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『WHITEST』(山村佑理、渡邉尚、カンパニー「頭と口」) [ダンス]


公演パンフレットより
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ジャグリングの領域は際限がなく、その壮大さには畏敬の念を抱くほど。どこまで掘れるのか、全てを掘り尽くせるのか。あまりに膨大だが不可能ではない。日々、そんなことを考えつつ、ボールと環境と共にあり続けられる今が、ジャグラー冥利に尽きるとも言えます。
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頭と口


 2016年11月6日は夫婦でKAAT神奈川芸術劇場に行って、ジャグリングカンパニー「頭と口」の新作公演を鑑賞しました。

 旗揚げ公演『MONOLITH』の衝撃からほぼ一年。今年末にはフランスに拠点を移すため次はいつ観られるか分からない「頭と口」の公演です。ちなみに、旗揚げ公演の紹介はこちら。


  2015年12月28日の日記
  『MONOLITH』(山村佑理、渡邉尚、カンパニー「頭と口」)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-12-28


 『MONOLITH』では二人がそれぞれ自分の作品を披露してくれましたが、いよいよ今回は二人が共演する70分の新作です。

 客席と段差はなく、最前列席と同じ平面上にフラットに存在する舞台。そこに白いお手玉(ビーンバッグ)が三列に置かれています。客席に最も近い列に19個、その向こうに13個、その向こうに7個。さらに舞台最奥には21個が積み上げられており、総計60個のお手玉が使われます。ちなみに『逆さの樹』(渡邉尚)では36個だったので、一気に2倍近い増量。さすがはデュオ公演です。

 この舞台上で二人がいきなり倒れて、片手で必死にお手玉に「捕まって」ぶら下がってもがきます。あたかも舞台が90度回転して、舞台奥の壁が「地面」となり、実際の床がそそり立つ「絶壁」になった感じ。断崖絶壁に片手でぶら下がってボルダリング(フリークライミング)する二人を、観客は断崖の上から覗いているような按配になります。

 断崖のわずかな出っ張り(床に置いてあるお手玉)を片手でつかんで、決死のジャンプ(床の上を滑って、あるお手玉から別のお手玉へと移動する)を繰り返しながら、少しずつ「絶壁」を登ってゆく緊迫したクライミングシーンから始まって、「お手玉で区切られた領域では重力の方向が異なる」というルールを駆使した様々なアクションが繰り広げられます。

 例えばある領域では中央に向かって重力が働いているらしく、左右両側から「落下」した二人が中央で足と足を合わせて互いに逆向きに「重力に沿って真っ直ぐに立つ」といった具合。まるでSF映画を観ているようです。

 二人が走り回るたびに床に置かれているお手玉の配置が次々と変わってゆき、直線が出来たり円が出来たり、パターンが流れるように変化してゆくのも魅惑的。床に落ちている対象物を操作するのが「フロア・ジャグリング」なのだそうですが、こうやって舞台全体の重力をいじくることにより、床に張り付いてお手玉を動かすという動作がごく自然に行われたり、多数のお手玉が平面空間を自由に漂い動いているイメージが作り出されてゆく様には感心させられます。

 重力の方向だけでなく、例えばお手玉を並べて作った線は越えられないとか、他にも色々な「ルール」が生まれ、それが効果的に使われてゆきます。人外生命体に見える渡邉尚さんがこのルールを活かして意外に知的な策略で山村佑理さんを「トラップ」に追い込むとか、すげえな。

 個人的には、二人がそれぞれ両手に複数個のお手玉を握り、口にもお手玉をくわえたまま、互いに闘うシーンがお気に入り。最初は格闘技(ボクシング)のように人間っぽい戦いですが、やがて明らかに動物の闘争に。最後はよく分かりませんがたぶん植物の胞子合戦レベルに。すぐ人外になるので観客も油断できません。

 背中に乗せたお手玉をジャンプして空中に飛ばし、もう一人がそれを背中で受ける動作を交替で続けるという、手足をまったく使わない超絶的ジャグリングが素晴らしく。他にもジャグリングのシーンが断片的にはあるのですが、数回続けてはわざと床に落としてしまうところがいじわるというか、お手玉が床に落ちた後の動作こそがフロア・ジャグリングなのでしょう。

 というわけで、床に転がって置かれているお手玉をいかに操作するか、というところから始まって、60個のお手玉と床と身体を使って出来るあらゆる遊びの可能性を追求したような、そんなスリリングな舞台でした。