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『海蛇と珊瑚』(藪内亮輔) [読書(小説・詩)]

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わたくしのハイパー名歌がけなされてあなたの駄歌がほめられて、夏
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おまへもおまへも皆殺してやると思ふとき鳥居のやうな夕暮れが来る
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片翅に「死ね」片翅に「死ぬ」と書きはなつた蝶がどこまでも飛ぶ
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言葉つて野蛮だけれど鎮魂のなかにちんこがあるのだけは好きだ
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「だからあんたの歌は驚度が低いつて何回言へばウツボになるの」
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 おまへもおまへもみな大根で撲殺してやる、あとリア充は死ね。青春の鬱屈した心情を驚度低くうたうハイパー名歌集。単行本(KADOKAWA)出版は2018年12月です。


 まず印象的なのが歌人としての気持ちを率直によんだ作品の数々。


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「冬の鷺」とかいふ塔の受賞作、旧かな間違ひ多くつてGood(グー)
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音楽をききながらヒューと書き上げた連作をみんな ほめる ほめる
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わたくしのハイパー名歌がけなされてあなたの駄歌がほめられて、夏
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ヒッヒッヒッとスウプ混ぜたら引かれたり一日一首もつくれないやつに
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「だからあんたの歌は驚度が低いつて何回言へばウツボになるの」
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 一人の若者として青春の日々をうたった作品もインパクトがあります。


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噴水は無数のしろき傷を噴きリア充は死ねと本気でおもひき
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カップ麺の下に敷きたる新聞にリア充の焼け死ぬをみてゐた
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おまへもおまへも皆殺してやると思ふとき鳥居のやうな夕暮れが来る
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なんとなく嫌ひだよつて人ばかりあつめて紫陽花にしてしまひたい
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大根で撲殺してやると思ひたち大根買つてきて煮てゐたり
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鶏の唐揚げ(とりから)にレモンはかけて種付きのやつをきみらによそつてあげる
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片翅に「死ね」片翅に「死ぬ」と書きはなつた蝶がどこまでも飛ぶ
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もうちよつと明るくしないと駄目ですよつて言はれてなれるならなつてゐる
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 いつも「死ね」「殺す」ばかり歌っているわけではなく、若き日々の様々な瞬間をよんだ作品も数多く収録されています。


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ホチキスにみつしりと銀詰まりをりたまらずわれの犯す空撃ち
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うしろむきに歩いて花粉を回避する適当な世界の適当なわたし
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われのいかりは本を投げ捨て鉛筆を投げ捨てつひにわれを投げ捨つ
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うつくしくあなたがくれた花だけど液体窒素で凍らせて割る
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いつか死ぬあなたは死ぬと貝類を煮殺しながら泣くのだ俺は
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 なにげない風景にふと見つけ出した趣をうたう作品も。


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なんとなくうざかつた登場人物が落ちていくその崖に咲く花
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うつくしく雨は上辺を濡らすのに傘の内蔵なんだ我らは
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あはは、といへばうふふ、と返しさうな月、それがしかしだ、付いてくるんだ
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十本の脚に五本の腕は生え蟹走りして来るんだ闇は
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いちめんに月の光の畑にて顔があり顔はまなこ開けたり
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眼球の比喩の葡萄を剥きながらむきながら葡萄の比喩の眼球
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 そして言葉のおかしさ、猫の偉さ、という普遍的なテーマに挑んだ作品。


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言葉つて野蛮だけれど鎮魂のなかにちんこがあるのだけは好きだ
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無化、し無化し 或るところに悪 ぢいさんと 汚ばあさんが酢 んでゐました幸せ
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Unn(ウンウンウニウム)といふ元素もあるんだし細かいことは気にすんなつて
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魂(たま)といふ凄き名前をもつてゐるやばい奴だぜ猫つていふは
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蝋燭のやうに坐つてゐる猫を(火は点けないぜ)よけてゆく旅
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『どこまでも世界』(小野寺修二、カンパニーデラシネラ) [ダンス]

 2020年3月1日は夫婦でKAAT神奈川芸術劇場に行って小野寺修二さんの新作を鑑賞しました。小野寺さんを含む4名が踊る80分の公演です。


[キャスト他]

振付・演出: 小野寺修二
出演: 大庭裕介、崎山莉奈、藤田桃子、小野寺修二


 舞台上には薄暗い部屋のセット。ドア、窓、壁にかけられた肖像画、ソファ、テーブル。落着いた雰囲気ですが、どこか不穏な気配も感じさせます。ここでおなじみの四名が謎のマイムを繰り広げます。

 まず崎山莉奈さんが、意味ありげなシーケンスを演じた直後、まったく同じシーケンスをそっくりそのまま繰り返すことで動作や表情から意味を失わせる、次に藤田さんが「強い風が吹き込んでくるなか傘を指して歩こうとする人」や「そこにない窓ガラスに触れる人」をやる、という具合。

 帽子と鞄を受け渡しすることで同一人物の演者が次々と入れ替わるとか、いきなり死体とか、いきなり銃声とか、いきなりテレビ画面とか。レストランで翻弄される小野寺修二さん、といった懐かしいシーケンスも。

 『空白に落ちた男』などデラシネラ初期作品を思い出させる場面が多く、原点回帰という印象が強い公演です。大庭裕介さん、崎山莉奈さんを加えた新生デラシネラのリブートという感じでしょうか。今にも何か悪いことが起きそうという不穏な空気を80分に渡って維持し続けてみせるところはさすがです。





タグ:小野寺修二
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『むくめく む』(関かおり、PUNCTUMUN) [ダンス]

 2020年2月29日は夫婦でシアタートラムに行って関かおりさんの新作公演を鑑賞しました。関かおりさんを含む7名が出演する上演時間65分の作品です。


[キャスト他]

演出・振付: 関かおり
出演: 内海正考、後藤ゆう、酒井和哉、清水駿、杉本音音、髙宮梢、関かおり


 砂利が敷きつめられ、あちこち灰色の岩が点在しているという、石庭そっくりの舞台。よく見ると岩にみえるのは毛の固まりのようで、砂利も硬くない素材で出来ていることに気づきます。舞台周囲は黒い垂れ幕によってまるく囲まれており、そこから出演者が舞台上に出入りします。会場に漂うのはやや刺激的で新鮮な芳香。橘という柑橘系の香りだと後で知りました。

 会場には雨の降る音がずっと流れており、人里はなれた森の中とか、境内の一角とか、そういう場所をじっと観察している気持ちに。公演がはじまると雨音はやみ、ときどき物音や声や音楽の断片が流れて非現実感を高めます。紙をめくる音など背後から聞こえてくると客席の物音なのかどうか判断できず混乱したり。

 その石庭に、謎の生き物たちが登場。今回は、微生物や菌類のコロニーといった感じではなく、小動物の巣を連想させます。小動物たちの胸と背中には毛が生えているのですが、股間からも二房の毛が垂れており、それがすごく変な印象を与えます。たぶん未発見の新種。

 その生き物たちが様々な動きをするのですが、どれも慣れ親しんだ人間の動きではありません。見たことがない不思議な動き。じっと観察します。冒頭に四人で組んで行う動きがあった他は、一人で動くか、二人で組んで動くか。

 今回はときどき出演者が表情を浮かべるのにびっくり。曖昧ながら意志や意識のようなものが感じられ、どうやら記憶や個体間の関係性のようなものもあるらしい。ですが、文脈というか脈絡が読めないので、たまたま人間っぽく見えるだけではないか、こちらが勝手に擬人化しているのではないか、という疑念がぬぐえず、不気味の谷に逆接近というか、ちょっと不安な印象を受けます。

 初めて見たと感じられる動きが、次から次へと途切れることなく登場するのは本当にすごい。道具なしに人間が組んで行うという制約のなかで、これだけ動きのバリエーションが出てくるというのは驚異的ではないでしょうか。美しい動きやかっこいい動きを見られる公演は数多くありますが、今ここでしか見られない動きを観察する、というのは特異で貴重な体験だと思います。





タグ:関かおり
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