SSブログ

『月はすごい 資源・開発・移住』(佐伯和人) [読書(サイエンス)]

――――
 ここ数年で世界の状況は一変した。近年の月探査による新しい資源の発見、国際宇宙ステーション終了予定による新しい国際秩序の安全保障装置の必要性、中国の急速な宇宙開発への対応など、各方面のさまざまな思惑から月開発を推す風が次々と吹き始め、もう誰にも止められない強風となっている。今まさに人類は歴史のターニングポイントを迎えているのである。
 このターニングポイントは、冒頭でも述べたように、大航海時代と産業革命が一緒に来るようなものである。(中略)
 私が日本の月探査計画に関わるようになって24年になるが、2017年末ころからの月探査への追い風は、それまでとは全く別次元の強さを持っている。本書を読み終わるころには、その理由も含めて読者の方々にも実感していただけるだろう。
――――


 月探査から月開発、そして月を足掛かりとした宇宙進出を目指して。資源の発見、技術の進歩、国際情勢の変化、さまざまな要因により、かつての宇宙開発の夢が今、実現に向けて大きく動いている。水の採掘、鉱物資源、エネルギー確保、食料生産、各国の計画状況まで、月開発の最新情報を紹介してくれる一冊。新書版(中央公論新社)出版は2019年9月、Kindle版配信は2020年1月です。


――――
 これから数十年のうちに人類が月で行うさまざまな活動は、今後、数百年の人類の生活や世界のありかたに大きな影響を与えることになる。つまり、我々の世代は、将来の人類に絶大な影響を与えるさまざまな選択をするということだ。
 本書を読み終わった時、宇宙開発に関する数多くのニュースが月へのフロンティア拡大とどのように関係しているのかが推測できるようになる。そうなれば、今のこの時代を、特別な時代として、さらに楽しむことができるはずだ。そして、ぜひ人類の選択にさまざまな形で参加してもらいたい。
――――


[目次]

序章 知識の再確認
第1章 月の科学
第2章 月面の環境
第3章 砂漠のオアシスを探せ
第4章 鉱山から採掘せよ
第5章 月の一等地、土地資源を開発せよ
第6章 月と太陽のエネルギーを活用せよ
第7章 食料を生産せよ
第8章 月から太陽系へ船出せよ
終章 月に住み宇宙を冒険する未来にどう生きるか




序章 知識の再確認
第1章 月の科学
第2章 月面の環境
――――
 最近、大学を中退して宇宙ベンチャー的な活動に身を投じる学生が増えている。その行動力はすばらしいし、そういう風潮は歓迎するが、理系の大学生の場合は、大学という組織の利用価値を知った上で行動して欲しいと思う。組織を飛び出すなら、組織に背を向けるのではなく、「大学や会社を積極的に利用してやるぞ」という心意気で飛び出して欲しいということだ。
――――
新書版p.67


 天体としての月、組成、起源、月面環境(重力、温度、隕石、放射線など)。月開発を考える際に必要となる基礎知識をおさらいします。


第3章 砂漠のオアシスを探せ
――――
 今のところ、極域に水らしく見えているものは水なのか、太陽風由来の水素なのか、利用可能なほどの量があるのかどうかは、行ってみないとわからないという状況である。ある意味で、これほど着陸探査の目的として最適なテーマはない。なにしろ1990年代から月周回衛星によるさまざまな観測が行われていて、科学者の中でも、利用可能なほどの水があると思う者と、そんなにあるわけはないと思う者とがどちらも相当数いるという未解決の大問題であるにもかかわらず、着陸して直接探査をすれば白黒はっきりするのだ。そんな成果がわかりやすい探査テーマはそうそうあるものではない。
――――
新書版p.84


 長期滞在のためにも、またロケット燃料の元としても、極めて重要な水の存在。はたして月面には利用可能な量の水が存在するのだろうか。月面の水資源に関する最新の調査結果を解説します。


第4章 鉱山から採掘せよ
――――
 月環境に適した製鉄方法や合金配合を考える月専門の金属工学が今後必要となってくるだろう。(中略)月のためのプロセスを研究している人はまだほとんどいないので、これから発展が期待される。まずは、いかに月で手に入るものだけで製錬できるようにするかがポイントになる。次には、製錬工程の温度をあまり高くしなくてもいいような触媒や添加物を考えることも重要となるだろう。触媒や添加物は必ずしも月で調達する必要はないが、月にない場合は、完全にリサイクル可能なものでなくてはならない。これから多くの研究者が月環境のための金属工学、火星環境のために金属工学を開拓していくことになるだろう。
――――
新書版p.95


 建築素材としてのレゴリス焼結ブロック、水素や酸素、鉄をはじめとする様々な金属、そして地球上とは異なる環境における金属工学の必要性など、月で鉱物資源を手に入れるプロセスについて解説します。


第5章 月の一等地、土地資源を開発せよ
――――
 まず、あきらかに取り合いになるのは、繰り返し述べた高日照率地域である。北極もしくは南極地域の小高い丘のような地形で、数百メートル四方といったわずかにまとまった区画が全月面で五ヶ所ほどしかない。一度探査機が降りてしまうと、別の探査機が近くに着陸することは困難なので、最初の探査機を降ろした国や企業が事実上その地域を独占することになる。
――――
新書版p.115


 効率よく太陽電池が使える高日照地域、低温超伝導に利用できる永久影、下に空洞が広がっており建築物の設置が容易な縦穴、核燃料鉱床など、独占すれば大きな利益が得られる月開発レースのターゲットポイント「月の一等地」について解説します。


第6章 月と太陽のエネルギーを活用せよ
――――
 水素の良いところは、石油のように採掘したら枯渇する資源ではなく、後から後から太陽から新たに供給される持続可能なエネルギー源であるところである。将来は何平方キロメートルもあるような区画から水素を取り尽くしたら、別の所に移動してまた採掘するという、遊牧のような運用をすることになるだろう。
――――
新書版p.129


 電力のもとになる太陽エネルギー、ロケット燃料となる水素、そして核融合燃料として使われるヘリウム3。月でエネルギーを得るための方法について解説します。


第7章 食料を生産せよ
――――
 中国は月開発を本気で、そして、まじめにコツコツと進めている。この嫦娥4号には面白い実験装置が積み込まれている。生物科学普及試験ペイロードボックスと呼ばれている生物実験装置である。(中略)実験は100日続く予定だったそうだが、残念ながら初期の
段階で終わってしまった。しかし、搭載された生物群を見ると、中国が月で農業をしようと考えていることがわかる。
――――
新書版p.136、138


 月基地への長期滞在、さらには永住のために欠かせない食料生産。月で農業を行うにはどのような技術が必要になるかを解説します。


第8章 月から太陽系へ船出せよ
――――
 ここで、今の月探査のトレンドをまとめておきたい。近い将来の主な月探査は、水氷探査、火山地域探査、南極エイトケン盆地探査、に大別される。どれもアポロ計画未踏の地質地域である。
――――
新書版p.155


 各国の宇宙開発計画では、水氷探査、火山地域探査、南極エイトケン盆地探査などが近い将来における主な月探査ターゲットとされている。その理由は? 月探査からさらに将来の火星探査に向かうマイルストーンを解説します。


終章 月に住み宇宙を冒険する未来にどう生きるか
――――
 国家主導のプロジェクトは多くの関係者の総意をまとめあげるプロセスで、膨大な労力と時間を必要とする。(中略)一方、経営者の意思によって推進される宇宙計画は、決断が早い。IT企業のリーダーが、「火星に行きたいから行く」と、計画を進めるさまは、清々しい。実際のところは株主の意向を気にするなど、知られざる苦労があるのかもしれないが、宇宙への強力なビジョンを示すのは、これからはNASAのような組織や国家ではなく、ビジネスで財をなした企業のリーダーの役割なのかもしれない。
――――
新書版p.197、198


 国家から民間の手にゆだねられるようになり、すさまじいスピード感をもって推進されるようになった宇宙開発。新しい宇宙開発のトレンドと将来展望をまとめます。





nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ: