『電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる?』(三上修) [読書(サイエンス)]
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高床式倉庫のネズミ返しについて、我々は(おそらく)正しくその機能を知っていますが、腕金の端を塞ぐ金具の意味は、後世の人たちに正しく伝わるのでしょうか? 遠い未来に、我々でいう貝塚のようなところで、端が塞いである腕金が発見されたときに、未来の人たちは、それを「スズメ返し」と正しく理解してくれるでしょうか? 地域によって塞ぎ方に違いがあるせいで、何かの妙な儀式の痕跡だと勘違いされないか、心配でなりません。
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単行本p.113
カラスやスズメはなぜ電線にとまるのか。電柱にどうやって巣を作るのか。そして彼らと電力会社の攻防戦のゆくえは。電柱/電線という新たな環境と鳥類がどのように影響を及ぼしあっているかを研究する電柱鳥類学の入門書。単行本(岩波書店)出版は2020年11月です。
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「電柱鳥類学」とは、「電柱(電線を含む)を利用する鳥を研究することが学問として成り立つのではないか」と私が勝手に造った言葉です。本当に学問として成り立つかと問われれば、私も自信はありません。しかし、何とかなるのではないかと思っています。私はこれまで、スズメやカラスなど、都市に暮らす鳥の研究をしてきました。その研究を進める中で、鳥と、電柱・電線との関係は、かなり奥深いことがわかってきたのです。森林と鳥の結びつきを研究する価値があるのであれば、電柱と鳥の関係にも注目する価値がありそうなのです。
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〔目次〕
1. 電柱と電線の基礎知識
2. 鳥、電線に止まる
3. 感電しない鳥たち
4. 鳥、電柱に巣を作る
5. 電力会社、鳥と闘う
エピローグ 電柱鳥類学の将来
1. 電柱と電線の基礎知識
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見慣れると、町中にある3種類の電柱をすぐに見分けられるようになります。ただし、友人が「電信柱」と言ったのに対して「いや、あれは電信柱ではなく電力柱である」などと、したり顔で言ったりすると、距離を置かれる可能性があるので、口には出さず、心に秘めておくのがいいでしょう。
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単行本p.16
まずは鳥類にとっての新たな「自然環境」について。電柱、電線、腕金、碍子など、基礎知識を学びます。
2. 鳥、電線に止まる
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電線に、嘴だけでぶら下がることがあります。また、郊外にある送電線には、線を目立たせるようにタグが付いていることがありますが、やはりそれをくわえてぶら下がることもあります。両足あるいは片足で、電線をつかんだままひっくり返ることもあります。さらに私は見たことがありませんが、電線を鉄棒のように使って一回転をするものがいるようです。
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単行本p.48
電線にとまっている鳥をよく観察すると、スズメは電柱から離れた電線中央付近によくとまり、カラスは一番上の電線の電柱近くにとまる傾向がある。なぜだろう。電柱によくとまる鳥ベスト10、とまる理由、とまる位置の違いなど、電線にとまっている鳥の様子を観察します。
3. 感電しない鳥たち
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鳥と電線の関わりにおいて、昔からよくある質問が「スズメは、電線に止まっても、感電しないのですか?」というものです。
よくある質問なので、インターネット上にも答えがありますが、この疑問に答える過程で、電線と鳥の関係についても深く見ることになりますので、あえてここでも取り上げたいと思います。
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単行本p.55
電線にとまっている鳥はなぜ感電しないのか。有名な問いについて考えてみます。
4. 鳥、電柱に巣を作る
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ところで腕金は、電力柱と共用柱にはほぼ必ずついていますから、スズメにとっては巣を作り放題に思えます。しかし、そうはなりません。なぜなら、この穴は必ずあいているわけではないのです。むしろ、基本的には、電力会社によって意図的に塞がれています。
この穴にスズメが巣を作ること自体は、歓迎はされないかもしれませんが、それほど問題ではありません。しかし、その巣の中にある卵やヒナを狙って、ヘビが電柱を昇ると問題発生です。停電が起きるのです。
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単行本p.70
隙あらば腕金のなかに巣を作ろうとする鳥。電柱に無理やり穴をあけてそこに巣をつくる鳥。そして腕金のうえに巣を乗せる鳥。それを狙って電柱を昇ってくるヘビ。起きる停電事故。電柱をめぐって鳥と電力会社のあいだで攻防戦が起こる背景を解説します。
5. 電力会社、鳥と闘う
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前述の作業では、最後に、再び巣を作らせないために風車を設置しました。こういった「営巣妨害装置」は地域ごとに異なり、とげとげのようなものや、傘の骨だけのようなものなどがあります。(中略)
カラスは賢い動物ですから、妨害装置の効果を、何らかの方法で乗り越えてしまうかもしれません。実際、先ほど示した妨害装置の一種である風車に関しては、カラスは(それをわかってやっているかどうかはわかりませんが)枝を持ってきて風車が回転しないように止め、その上に巣を作ることが知られています。
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単行本p.98、101
電力の安定供給のために日夜戦い続ける電力会社。鳥の巣を撤去して妨害装置を設置。しかし鳥は状況をよく観察して最も手薄な電柱を狙う。しかもその鳥が天然記念物だったりすると繁殖妨害は許されない。ではどうするか。電力会社と鳥類の知られざる戦い。
高床式倉庫のネズミ返しについて、我々は(おそらく)正しくその機能を知っていますが、腕金の端を塞ぐ金具の意味は、後世の人たちに正しく伝わるのでしょうか? 遠い未来に、我々でいう貝塚のようなところで、端が塞いである腕金が発見されたときに、未来の人たちは、それを「スズメ返し」と正しく理解してくれるでしょうか? 地域によって塞ぎ方に違いがあるせいで、何かの妙な儀式の痕跡だと勘違いされないか、心配でなりません。
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単行本p.113
カラスやスズメはなぜ電線にとまるのか。電柱にどうやって巣を作るのか。そして彼らと電力会社の攻防戦のゆくえは。電柱/電線という新たな環境と鳥類がどのように影響を及ぼしあっているかを研究する電柱鳥類学の入門書。単行本(岩波書店)出版は2020年11月です。
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「電柱鳥類学」とは、「電柱(電線を含む)を利用する鳥を研究することが学問として成り立つのではないか」と私が勝手に造った言葉です。本当に学問として成り立つかと問われれば、私も自信はありません。しかし、何とかなるのではないかと思っています。私はこれまで、スズメやカラスなど、都市に暮らす鳥の研究をしてきました。その研究を進める中で、鳥と、電柱・電線との関係は、かなり奥深いことがわかってきたのです。森林と鳥の結びつきを研究する価値があるのであれば、電柱と鳥の関係にも注目する価値がありそうなのです。
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〔目次〕
1. 電柱と電線の基礎知識
2. 鳥、電線に止まる
3. 感電しない鳥たち
4. 鳥、電柱に巣を作る
5. 電力会社、鳥と闘う
エピローグ 電柱鳥類学の将来
1. 電柱と電線の基礎知識
――――
見慣れると、町中にある3種類の電柱をすぐに見分けられるようになります。ただし、友人が「電信柱」と言ったのに対して「いや、あれは電信柱ではなく電力柱である」などと、したり顔で言ったりすると、距離を置かれる可能性があるので、口には出さず、心に秘めておくのがいいでしょう。
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単行本p.16
まずは鳥類にとっての新たな「自然環境」について。電柱、電線、腕金、碍子など、基礎知識を学びます。
2. 鳥、電線に止まる
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電線に、嘴だけでぶら下がることがあります。また、郊外にある送電線には、線を目立たせるようにタグが付いていることがありますが、やはりそれをくわえてぶら下がることもあります。両足あるいは片足で、電線をつかんだままひっくり返ることもあります。さらに私は見たことがありませんが、電線を鉄棒のように使って一回転をするものがいるようです。
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単行本p.48
電線にとまっている鳥をよく観察すると、スズメは電柱から離れた電線中央付近によくとまり、カラスは一番上の電線の電柱近くにとまる傾向がある。なぜだろう。電柱によくとまる鳥ベスト10、とまる理由、とまる位置の違いなど、電線にとまっている鳥の様子を観察します。
3. 感電しない鳥たち
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鳥と電線の関わりにおいて、昔からよくある質問が「スズメは、電線に止まっても、感電しないのですか?」というものです。
よくある質問なので、インターネット上にも答えがありますが、この疑問に答える過程で、電線と鳥の関係についても深く見ることになりますので、あえてここでも取り上げたいと思います。
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単行本p.55
電線にとまっている鳥はなぜ感電しないのか。有名な問いについて考えてみます。
4. 鳥、電柱に巣を作る
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ところで腕金は、電力柱と共用柱にはほぼ必ずついていますから、スズメにとっては巣を作り放題に思えます。しかし、そうはなりません。なぜなら、この穴は必ずあいているわけではないのです。むしろ、基本的には、電力会社によって意図的に塞がれています。
この穴にスズメが巣を作ること自体は、歓迎はされないかもしれませんが、それほど問題ではありません。しかし、その巣の中にある卵やヒナを狙って、ヘビが電柱を昇ると問題発生です。停電が起きるのです。
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単行本p.70
隙あらば腕金のなかに巣を作ろうとする鳥。電柱に無理やり穴をあけてそこに巣をつくる鳥。そして腕金のうえに巣を乗せる鳥。それを狙って電柱を昇ってくるヘビ。起きる停電事故。電柱をめぐって鳥と電力会社のあいだで攻防戦が起こる背景を解説します。
5. 電力会社、鳥と闘う
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前述の作業では、最後に、再び巣を作らせないために風車を設置しました。こういった「営巣妨害装置」は地域ごとに異なり、とげとげのようなものや、傘の骨だけのようなものなどがあります。(中略)
カラスは賢い動物ですから、妨害装置の効果を、何らかの方法で乗り越えてしまうかもしれません。実際、先ほど示した妨害装置の一種である風車に関しては、カラスは(それをわかってやっているかどうかはわかりませんが)枝を持ってきて風車が回転しないように止め、その上に巣を作ることが知られています。
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単行本p.98、101
電力の安定供給のために日夜戦い続ける電力会社。鳥の巣を撤去して妨害装置を設置。しかし鳥は状況をよく観察して最も手薄な電柱を狙う。しかもその鳥が天然記念物だったりすると繁殖妨害は許されない。ではどうするか。電力会社と鳥類の知られざる戦い。
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