SSブログ

『地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史』(ウィル・ハント、棚橋志行:翻訳) [読書(随筆)]

――――
 祖先たちがそうだったように、私たちは常に、自分より偉大な何かに手を触れるため、秩序立った現実の向こうにたどり着きたいという静かな欲望によって地下へ引き寄せられる。(中略)この何年かで探検をともにした地下愛好家(カタフィル)や、私が敬服した歴史上の偉人たちは、形はさまざまでも超越を探求する人ばかりだった。暗帯(ダークゾーン)でバイオリズムと向き合ったミッシェル・シフレ。都市のはらわたの中で秘密の芸術作品(アートワーク)を創ったREVS。並行する次元へ掘り進もうとするかのように自宅の下に穴を掘ったウィリアム・リトル。地底に生命を探し求めようとしたジョン・クリーブス・シムズ。パリの不可視層を写真にとらえたナダール。都市の下の静かな暗闇で古代水路の通路を歩いたティーブ・ダンカン。彼らはみな神秘的な謎を探し、手近な現実の地平を超えた何かとの接触を求めて地下へ潜入した。
――――
単行本p.273、274


 ニューヨークの地下世界、パリの地下納骨堂、アボリジニの神聖な鉱山、カッパドキアの地下トンネル網、……。地下に魅せられた著者が、世界各地にある闇に閉ざされた秘密の地下世界へと向かう。地下世界の魅力と神秘を探求した驚異のノンフィクション。単行本(亜紀書房)出版は2020年9月、Kindle版配信は2020年10月です。


――――
 秋庭のように政府の陰謀こそ追求しなかったが、彼が東京で経験したのとおそらく同じようなことを、私はニューヨークに感じていた。熱に浮かされたように、地表に不信感を抱いた。目に見える表層的なものに対して懐疑的になった。どの歩道にも秘密の空洞が隠されていて、暗い階段の底にある扉はどれも隠された別の層へ続いているのだと、私は確信していた。(中略)
 結局、私は東京へ調査に赴くことはなかった。秋庭俊に会ったこともない。国会議事堂前のトンネルに目を凝らして、カーブの向こうに何が隠れているのかと考えたこともない。それどころか、彼の暮らす都市の街路の下に何があって、何がないか、私はほとんど知らない。秋庭俊は英雄的な真の探究者なのか、変人なのか、人々からまったく無視されているのかも知らない。しかし、旅と探検に身を投じるうち、私は行く先々で秋庭俊と同じような人たちに遭遇した。自分たちに見えないもの、目が届かないもの、探知できないものの虜になった人々だ。
――――
単行本p.8、9


〔目次〕

第1章 地下へ 隠されたニューヨーク
第2章 横断 パリの地下納骨堂
第3章 地球深部の微生物 NASAの野望
第4章 赤黄土を掘る鉱夫たち アボリジニの聖域
第5章 穴を掘る人々 もぐら男とカッパドキア
第6章 迷う 方向感覚の喪失が生む力
第7章 ピレネー山脈の野牛像 旧石器時代のルネサンス
第8章 暗闇 「創世記」の闇と意識変容
第9章 儀式 雨を求め地下に下りたマヤ人




第1章 地下へ 隠されたニューヨーク
――――
 十年以上にわたって、石質の地下墓地、廃棄された地下鉄駅、神聖な洞窟、核シェルターなどに出かけた。最初は自分の執着を理解するための探索の旅だったのだが、地下へ下りるたびにその風景の奥深さに波長が合いはじめ、そこからいっそう普遍的な物語が浮かび上がってきた。
――――
単行本p.23

 16歳の夏、自宅の真下を廃棄された列車用トンネルが通っていることを知った著者は、探検に出かける。そして、地下世界の魅力にとりつかれる。


第2章 横断 パリの地下納骨堂
――――
 私たちはパリの地下横断を計画した。街の端からもう片方の端まで、ひたすら地下の基幹施設を歩く。スティーブはニューヨークでこの旅を夢見ていた。私たちは計画に数カ月を費やし、古地図を調べ、パリの探検家に相談し、通行可能なルートを確認した。机上の計算では、この探検旅行はなんの問題もなく予定どおりにいくはずだった。
――――
単行本p.47

 地下納骨堂、カタコンブ、それはパリの地下に張りめぐらされているもうひとつの世界。地下経路を通ってパリを横断する冒険は、地下世界で行われている様々な活動を明らかにする。


第3章 地球深部の微生物 NASAの野望
――――
 人類のどこかに、地下で生まれた祖先の幻の痕跡があるかもしれないという考えに魅せられた私は、その微生物学者チームに会いにいくことにした。NASA宇宙生物学研究所の〈地下生命体〉と呼ばれる実験に取り組んでいる人々だ。彼らはサウスダコタ州にいて、ホームステイクという名の廃鉱になった金山の深部で地下微生物を探していた。
――――
単行本p.82

 地下に棲息している生命のバイオマス総量は地表のそれを上回るかも知れない。最初の生命は地下で発生した可能性がある。地下生命圏に関する知識は、他の惑星における生命探査にも役立つだろう。NASAの研究チームとともに、著者は地下深部における微生物サンプル収集の現場を見学する。


第4章 赤黄土を掘る鉱夫たち アボリジニの聖域
――――
 日が昇り、鉱山に開いた入口から斜めに光が差し込むと、赤黄土がチラチラ揺らめき、温かな赤ワイン色から鮮やかな紫色、目に焼きつきそうなピンク色へと変化した。壁が動いているような幻想に陥った。あたかも鉱山全体がゆっくり鼓動しているかのようだ。私たちは生き物の喉を通って地球に呑み込まれようとしていた。
――――
単行本p.131

 かつて鉱物と人間の関係はどのようなものだったのか。オーストラリア原住民にとっての聖地である鉱山に赴いた著者は、坑道のなかで地の精霊たちの気配を感じ取ろうとする。


第5章 穴を掘る人々 もぐら男とカッパドキア
――――
 カッパドキアでは、どの集落の地下にも手掘りの洞窟が網のように張りめぐらされ、曲がりくねったトンネルでつながっている。“地下都市”と呼ばれるものと案内書には書かれていた。城を逆さまにしたような形の巨大なものもあり、地下十層以上、人が何千人も入れるという。そんな“都市”が地域全体で何百とあるらしい。
――――
単行本p.142

 カッパドキア遺跡の地下に広がる巨大な“都市”。その想像を絶するトンネルのネットワークを通じて、著者は「穴を掘る」というある種の人々を駆り立てる衝動について考察する。


第6章 迷う 方向感覚の喪失が生む力
――――
 世界の隅々に迷宮構造は見られる。迷宮は一種のリミナリティ・システムで、方向感覚の喪失を高濃度で体験できるようお膳立てをするためのものだ。曲がりくねった石の通路に入り、限られた経路に焦点を向けるとき、私たちは外の地理から離れ、あらゆる基準点が剥離した一種の空間催眠へと滑り込む。この状態で私たちは変質を経験し、社会的地位、人生の段階、あるいは精神状態の間を行き来する。
――――
単行本p.184

 地下の暗闇のなかで方向感覚を失い、完全に迷ってしまう。その経験は人間の意識をどのように変容させるだろうか。ナポリの地下探検の際に味わった迷子体験をもとに、著者は日常的な空間から切り離された地下で迷うという体験について考える。


第7章 ピレネー山脈の野牛像 旧石器時代のルネサンス
――――
 丸天井の小さな部屋があり、平らな床はむきだしの状態だった。私たちがひざまずいているところから三メートルほど離れた中央部に、大きな石がひとつあった。その石にもたれかかるように、わずかに傾いた感じで置かれた一対の粘土製のバイソンが、柔らかな光に輝いていた。全員が合わせたように息を吐いた。全身が緊張し、腱のひとつひとつが固まり、肩の筋肉が収縮した。次の瞬間、すべてが一挙に解き放たれた。

――――
単行本p.209

 洞窟の奥に隠されている先史時代に造られたバイソン像。ニューヨークの地下で誰にも見られないようにグラフィティを描き続ける現代アーティスト。地下空間と芸術との関係を掘り下げてゆく。


第8章 暗闇 「創世記」の闇と意識変容
――――
 洞窟やトンネル、地面に開いたどんな穴でも同じだが、その入口をのぞき込むたび、私たちはハッと気がつく。夢の中で、意識の縁で、この場所を見たことがある。その扉を通過した時点で、私たちは明瞭な地表世界をあとにし、直線的な連続性や通常の意識が立てる論理から撤退し、無意識という流動的な状態にすとんと入り込む。私たちは暗帯(ダークゾーン)でバイオリズムと向き合ったミッシェル・シフレであり、祖先の霊と語り合ったピタゴラスでもある。いずれにしても、私たちはふつうの現実という渦の外へ足を踏み出し、この世の縁を越えた先へ少しずつ近づいていく。
――――
単行本p.248

 地下空間がもたらす意識変容をとらえるべく、著者は洞窟の暗闇のなか全くの孤独状態で24時間過ごすことに挑戦する。


第9章 儀式 雨を求め地下に下りたマヤ人
――――
 地下空間と結びつくなかで、私たちは未知なるものへの疑念を持たず、のべつ幕なしに何もかもを暴き出すべきではないことを学ぶ。常に裂け目が存在し、常に盲点があることを受け入れられるよう、地下は私たちを導いてくれる。人間は呪術的思考や夢の階段や迷子の状態に影響されやすい、無秩序で不合理な生き物であり、それが素晴らしい贈り物であることを、地下は思い出させてくれる。祖先がずっと知っていたこと、つまり、未来永劫語られざるものと見えざるものにこそ力と美が在ることを、地下は教えてくれるのだ。
――――
単行本p.280

 マヤ遺跡の地下に広がる洞窟。そこで行われていた儀式。人間にとって地下空間が何を意味するのかを探る著者の旅は続いてゆく。





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』(鈴木宏昭) [読書(サイエンス)]

――――
 人の知覚はとても限定的だし、記憶も儚く脆い。知性の根幹をなす概念も時にわずかなサンプルから作り上げられてしまい、偏見や差別を生み出す。推論や意思決定などの思考も表面的な特徴に惑わされ、本質を見損なうことがある。人間に固有の言語というものも、現実を酷く歪んだ姿で捉えることを増幅し、記憶や思考を阻害する。他者は人をおかしな方向に導き、不合理、非道徳的な集団意思決定を生み出す。こうしたことから、人はバイアスまみれの当てにならない存在であるということが導かれる。このようなことを紹介する本は、日本語のものに限っても相当な数となっている。そうしたことから、人の非合理性、非論理性はある意味、常識化しているとも言える。
 しかし、人はそうした側面だけを持つわけではない。(中略)人を愚か者だと断定してしまうのは、それ自体もバイアス、つまり「認知バイアス」バイアスといえる。
――――
単行本p.218


 人間の知覚、記憶、概念、推論、意思決定には大きな偏り、認知バイアスが含まれる。代表的な認知バイアスを紹介するとともに、そのような偏りや不合理の存在は人間にとってどのような意味があるのかを論じる一冊。単行本(講談社)出版は2020年10月、Kindle版配信は2020年10月です。


〔目次〕

第1章 注意と記憶のバイアス
第2章 リスク認知に潜むバイアス
第3章 概念に潜むバイアス
第4章 思考に潜むバイアス
第5章 自己決定というバイアス
第6章 言語がもたらすバイアス
第7章 創造(について)のバイアス
第8章 共同に関わるバイアス
第9章「認知バイアス」というバイアス




第1章 注意と記憶のバイアス
――――
 この事件では被害者の証言により、ある心理学者が逮捕された。しかし彼はすぐに釈放されることになった(忖度のせいではない)。というのも、その時間に彼はテレビの生放送に出ていたからである。ではどうして被害者は虚偽の証言をしたのだろうか。実は彼女はその事件の直前まで、その心理学者が出演していた番組を見ていたからなのである。
 そんなバカなことがあるのかと思われるかもしれない。しかし私たちは何を見たかは覚えているが、それをどこで見たかは意外に覚えていないものだ。
――――
単行本p.30

 有名なゴリラ動画など私たちの視覚や注目がいかにあてにならないかを示す実験の数々を紹介し、チェンジブラインドネスや虚偽記憶のメカニズムにせまります。


第2章 リスク認知に潜むバイアス
――――
 メディアは珍しいこと、つまりめったに起きないことほど集中的に報道する。するとリハーサル効果により記憶に定着し、利用可能性ヒューリスティックが働くことで、現実とはまったく逆のリスク頻度の推定を行ってしまうのだ。つまり、私たちは同じタイプのことが100回起きることと、そのタイプの一つの事例について100回聞くことを区別していないのだ。
――――
単行本p.53

 私たちがありそうな危険を無視し、可能性が低いリスクに過大に脅えるのはなぜだろうか。利用可能性ヒューリスティックという心の働きが引き起こす認知バイアスを解説します。


第3章 概念に潜むバイアス
――――
 代表例を用いてカテゴリー判断を行うと、連言錯誤のような論理的にはあり得ないような間違いを犯すことがある。また、これが社会的ステレオタイプという形を借りて、人種などの人の集団に適用されることで、差別や偏見が生み出されることも或る。また代表例の特徴はそれが代表する集団全員に当てはまると考える心理学的本質主義が加わると、差別、偏見はさらに増長される。
――――
単行本p.78

 差別や偏見はどのようにして生まれ、強化されてゆくのか。連言錯誤の実験から始まって、代表性ヒューリスティックについて解説します。


第4章 思考に潜むバイアス
――――
 演繹推論(4枚カード問題)、帰納推論(2-4-6課題)において確証バイアスが働き、それが非論理的な答えを導き出してしまうことを述べた。こうした推論のバイアスは、実験室の中だけで見られるものではない。人間関係においては第一印象に過度に頼り、正確な人間評価を妨げることもある。さらに、原因を求める際にも、偏った非合理な方向へと私たちを導いてしまう危険性がある。
――――
単行本p.96

 何かを推論し、それを確かめようとするときに働く確証バイアス。その働きのために下してしまう非合理な判断、そしてその強化プロセスについて解説します。


第5章 自己決定というバイアス
――――
 人の行動は自由意志によって、その人が自覚できる意図に基づいて行われるわけではなく、意識できない情報、無意識の働きによって引き起こされる。これは大きな問題となる。なぜなら原因が意識できないからだ。意識できないものは理由や原因の候補とはならない。ではどうするのだろうか。
 今までも見てきたように人は意図に基づく作話、つまり意図を使ったでっち上げをするのだ。
――――
単行本p.131

 私たちの行動は無意識のレベルで決定されており、さらにその行動は自分が意図的に決めたものだという作話(つくり話)をでっち上げることに長けている。行動原因を探ることの難しさを解説します。


第6章 言語がもたらすバイアス
――――
 そうした能力は言語の発達とともに表に出ることが少なくなるということだ。言語能力が十分でない(あるいはほとんどない)、ナディア、クロマニヨン人、チンパンジーは写真的記憶能力をフルに活用して絵を描いたり、難しい記憶課題を楽々とこなしていく。一方、言語能力に長けた大学生たちは「物体X」としか言いようがない、笑うしかない絵を描き、チンパンジーが楽々こなす記憶課題で四苦八苦する。
――――
単行本p.152

 言語の発達によりある種の能力の発動が妨げられていることを示す実験を取り上げ、世界を言語によって理解することの功罪を論じます。


第7章 創造(について)のバイアス
――――
 ひらめきが突然現れたかのように思うのは、意識的なシステムが無意識的システムによる漸進的な向上をうまくモニターできないからとも言える。
 こうした結果の解釈は、ひらめきは学習、それも無意識的な学習だ、という反直感的な考え方を提示する。ひらめきは突発的なものであり、試行を積み重ねて徐々に上達するような学習とは無縁であると考えるかも知れないが、そうではない。無意識的システムが試行を重ねる、つまり学習を行うにつれ徐々に洗練されていき、結果としてひらめきを生み出しているということになる。
――――
単行本p.181

 思考の飛躍が必要な課題に取り組むとき、試行錯誤するなかで私たちの無意識は何をしているのか。イノベーションを生み出す心の仕組みに関する誤った思い込みについて解説します。


第8章 共同に関わるバイアス
――――
 集団には集団の力学というものがあり、1人の行動を支配する原理とは別の原理が働くのだ。だからある時には集団は個人では期待できないような成績を残すこともあるし、見事な秩序を生み出すこともある。一方、ブロッキング、評価不安、タダ乗りの結果、合計が2にはならず、1.3になるかもしれないし、0.7のように1人の時よりも悪くなることもある。また3や4になる時もあるだろうが、それが素敵なことかどうかは仕事の種類にもよる。
――――
単行本p.213

 人は集団になると驚くほど愚かな、あるいは非人道的な行動をとることがある。その背後にはどのようなメカニズムが働いているのだろうか。人と人との共同作業の背後で働いている認知バイアスを解説します。


第9章「認知バイアス」というバイアス
――――
 人の知性は、人の住む環境の中で、そして人の生物学的な条件の下で作り出されたものである。限られた注意資源、勝手に繋がりを作り、作話をしてしまう記憶、自分のコントロールの及ばない無意識的な処理、諸刃の剣である言語の利用、そういう生物学的な条件、そして社会との協調およびそれがもたらす軋轢という環境の条件の中で私たちの知性の基本は作り出された。また、今後現れるであろうすべての状況に事前に準備するわけにはいかないので、ここ数万年くらいはあり合わせのものでプリコラージュしながら修繕屋として生活してきたのである。だから、それを度外視した状況を勝手に設定して、そこで人間の知性を論じたりしても意味がない。
――――
単行本p.252

 これまで見てきた数々の認知バイアスの存在から、人間の知性は欠陥だらけの粗雑なものだとつい考えたくなる。実はそれも人間の知性を評価するときの認知バイアスの一種だということを論じます。





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『笑う数学 ルート4』(日本お笑い数学協会) [読書(サイエンス)]

――――
今回は数学で全学問を乗っ取るべく、学校で学ぶ国語、英語、理科、社会、はたまた家庭科、道徳、美術に体育と、全教科を数学に絡めて語っています。
――――


 ちょっと面白い数学ネタから、役立つ計算法や解法、さらには数学用語による駄洒落まで、数学の「笑える」話題を集めた『笑う数学』シリーズ最新作。単行本(KADOKAWA)出版は2020年10月、Kindle版配信は2020年10月です。

『笑う数学』シリーズ第一弾の紹介はこちら。

2018年02月28日の日記
『笑う数学』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-02-28


 さて、その第ルート4弾、というか素直に第二弾と書けばいいのに、では「数学で全学問を乗っ取る」という野望のもと、学校の全教科を数学にしてしまうというネタで遊びます。だいたいこんな感じです。


・漢字をトポロジーで解析して「猫」=「神」であることを証明
・言葉を数字に変換して、「いぬ」と「ねこ」の平均が「すた」であることを証明
・円周率を英文に変換して覚える
・グラフにすると英語になるような方程式
・葉っぱの生え方に隠された数学的性質
・数学を使って真田信繁の石高を計算する
・最も早い割り勘の計算方法
・黄金比に近い文字ランキング


〔目次〕

1時間目 (国語)×数学
2時間目 (英語)×数学
3時間目 (理科)×数学
4時間目 (社会)×数学
5時間目 (その他の教科)×数学




1時間目 (国語)×数学
――――
 トポロジーではよく「コーヒーカップはドーナツと同じ」などとたとえられます。(中略)「猫」と「神」も同じです。猫は神なので、当然ですね。
――――
「漢字の「本質」 ~猫は神~」より




2時間目 (英語)×数学
――――
点P、それは、算数・数学界の中で最も嫌われている存在。
点P、それは、何者かの力によって動かされている存在。
点P、それは……

なぜ、点Pは点「P」なのだろう?
――――
「点Pはなぜ「P」なのか」より




3時間目 (理科)×数学
――――
カタツムリの殻、羊のツノ、巻貝などなど。さらに台風や渦潮といった自然現象や、ハヤブサが獲物に近づくときなども「ベルヌーイの螺旋」を描くと言われています。「ベルヌーイの螺旋」は自然界で大人気なんです。

一方、「アルキメデスの螺旋」は超不人気。自然界でお目にかかることは一切ありません。(中略)とか言いながら、じつはひとつだけ見つけてしまいました。それは……
――――
「自然界で《大人気の螺旋》と《不人気の螺旋》」より




4時間目 (社会)×数学
――――
なんと、明治時代以降(近現代)の長さを1とすると、近現代、近世、中世、古代、原始の長さが、見事なまでに1:2:3:4:5になっています。
――――
「日本史は数式でできている」より




5時間目 (その他の教科)×数学
――――
小さい方から順に見ていくと、「少々」が8/5くらい集まって「ひとつまみ」になり、「ひとつまみ」が5くらい集まって「小さじ」になり、「小さじ」が3集まって「大さじ」になり、「大さじ」が2くらい集まって「ひとつかみ」になり、「ひとつかみ」が6くらい集まって「1合」になり、「1合」が10/9くらい集まって「計量カップ1」になる。つまり料理の計量は「約8/5進法」と「約5進法」と「3進法」と「約2進法」と「約6進法」と「10/9進法」が混在しているのです。
――――
「料理の計量は何進法?」より





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

『電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる?』(三上修) [読書(サイエンス)]

――――
 高床式倉庫のネズミ返しについて、我々は(おそらく)正しくその機能を知っていますが、腕金の端を塞ぐ金具の意味は、後世の人たちに正しく伝わるのでしょうか? 遠い未来に、我々でいう貝塚のようなところで、端が塞いである腕金が発見されたときに、未来の人たちは、それを「スズメ返し」と正しく理解してくれるでしょうか? 地域によって塞ぎ方に違いがあるせいで、何かの妙な儀式の痕跡だと勘違いされないか、心配でなりません。
――――
単行本p.113


 カラスやスズメはなぜ電線にとまるのか。電柱にどうやって巣を作るのか。そして彼らと電力会社の攻防戦のゆくえは。電柱/電線という新たな環境と鳥類がどのように影響を及ぼしあっているかを研究する電柱鳥類学の入門書。単行本(岩波書店)出版は2020年11月です。


――――
「電柱鳥類学」とは、「電柱(電線を含む)を利用する鳥を研究することが学問として成り立つのではないか」と私が勝手に造った言葉です。本当に学問として成り立つかと問われれば、私も自信はありません。しかし、何とかなるのではないかと思っています。私はこれまで、スズメやカラスなど、都市に暮らす鳥の研究をしてきました。その研究を進める中で、鳥と、電柱・電線との関係は、かなり奥深いことがわかってきたのです。森林と鳥の結びつきを研究する価値があるのであれば、電柱と鳥の関係にも注目する価値がありそうなのです。
――――


〔目次〕

1. 電柱と電線の基礎知識
2. 鳥、電線に止まる
3. 感電しない鳥たち
4. 鳥、電柱に巣を作る
5. 電力会社、鳥と闘う
エピローグ 電柱鳥類学の将来




1. 電柱と電線の基礎知識
――――
 見慣れると、町中にある3種類の電柱をすぐに見分けられるようになります。ただし、友人が「電信柱」と言ったのに対して「いや、あれは電信柱ではなく電力柱である」などと、したり顔で言ったりすると、距離を置かれる可能性があるので、口には出さず、心に秘めておくのがいいでしょう。
――――
単行本p.16

 まずは鳥類にとっての新たな「自然環境」について。電柱、電線、腕金、碍子など、基礎知識を学びます。


2. 鳥、電線に止まる
――――
 電線に、嘴だけでぶら下がることがあります。また、郊外にある送電線には、線を目立たせるようにタグが付いていることがありますが、やはりそれをくわえてぶら下がることもあります。両足あるいは片足で、電線をつかんだままひっくり返ることもあります。さらに私は見たことがありませんが、電線を鉄棒のように使って一回転をするものがいるようです。
――――
単行本p.48

 電線にとまっている鳥をよく観察すると、スズメは電柱から離れた電線中央付近によくとまり、カラスは一番上の電線の電柱近くにとまる傾向がある。なぜだろう。電柱によくとまる鳥ベスト10、とまる理由、とまる位置の違いなど、電線にとまっている鳥の様子を観察します。


3. 感電しない鳥たち
――――
 鳥と電線の関わりにおいて、昔からよくある質問が「スズメは、電線に止まっても、感電しないのですか?」というものです。
 よくある質問なので、インターネット上にも答えがありますが、この疑問に答える過程で、電線と鳥の関係についても深く見ることになりますので、あえてここでも取り上げたいと思います。
――――
単行本p.55

 電線にとまっている鳥はなぜ感電しないのか。有名な問いについて考えてみます。


4. 鳥、電柱に巣を作る
――――
 ところで腕金は、電力柱と共用柱にはほぼ必ずついていますから、スズメにとっては巣を作り放題に思えます。しかし、そうはなりません。なぜなら、この穴は必ずあいているわけではないのです。むしろ、基本的には、電力会社によって意図的に塞がれています。
 この穴にスズメが巣を作ること自体は、歓迎はされないかもしれませんが、それほど問題ではありません。しかし、その巣の中にある卵やヒナを狙って、ヘビが電柱を昇ると問題発生です。停電が起きるのです。
――――
単行本p.70

 隙あらば腕金のなかに巣を作ろうとする鳥。電柱に無理やり穴をあけてそこに巣をつくる鳥。そして腕金のうえに巣を乗せる鳥。それを狙って電柱を昇ってくるヘビ。起きる停電事故。電柱をめぐって鳥と電力会社のあいだで攻防戦が起こる背景を解説します。


5. 電力会社、鳥と闘う
――――
 前述の作業では、最後に、再び巣を作らせないために風車を設置しました。こういった「営巣妨害装置」は地域ごとに異なり、とげとげのようなものや、傘の骨だけのようなものなどがあります。(中略)
 カラスは賢い動物ですから、妨害装置の効果を、何らかの方法で乗り越えてしまうかもしれません。実際、先ほど示した妨害装置の一種である風車に関しては、カラスは(それをわかってやっているかどうかはわかりませんが)枝を持ってきて風車が回転しないように止め、その上に巣を作ることが知られています。
――――
単行本p.98、101

 電力の安定供給のために日夜戦い続ける電力会社。鳥の巣を撤去して妨害装置を設置。しかし鳥は状況をよく観察して最も手薄な電柱を狙う。しかもその鳥が天然記念物だったりすると繁殖妨害は許されない。ではどうするか。電力会社と鳥類の知られざる戦い。





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ: