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『タイポさんぽ 台湾をゆく』(藤本健太郎、柯志杰) [読書(教養)]


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現地滞在中は、脚と目の向くままにすべてを任せ、おもしろい文字、変な文字、味わい深い文字に出くわしてはとにかく採取していった。(中略)台湾旅の素人が、絶品グルメや鉄板観光地や定番お土産などからの多彩な誘惑をほぼ全無視し、ただひたすらに大路を渡り小路に分け入り、文字をつまみあげ看板を見上げてはニヤニヤし倒してきた、その結果が本書である。
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単行本p.158


 台湾の街を歩いて、店の看板や貼り紙をチェック。その味わい深いロゴやタイポグラフィ、レタリングを鑑賞・収集する路上文字観察の一冊。当然ながら看板写真満載。単行本(誠文堂新光社)出版は2016年6月です。


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一見同じ漢字システムを使っていながらも似て非なるパラレルワールド感が、日本人目線からはたまらない。かと思えば、ショーケース下、三色の手書きボードの中央には「超鮮の」とある。「の」はもちろん日本のひらがなから取り入れられたもので、台湾ではすでに十分ポピュラーな表現になっているそう。
 これはきっと、読んで字の如く「超新鮮な」という意味だと思う。うん。台湾、なんとなくノリでイケそうだな!
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単行本p.9


 いやノリだけではイケないと思う。

 それはともかく、ひたすら台湾の街角で見かけた文字、ロゴを集めたのが本書です。言うまでもなく看板写真が多数掲載されており、中には個人的に見たことのある場所や看板も含まれていて、ちょっと嬉しい。

 とにかく著者の、はしゃぎっぷり、興奮度合いがすごくて、正直ちょっと共感できない(というよりそもそも何を言ってるのか理解できない)ケースも多いのですが、何にせよ台湾の街角を歩いて驚喜している様はうらやましい限り。


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 日本国内でのタイポさんぽ経験から、ステンシル物件に出くわす頻度はこれくらい、というのは自分の中にだいたいの体感としてあった。そんなに大した頻度ではない。(中略)ところが台湾に来ると、そんなステンシル物件に出会う頻度が日本の十五倍から二十倍くらいに跳ね上がるように感じられる。ちょっとなんでそんなことになってしまっているのかよく分からない、と思わずイイ顔で混乱してしまうくらいに多い。もうこれは、ステンシルの聖地と言って差し支えないレベルである。
 しかもただ多いだけではない。DTP化以前の時代から生き残っているステンシル文字たちに加えて、おいおいキミはそんなに古くはないだろ、新しい子だろ!? という、どう見ても“新作”っぽい文字まであるのだ。
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単行本p.18


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これまで日本国内で重ねてきたタイポさんぽで思い知った“ファッション系看板の文字には当たりが多い”の法則が、台湾でも立派に通用することが、この文字との出会いではっきり判明した。
(中略)
 飲食店の裏口などに積まれていがちな食材・調味料系容器が狙い目というのは、やはり台湾でも通用するTipsだった。
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単行本p.25、27


 こんな具合に日本国内でのタイポさんぽと比較しながら街歩きしてゆくうちに、段々とテンション上がってゆくというか、むしろ熱射病が心配になるレベル。


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 このカクッとしたモダンルッキングの高層マンションタイポ、ここだけかと思いきや、後日違う場所で近い方向の例にたびたび遭遇。このテイスト、台湾高層マンションシーンでのトレンドなのだろうか。俄然興味が湧いてくる。
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単行本p.25


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 大正末~昭和ヒトケタ時代に日本で全盛期を迎えていた図案文字流行期を想わせる、クラシカルなスタイル。優美な波線エレメントと、パールジュエリーのように随所にちりばめられた丸点の効果で、おしゃれ感は抜群だ。
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単行本p.25


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 だが、こうした表現に目線を持っていかれて、ロゴの元になっている書体が実は結構カチッとした印象の太明朝体であるということに、最初気が付かなかった。ファンシーをやろうとしても、思わずトラッドが滲み出てしまう……この字にはそんな中国語圏タイポの性格の一面が現れているように感じられた。
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単行本p.31


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 このクドいまでの押し。台湾看板世界、本当にあなどれない。そしてここでもまた、おしゃれ+トラディショナルの毛根が覗いているのだ。
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単行本p.41


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 中心に一本スジが通った形の字ヅラを味方に付けている感じといい、色褪せて現れはじめた赤ペンキの塗りムラといい、「風」と「楽」の字に顔を出すトラディショナル・エッセンスといい、味わい看板とはまさにこういうものといった感じ。
 これほどの看板なら、功夫映画の主人公が駆け上がってもさぞかしいい絵になるだろうと、見上げる目線の先に役者の動線を描いてしまう。
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単行本p.42


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 どうしても超絶技巧仕事とならざるを得ないネオン菅繁体字は、点灯していればもちろん素晴らしい絵ヅラになるが、消灯しているときでも同じくらい素敵な佇まいを見せる。(中略)デッドリーレベルの画数の漢字が、完璧なネオン管ネットワークで一画も略すことなく書ききられている。(中略)全力で当たった感がひしひしと伝わってくる、鬼気迫る仕事だった。
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単行本p.133、134


 台湾タイポひゃっはーになって湯気たてている藤本健太郎氏さんの文章と、いかにも教養ある中華知識人という風格を漂わせた柯志杰さんによる冷静な文章の落差も、いい感じです。


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 中華文化では昔から漢字を書道的、叙情的観点から見ているようです。これに対し、日本の場合は漢字を図案として捉えている傾向があります。フォントデザインの現場も、日本の漢字デザインは組んだ後の読みやすさ、フトコロの均一さを追求しているのに対し、台湾・香港の漢字デザインは漢字それぞれの個性、エレメントの勢いを重視しています。つまり、日本の漢字デザインは理性的、台湾の漢字デザインは感性的と言えるかもしれません。
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単行本p.122


 というわけで、ロゴ、フォント、タイポグラフィー、特に漢字圏のそれに興味がある方はもとより、台湾の街角散歩が大好きな方にもお勧めしたい本です。



タグ:台湾
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