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『すごい家電 いちばん身近な最先端技術』(西田宗千佳) [読書(サイエンス)]


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家電はもはやあたりまえのもの、新しいテクノロジーとは無縁……、そんなふうに思っていないでしょうか。
 ――でも、違います。(中略)毎日なにげなく使っているあの家電もこの家電も、実は、おどろくほど高度な知恵とテクニックの組み合わせで成り立っているのです。
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新書版p.3


 テレビ、洗濯機、冷蔵庫、いわゆる電化製品の「三種の神器」が喧伝されてから半世紀。今やハイテクの固まりとなっている家電製品の驚くべきテクノロジーを、一般向けに分かりやすく解説してくれる一冊。新書版(講談社)出版は2015年12月、Kindle版配信は2015年12月です。


 主な家電製品を取り上げて、その基本的な仕組みから最新テクノロジーまで詳しく解説してくれます。知っているつもりで実はほとんど知らなかったその技術。具体的かつ詳細な点については、パナソニックの全面協力により、同社製品の仕組みを具体的に教えてくれるところも魅力的です。他社メーカーも、こういう形での宣伝をどしどし推進してほしいと思います。


 本書で取り上げられている家電は次の通り。

洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、炊飯器、
テレビ、ビデオレコーダー/ブルーレイディスク、デジタルカメラ/ビデオカメラ、
エアコン、照明、電動シェーバー、マッサージチェア、トイレ、
電気給湯器(エコキュート)、電池、太陽電池、HEMS


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 家電にまつわる知識には、耳にしたとたんに「どうしても誰かに伝えたくなる」ものも少なくありません。本書ではそうした知識を「Trivia」として抽出し、強調表示しました。みなさんもぜひ、誰かに伝えてみてください。
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新書版p.4


とのことなので、私も誰かに伝えてみようと思います。


「冷蔵庫」より
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 炭化水素の一種であるブタンは、自然界に存在します。カセットコンロの中身として使われる、いわゆる「可燃性ガス」ですが、冷媒としての能力が高いことに加え、オゾン層にも影響を与えず、温室効果にも悪影響を与えにくい性質を備えています。欧米では日本に先行して利用が進んでいましたが、日本の冷蔵庫には1つの問題があり、なかなか普及しませんでした。
 日本特有のその問題、何だか想像がつくでしょうか?
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新書版p.34


「炊飯器」より
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 複数のIHユニットを積極的に使うメリットとして、ユニットの位置によって加熱する場所を変化させることで、内部のお湯の対流を制御して変えられることが挙げられます。パナソニックの炊飯器では、0.04秒単位で加熱位置を切り換えることで、沸騰する泡の発生位置を変えて対流を制御し、米がより釜の内部で激しく動くよう工夫しています。
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新書版p.88


「テレビ」より
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最新の4Kテレビでは、もはやハイビジョン放送やブルーレイディスクの映像でさえ、「解像度が足りない」状態です。超解像技術を使うことによって初めて、ハイビジョンの映像が本来もっている「正味の情報量」を出し切り、あたかも4倍の解像度をもつ映像であるかのように見せることが可能になるのです。(中略)
 この超解像技術は本来、テレビ用に開発されたものではありません。1960年代には、実は天文学や宇宙探査の分野で利用されていた技術なのです。
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新書版p.111、112


「照明」より
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 蛍光灯とは異なり、紫外線を発しないのもLEDの特徴です。蛍光灯は水銀に電子がぶつかる際に紫外線を出すため、そこに虫が集まりやすいという欠点をもっています。街灯などにLEDを使うことで、蛍光灯に比べて虫が集まりにくくなるメリットもあります。
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新書版p.184


「電動シェーバー」より
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 通常、60μm(0.06mm)の距離がないと、刃が皮膚を削ってしまいます。(中略)この刃は、平坦な板に穴があいている構造にはなっていません。穴の周囲の一方向だけを41μm(0.041mm)と薄くすることでヒゲの根本に潜り込みやすい構造とし、円周の残り部分は60μmの厚みをキープすることで、内刃が皮膚に接近しすぎて傷つけることを防止する形になっています。
 構造が複雑なぶん、製造はより困難を極めます。前述の通り、このフィニッシュ刃にはおよそ12mm×38mmの中に約1300個もの穴があけられているのですから、その大変さは容易に想像がつくでしょう。
 この刃のための金型は、加工用の切削工具で圧力をかけて作るのですが、そもそもその工具を作るために、きわめて微細な加工を正確に行う技術が必要です。
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新書版p.203、204


「マッサージチェア」より
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 実は、位置センサーが計測しているのは「肩」だけではありません。肩の位置から「その人がどのような体格をしているか」を判断した上で、座ったときの「お尻の位置」を判別し、こんどは圧力センサーを使って、椅子に腰かけたときにどこに圧力がかかっているかという情報と照合します。これから得られたデータを基に、もみ玉を動かす機構の位置を調整して、適切なマッサージを実現しているのです。(中略)
 現在の製品では、もみ玉は2000分の1秒単位で制御されており、動く範囲や位置などの微細な調整が行われています。(中略)現在のマッサージチェアは、ほとんど「ロボット」とよべる段階にまで進化しています。
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新書版p.213、214


 きりがないのでこのくらいにしておきますが、とにかく細部に至るまで執拗なこだわりを持って開発されていることに驚かされます。ここまで徹底する日本のものづくり。技術者として感動を覚えますが、でも、いったいそのこだわりのためにどれだけの開発費と開発期間と製造コストを上乗せしているのか、もしやそれゆえにグローバル市場で日本の電化製品が競争力を失って凋落してしまったのではないのか、とも思います。



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