、台湾旅行ガイドブックの最新版を色々と購入してしまうものですが、今回の訪台前に仕込んだガイドブックのうち最も役に立った一冊がこれ。

 類書と違うのは、まず著者が料理研究家ということで、ひたむきに「美味しい料理」を追求していること。取り上げられている場所はほぼ台北(永康街、雙連・中山エリアが中心)だけですが、ガイドブックにありがちな「日本語が通じるか」「観光客がアクセスしやすい場所にあるか」といった選定基準は無視、とにかく自分が食べて美味しかった店と料理を紹介してくれます。

 紹介文もガイドというよりは体験記のような感じで、臨場感たっぷりに書かれています。さすが料理研究家だけあって、味だけでなく「どのような素材から」「どのような場所で」作っているのか取材するところが面白い。


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やっと現物に出合えた胡椒餅は、見てみたかった作業風景と共にそこにありました。目の前で次々に包まれていく胡椒餅は、粗く叩かれて調味された豚肉餡を発酵した小麦粉の皮に包み、そこに小口切りにした葱をたっぷりとくっつけるようにして最後を包み込む。熱さもなんのその、タンドールのような貼り窯に貼り付けて焼いていき、底と上面がガリッとするくらいに香ばしく焼き上げられて、熱々を袋に入れて渡してくれます。
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単行本p.100


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娘とふたりで「美味しかった!」と連呼する私たちに、厨房にいらした高さんが挨拶をしてくださいました。(中略)見せていただいた厨房は、清潔で小回りが利き使いやすそうで、静かな微笑みの高さんらしさが詰まっていました。
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単行本p.76


 もう一つの特徴は、ありがちな「ばりばり働いている若い女性の週末台湾旅行」を想定しているのではなく、「台湾リピータの主婦が子供連れで何度も食べにゆく」というシチュエーションに特化していること。


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食事中、娘が食べている姿をお店の方が見に来てくださるなど、小さい子が楽しく食事をしているか、食べづらくないか、店主の桃さんがいつも全体を見渡していらっしゃるのも安心します。スタッフのみなさんがあまり入れ替わりがなく、いつ伺っても同じ方がいらっしゃるということも安心して再訪する理由のひとつです。美味しさはもちろんですが、子供連れでも気持ちよく美味しいものをいただけるというのは、本当に有難いことです。
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単行本p.15


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グルテンと野菜のひと口大の揚げ物は子供たちに大人気ですし、好物の龍髭菜の和え物があれば必ず買って帰ります。「南門點心坊」では、いろいろな種類が入った小さい饅頭を。蒸しておかずと一緒に食べたり、馬拉米羔はおやつにします。これで夕飯と朝ごはんの心配はなくなり、最後の時間をゆったりとした気持ちで楽しみます。
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単行本p.38


 「スタッフの入れ替わりがないので毎回安心」とか「(帰国直後の)夕飯と朝ごはんの心配をなくす」といった着眼点は、さすがだと思います。他にも、親子で泊まるホテルの選び方、鉄道の子供料金、レストランでの子供対応(子供用食器、調味料の調整など)といった「子連れ台湾リピーター」のための情報が充実しています。



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