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『SFマガジン2020年4月号 眉村卓追悼特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2020年4月号の特集は「眉村卓追悼特集」でした。また星敬追悼エッセイも掲載されました。


『白萩家食卓眺望』(伴名練)
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 共感覚者そのものが稀であり、味覚刺激から視覚情報を得るという遥かにマイナーな共感覚の存在について、理解している人間が周囲にいるはずもなく、たづ子にそれが特別な知覚であると教えられる人間はいなかった。
 けれどもたづ子は、彼女が今日まで食事時に見てきた幻が「味」によってもたらされた秘密の感覚であること、その感覚が家族にさえ理解してもらえぬであろうこと、母が遺した料理帖が奇跡の産物であることを、天啓のように知ったのである。
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SFマガジン2020年4月号p.12


 特定の味覚刺激により、幻の風景がありありと浮かび上がる。他人には決して理解されない特殊な能力を持っていることに気づいた女性が手にした料理帖。そこには自分と同じ能力を持っていたに違いない先人たちが、それぞれに開発していったレシピが何代にも渡って書き綴られていた。「味覚と視覚の共感覚」を持った人々による「視覚芸術のための料理レシピ集」という魅惑的なアイデア。そして泣ける。


『博物館惑星2 ルーキー 第十一話 遙かな花』(菅浩江)
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 乗降口の分厚い扉の前で、健は嘆息する。
「これはもう、崖の上のマツヨイグサが復活でもしない限り、あの二人を心穏やかにしてあげることなんかできそうにないですね」
 孝弘も吐息混じりだ。
「たとえ復活しても、どうだか判らないよ」
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SFマガジン2020年4月号p.322


 既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。生物種の隔離施設周辺に無断侵入したプラントハンターを逮捕したものの、ある富豪が司法取引を申し出る。できれば穏便に解決したいところだが、二人は過去のいざこざで反目しあっていた。こじれた人の心を解決するにはどうすればいいのだろう。若き警備担当とその相棒であるAIが活躍する新シリーズ第11話。


『降りてゆく』(草上仁)
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 大事なことに夢中になっている八歳の少女にとっては、タブーなどないも同然だ。
 だから、ユリエは、家からハンマーを持ち出すことにも、そのハンマーでプラスティックのカバーを叩き破ってボタンを押すことにも、何のためらいも覚えないのだった。
 降りてゆく。何と言っても、チロが落っこちてしまったのだ。
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SFマガジン2020年4月号p.339


 雲の上まで伸びる超超高層ビル。その上層階に住んでいる少女は、千階に近い階段をひとつひとつ降りてゆく。屋上から落っこちてしまった愛犬を取り戻すために。格差社会とその住民の心象を扱ったショートショート。





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