『地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史』(ウィル・ハント、棚橋志行:翻訳) [読書(随筆)]
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祖先たちがそうだったように、私たちは常に、自分より偉大な何かに手を触れるため、秩序立った現実の向こうにたどり着きたいという静かな欲望によって地下へ引き寄せられる。(中略)この何年かで探検をともにした地下愛好家(カタフィル)や、私が敬服した歴史上の偉人たちは、形はさまざまでも超越を探求する人ばかりだった。暗帯(ダークゾーン)でバイオリズムと向き合ったミッシェル・シフレ。都市のはらわたの中で秘密の芸術作品(アートワーク)を創ったREVS。並行する次元へ掘り進もうとするかのように自宅の下に穴を掘ったウィリアム・リトル。地底に生命を探し求めようとしたジョン・クリーブス・シムズ。パリの不可視層を写真にとらえたナダール。都市の下の静かな暗闇で古代水路の通路を歩いたティーブ・ダンカン。彼らはみな神秘的な謎を探し、手近な現実の地平を超えた何かとの接触を求めて地下へ潜入した。
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単行本p.273、274
ニューヨークの地下世界、パリの地下納骨堂、アボリジニの神聖な鉱山、カッパドキアの地下トンネル網、……。地下に魅せられた著者が、世界各地にある闇に閉ざされた秘密の地下世界へと向かう。地下世界の魅力と神秘を探求した驚異のノンフィクション。単行本(亜紀書房)出版は2020年9月、Kindle版配信は2020年10月です。
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秋庭のように政府の陰謀こそ追求しなかったが、彼が東京で経験したのとおそらく同じようなことを、私はニューヨークに感じていた。熱に浮かされたように、地表に不信感を抱いた。目に見える表層的なものに対して懐疑的になった。どの歩道にも秘密の空洞が隠されていて、暗い階段の底にある扉はどれも隠された別の層へ続いているのだと、私は確信していた。(中略)
結局、私は東京へ調査に赴くことはなかった。秋庭俊に会ったこともない。国会議事堂前のトンネルに目を凝らして、カーブの向こうに何が隠れているのかと考えたこともない。それどころか、彼の暮らす都市の街路の下に何があって、何がないか、私はほとんど知らない。秋庭俊は英雄的な真の探究者なのか、変人なのか、人々からまったく無視されているのかも知らない。しかし、旅と探検に身を投じるうち、私は行く先々で秋庭俊と同じような人たちに遭遇した。自分たちに見えないもの、目が届かないもの、探知できないものの虜になった人々だ。
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単行本p.8、9
〔目次〕
第1章 地下へ 隠されたニューヨーク
第2章 横断 パリの地下納骨堂
第3章 地球深部の微生物 NASAの野望
第4章 赤黄土を掘る鉱夫たち アボリジニの聖域
第5章 穴を掘る人々 もぐら男とカッパドキア
第6章 迷う 方向感覚の喪失が生む力
第7章 ピレネー山脈の野牛像 旧石器時代のルネサンス
第8章 暗闇 「創世記」の闇と意識変容
第9章 儀式 雨を求め地下に下りたマヤ人
第1章 地下へ 隠されたニューヨーク
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十年以上にわたって、石質の地下墓地、廃棄された地下鉄駅、神聖な洞窟、核シェルターなどに出かけた。最初は自分の執着を理解するための探索の旅だったのだが、地下へ下りるたびにその風景の奥深さに波長が合いはじめ、そこからいっそう普遍的な物語が浮かび上がってきた。
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単行本p.23
16歳の夏、自宅の真下を廃棄された列車用トンネルが通っていることを知った著者は、探検に出かける。そして、地下世界の魅力にとりつかれる。
第2章 横断 パリの地下納骨堂
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私たちはパリの地下横断を計画した。街の端からもう片方の端まで、ひたすら地下の基幹施設を歩く。スティーブはニューヨークでこの旅を夢見ていた。私たちは計画に数カ月を費やし、古地図を調べ、パリの探検家に相談し、通行可能なルートを確認した。机上の計算では、この探検旅行はなんの問題もなく予定どおりにいくはずだった。
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単行本p.47
地下納骨堂、カタコンブ、それはパリの地下に張りめぐらされているもうひとつの世界。地下経路を通ってパリを横断する冒険は、地下世界で行われている様々な活動を明らかにする。
第3章 地球深部の微生物 NASAの野望
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人類のどこかに、地下で生まれた祖先の幻の痕跡があるかもしれないという考えに魅せられた私は、その微生物学者チームに会いにいくことにした。NASA宇宙生物学研究所の〈地下生命体〉と呼ばれる実験に取り組んでいる人々だ。彼らはサウスダコタ州にいて、ホームステイクという名の廃鉱になった金山の深部で地下微生物を探していた。
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単行本p.82
地下に棲息している生命のバイオマス総量は地表のそれを上回るかも知れない。最初の生命は地下で発生した可能性がある。地下生命圏に関する知識は、他の惑星における生命探査にも役立つだろう。NASAの研究チームとともに、著者は地下深部における微生物サンプル収集の現場を見学する。
第4章 赤黄土を掘る鉱夫たち アボリジニの聖域
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日が昇り、鉱山に開いた入口から斜めに光が差し込むと、赤黄土がチラチラ揺らめき、温かな赤ワイン色から鮮やかな紫色、目に焼きつきそうなピンク色へと変化した。壁が動いているような幻想に陥った。あたかも鉱山全体がゆっくり鼓動しているかのようだ。私たちは生き物の喉を通って地球に呑み込まれようとしていた。
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単行本p.131
かつて鉱物と人間の関係はどのようなものだったのか。オーストラリア原住民にとっての聖地である鉱山に赴いた著者は、坑道のなかで地の精霊たちの気配を感じ取ろうとする。
第5章 穴を掘る人々 もぐら男とカッパドキア
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カッパドキアでは、どの集落の地下にも手掘りの洞窟が網のように張りめぐらされ、曲がりくねったトンネルでつながっている。“地下都市”と呼ばれるものと案内書には書かれていた。城を逆さまにしたような形の巨大なものもあり、地下十層以上、人が何千人も入れるという。そんな“都市”が地域全体で何百とあるらしい。
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単行本p.142
カッパドキア遺跡の地下に広がる巨大な“都市”。その想像を絶するトンネルのネットワークを通じて、著者は「穴を掘る」というある種の人々を駆り立てる衝動について考察する。
第6章 迷う 方向感覚の喪失が生む力
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世界の隅々に迷宮構造は見られる。迷宮は一種のリミナリティ・システムで、方向感覚の喪失を高濃度で体験できるようお膳立てをするためのものだ。曲がりくねった石の通路に入り、限られた経路に焦点を向けるとき、私たちは外の地理から離れ、あらゆる基準点が剥離した一種の空間催眠へと滑り込む。この状態で私たちは変質を経験し、社会的地位、人生の段階、あるいは精神状態の間を行き来する。
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単行本p.184
地下の暗闇のなかで方向感覚を失い、完全に迷ってしまう。その経験は人間の意識をどのように変容させるだろうか。ナポリの地下探検の際に味わった迷子体験をもとに、著者は日常的な空間から切り離された地下で迷うという体験について考える。
第7章 ピレネー山脈の野牛像 旧石器時代のルネサンス
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丸天井の小さな部屋があり、平らな床はむきだしの状態だった。私たちがひざまずいているところから三メートルほど離れた中央部に、大きな石がひとつあった。その石にもたれかかるように、わずかに傾いた感じで置かれた一対の粘土製のバイソンが、柔らかな光に輝いていた。全員が合わせたように息を吐いた。全身が緊張し、腱のひとつひとつが固まり、肩の筋肉が収縮した。次の瞬間、すべてが一挙に解き放たれた。
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単行本p.209
洞窟の奥に隠されている先史時代に造られたバイソン像。ニューヨークの地下で誰にも見られないようにグラフィティを描き続ける現代アーティスト。地下空間と芸術との関係を掘り下げてゆく。
第8章 暗闇 「創世記」の闇と意識変容
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洞窟やトンネル、地面に開いたどんな穴でも同じだが、その入口をのぞき込むたび、私たちはハッと気がつく。夢の中で、意識の縁で、この場所を見たことがある。その扉を通過した時点で、私たちは明瞭な地表世界をあとにし、直線的な連続性や通常の意識が立てる論理から撤退し、無意識という流動的な状態にすとんと入り込む。私たちは暗帯(ダークゾーン)でバイオリズムと向き合ったミッシェル・シフレであり、祖先の霊と語り合ったピタゴラスでもある。いずれにしても、私たちはふつうの現実という渦の外へ足を踏み出し、この世の縁を越えた先へ少しずつ近づいていく。
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単行本p.248
地下空間がもたらす意識変容をとらえるべく、著者は洞窟の暗闇のなか全くの孤独状態で24時間過ごすことに挑戦する。
第9章 儀式 雨を求め地下に下りたマヤ人
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地下空間と結びつくなかで、私たちは未知なるものへの疑念を持たず、のべつ幕なしに何もかもを暴き出すべきではないことを学ぶ。常に裂け目が存在し、常に盲点があることを受け入れられるよう、地下は私たちを導いてくれる。人間は呪術的思考や夢の階段や迷子の状態に影響されやすい、無秩序で不合理な生き物であり、それが素晴らしい贈り物であることを、地下は思い出させてくれる。祖先がずっと知っていたこと、つまり、未来永劫語られざるものと見えざるものにこそ力と美が在ることを、地下は教えてくれるのだ。
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単行本p.280
マヤ遺跡の地下に広がる洞窟。そこで行われていた儀式。人間にとって地下空間が何を意味するのかを探る著者の旅は続いてゆく。
祖先たちがそうだったように、私たちは常に、自分より偉大な何かに手を触れるため、秩序立った現実の向こうにたどり着きたいという静かな欲望によって地下へ引き寄せられる。(中略)この何年かで探検をともにした地下愛好家(カタフィル)や、私が敬服した歴史上の偉人たちは、形はさまざまでも超越を探求する人ばかりだった。暗帯(ダークゾーン)でバイオリズムと向き合ったミッシェル・シフレ。都市のはらわたの中で秘密の芸術作品(アートワーク)を創ったREVS。並行する次元へ掘り進もうとするかのように自宅の下に穴を掘ったウィリアム・リトル。地底に生命を探し求めようとしたジョン・クリーブス・シムズ。パリの不可視層を写真にとらえたナダール。都市の下の静かな暗闇で古代水路の通路を歩いたティーブ・ダンカン。彼らはみな神秘的な謎を探し、手近な現実の地平を超えた何かとの接触を求めて地下へ潜入した。
――――
単行本p.273、274
ニューヨークの地下世界、パリの地下納骨堂、アボリジニの神聖な鉱山、カッパドキアの地下トンネル網、……。地下に魅せられた著者が、世界各地にある闇に閉ざされた秘密の地下世界へと向かう。地下世界の魅力と神秘を探求した驚異のノンフィクション。単行本(亜紀書房)出版は2020年9月、Kindle版配信は2020年10月です。
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秋庭のように政府の陰謀こそ追求しなかったが、彼が東京で経験したのとおそらく同じようなことを、私はニューヨークに感じていた。熱に浮かされたように、地表に不信感を抱いた。目に見える表層的なものに対して懐疑的になった。どの歩道にも秘密の空洞が隠されていて、暗い階段の底にある扉はどれも隠された別の層へ続いているのだと、私は確信していた。(中略)
結局、私は東京へ調査に赴くことはなかった。秋庭俊に会ったこともない。国会議事堂前のトンネルに目を凝らして、カーブの向こうに何が隠れているのかと考えたこともない。それどころか、彼の暮らす都市の街路の下に何があって、何がないか、私はほとんど知らない。秋庭俊は英雄的な真の探究者なのか、変人なのか、人々からまったく無視されているのかも知らない。しかし、旅と探検に身を投じるうち、私は行く先々で秋庭俊と同じような人たちに遭遇した。自分たちに見えないもの、目が届かないもの、探知できないものの虜になった人々だ。
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単行本p.8、9
〔目次〕
第1章 地下へ 隠されたニューヨーク
第2章 横断 パリの地下納骨堂
第3章 地球深部の微生物 NASAの野望
第4章 赤黄土を掘る鉱夫たち アボリジニの聖域
第5章 穴を掘る人々 もぐら男とカッパドキア
第6章 迷う 方向感覚の喪失が生む力
第7章 ピレネー山脈の野牛像 旧石器時代のルネサンス
第8章 暗闇 「創世記」の闇と意識変容
第9章 儀式 雨を求め地下に下りたマヤ人
第1章 地下へ 隠されたニューヨーク
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十年以上にわたって、石質の地下墓地、廃棄された地下鉄駅、神聖な洞窟、核シェルターなどに出かけた。最初は自分の執着を理解するための探索の旅だったのだが、地下へ下りるたびにその風景の奥深さに波長が合いはじめ、そこからいっそう普遍的な物語が浮かび上がってきた。
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単行本p.23
16歳の夏、自宅の真下を廃棄された列車用トンネルが通っていることを知った著者は、探検に出かける。そして、地下世界の魅力にとりつかれる。
第2章 横断 パリの地下納骨堂
――――
私たちはパリの地下横断を計画した。街の端からもう片方の端まで、ひたすら地下の基幹施設を歩く。スティーブはニューヨークでこの旅を夢見ていた。私たちは計画に数カ月を費やし、古地図を調べ、パリの探検家に相談し、通行可能なルートを確認した。机上の計算では、この探検旅行はなんの問題もなく予定どおりにいくはずだった。
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単行本p.47
地下納骨堂、カタコンブ、それはパリの地下に張りめぐらされているもうひとつの世界。地下経路を通ってパリを横断する冒険は、地下世界で行われている様々な活動を明らかにする。
第3章 地球深部の微生物 NASAの野望
――――
人類のどこかに、地下で生まれた祖先の幻の痕跡があるかもしれないという考えに魅せられた私は、その微生物学者チームに会いにいくことにした。NASA宇宙生物学研究所の〈地下生命体〉と呼ばれる実験に取り組んでいる人々だ。彼らはサウスダコタ州にいて、ホームステイクという名の廃鉱になった金山の深部で地下微生物を探していた。
――――
単行本p.82
地下に棲息している生命のバイオマス総量は地表のそれを上回るかも知れない。最初の生命は地下で発生した可能性がある。地下生命圏に関する知識は、他の惑星における生命探査にも役立つだろう。NASAの研究チームとともに、著者は地下深部における微生物サンプル収集の現場を見学する。
第4章 赤黄土を掘る鉱夫たち アボリジニの聖域
――――
日が昇り、鉱山に開いた入口から斜めに光が差し込むと、赤黄土がチラチラ揺らめき、温かな赤ワイン色から鮮やかな紫色、目に焼きつきそうなピンク色へと変化した。壁が動いているような幻想に陥った。あたかも鉱山全体がゆっくり鼓動しているかのようだ。私たちは生き物の喉を通って地球に呑み込まれようとしていた。
――――
単行本p.131
かつて鉱物と人間の関係はどのようなものだったのか。オーストラリア原住民にとっての聖地である鉱山に赴いた著者は、坑道のなかで地の精霊たちの気配を感じ取ろうとする。
第5章 穴を掘る人々 もぐら男とカッパドキア
――――
カッパドキアでは、どの集落の地下にも手掘りの洞窟が網のように張りめぐらされ、曲がりくねったトンネルでつながっている。“地下都市”と呼ばれるものと案内書には書かれていた。城を逆さまにしたような形の巨大なものもあり、地下十層以上、人が何千人も入れるという。そんな“都市”が地域全体で何百とあるらしい。
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単行本p.142
カッパドキア遺跡の地下に広がる巨大な“都市”。その想像を絶するトンネルのネットワークを通じて、著者は「穴を掘る」というある種の人々を駆り立てる衝動について考察する。
第6章 迷う 方向感覚の喪失が生む力
――――
世界の隅々に迷宮構造は見られる。迷宮は一種のリミナリティ・システムで、方向感覚の喪失を高濃度で体験できるようお膳立てをするためのものだ。曲がりくねった石の通路に入り、限られた経路に焦点を向けるとき、私たちは外の地理から離れ、あらゆる基準点が剥離した一種の空間催眠へと滑り込む。この状態で私たちは変質を経験し、社会的地位、人生の段階、あるいは精神状態の間を行き来する。
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単行本p.184
地下の暗闇のなかで方向感覚を失い、完全に迷ってしまう。その経験は人間の意識をどのように変容させるだろうか。ナポリの地下探検の際に味わった迷子体験をもとに、著者は日常的な空間から切り離された地下で迷うという体験について考える。
第7章 ピレネー山脈の野牛像 旧石器時代のルネサンス
――――
丸天井の小さな部屋があり、平らな床はむきだしの状態だった。私たちがひざまずいているところから三メートルほど離れた中央部に、大きな石がひとつあった。その石にもたれかかるように、わずかに傾いた感じで置かれた一対の粘土製のバイソンが、柔らかな光に輝いていた。全員が合わせたように息を吐いた。全身が緊張し、腱のひとつひとつが固まり、肩の筋肉が収縮した。次の瞬間、すべてが一挙に解き放たれた。
――――
単行本p.209
洞窟の奥に隠されている先史時代に造られたバイソン像。ニューヨークの地下で誰にも見られないようにグラフィティを描き続ける現代アーティスト。地下空間と芸術との関係を掘り下げてゆく。
第8章 暗闇 「創世記」の闇と意識変容
――――
洞窟やトンネル、地面に開いたどんな穴でも同じだが、その入口をのぞき込むたび、私たちはハッと気がつく。夢の中で、意識の縁で、この場所を見たことがある。その扉を通過した時点で、私たちは明瞭な地表世界をあとにし、直線的な連続性や通常の意識が立てる論理から撤退し、無意識という流動的な状態にすとんと入り込む。私たちは暗帯(ダークゾーン)でバイオリズムと向き合ったミッシェル・シフレであり、祖先の霊と語り合ったピタゴラスでもある。いずれにしても、私たちはふつうの現実という渦の外へ足を踏み出し、この世の縁を越えた先へ少しずつ近づいていく。
――――
単行本p.248
地下空間がもたらす意識変容をとらえるべく、著者は洞窟の暗闇のなか全くの孤独状態で24時間過ごすことに挑戦する。
第9章 儀式 雨を求め地下に下りたマヤ人
――――
地下空間と結びつくなかで、私たちは未知なるものへの疑念を持たず、のべつ幕なしに何もかもを暴き出すべきではないことを学ぶ。常に裂け目が存在し、常に盲点があることを受け入れられるよう、地下は私たちを導いてくれる。人間は呪術的思考や夢の階段や迷子の状態に影響されやすい、無秩序で不合理な生き物であり、それが素晴らしい贈り物であることを、地下は思い出させてくれる。祖先がずっと知っていたこと、つまり、未来永劫語られざるものと見えざるものにこそ力と美が在ることを、地下は教えてくれるのだ。
――――
単行本p.280
マヤ遺跡の地下に広がる洞窟。そこで行われていた儀式。人間にとって地下空間が何を意味するのかを探る著者の旅は続いてゆく。
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