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『SFマガジン2021年4月号 小林泰三特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2021年4月号は、先日亡くなった小林泰三さんの特集でした。追悼特集、でないところがミソ。1962年生まれ関西出身SF作家たちは「退席した奴の悪口を即座にボロクソいいまくる」という日本SF界の悪しき伝統を受け継いでいるなあ。




『虹色の高速道路』(小林泰三)
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「地理で習わへんかったか? ずっと北に進んでいったら、どこへ行くと思う?」
「北極?」
「そや。北極や。そやけど、真の北極点には到達できひん。なんでか言うたら、世界には穴が開いとるからや。北極と南極のとこにある穴の向こう側の世界がペルシダーや。僕らはそこに秘密基地を作ってあるんや」
「なぜ、秘密に?」
「それも秘密や」
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SFマガジン2021年4月号p.18

 天文と地理の互いの気を通じさせ世界の回転に潜む理気をこの世に現出させるための儀式を執り行うことになった青年。ところが彼の前に謎の関西弁男が現れて、儀式の設定パラメタを変更してくれへんかと頼んでくる。勢いで笑わせておいて最後にハードSFな世界観を明らかにしてびっくりさせるという作者の得意技が炸裂する短篇。




『きらきらした小路』(小林泰三)
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 路はきらきらと輝いていて、とても綺麗だ。路はあちらこちらで複雑に分岐と結合を繰り返し、奇妙な模様を浮かび上がらせている。路のない部分には黒い空間が広がっている。いや。見ようによっては巨大な黒い穴が無数に存在し、その隙間にきらきらとした路が存在しているようにも見えた。
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SFマガジン2021年4月号p.27

 安全に動ける路を外れて重力傾斜を下ってみた子供。だが途中の軌道交差により帰還に必要な運動量を失ってしまう。もう仲間のところに帰れないのだろうか。童話風の話でしんみりさせておいて最後にハードSFな世界観を明らかにしてびっくりさせるという作者の得意技が光る短篇。




『時の旅』(小林泰三)
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「ええと、『我、松本留五郎はわが子孫に命ずる。タイムマシーンが完成した暁には、それに乗って直ちにこの遺言状が完成した時に出現させること』……なるほど。これを読んだお前の子孫がタイムマシーンをこの時代に出現させるという考えじゃな」
「さすがご隠居はん、ご察しの通りでございます」
「そやけど、こんなことうまいこといかんやろ」
「なんでそう思いなはる?」
「なんで、言うたかて、こんな簡単な方法で、タイムマシーンが手に入る訳ないやろ」
「それは今まで誰もこの方法を思い付かなんだだけと違いますか?」
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SFマガジン2021年4月号p.41

 ロハでタイムマシーンを手に入れて大儲けする方法を思い付いた留五郎、協力してもらおうとご隠居のもとにやってくるが……。勢いで笑わせておいて最後にハードSFなアイデアを明らかにしてびっくりさせるだろうという期待を外してあくまで落語としてオチをつける創作落語。





タグ:SFマガジン
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