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『たべるのがおそい Little 8』(西崎憲:編集) [読書(随筆)]

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『文学ムック たべるのがおそい』は2019年の春刊行の vol. 7 で終刊になりました。同誌はもしかしたら全巻でひとつの巨大なアンソロジーだったのかもしれません。
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 小説、翻訳、エッセイ、短歌など、様々な文芸ジャンルにおける新鮮ですごいとこだけざざっと集めた文学ムック「たべるのがおそい」、全巻購入特典の電子書籍(PDF, mobi, epub, kepub, azk, などの形式でダウンロード可)。公開は2020年3月です。

 申し込み方法など詳しくは以下のページでご確認ください。

『たべるのがおそい』全巻購入特典『Little 8』と全作ガイド 西崎憲
https://note.com/kioku_to_onsoku/n/n6958a2ceded6


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 終刊の理由をよく訊かれるのだが、わたしが時間を工面できなくなったことが一番大きい。とにかく自分の作品は書けないし、訳せないし、仕事が停滞する一方だったのである。
 予想外だったのは、二度芥川賞の候補作が出たことである。どうしてこのような小さな文芸誌にまで目を配ってくれたのか、いまでも狐につままれたような気分である。
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 各巻の個人的な紹介はこちら。


2019年05月16日の日記
『たべるのがおそい vol.7』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-05-16

2018年10月23日の日記
『たべるのがおそい vol.6』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-10-23

2018年04月12日の日記
『たべるのがおそい vol.5』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-04-12

2017年10月19日の日記
『たべるのがおそい vol.4』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-10-19

2017年04月18日の日記
『たべるのがおそい vol.3』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-04-18

2016年10月19日の日記
『たべるのがおそい vol.2』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2016-10-19

2016年04月18日の日記
『たべるのがおそい vol.1』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2016-04-18


[Little 8 目次]

「『たべるのがおそい』全作ガイド」(西崎憲)

「並行世界の『たべるのがおそい』ギャラリー」(片岡好)

挿画部作品&挨拶(ありかわ りか、片岡好、小林小百合、佐藤ゆかり、重藤裕子、寺澤智恵子、三紙シン、宮島亜紀)

連載エッセイ〈眠れない夜のために1〉
「昨日あったもの明日あるもの」(西崎憲)

翻訳
「恋する男」(レオノーラ・カリントン、西崎憲:翻訳)

片岡好デザイン事務所ウェブサイト連載写小説「モジャ!」

「始まりも終わりも突然に」(田島安江)




「『たべるのがおそい』全作ガイド」(西崎憲)
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 届いたときに、すぐには書肆侃侃房に送らず、結局一日自分のところに止めておいた。一日だけ世界中で自分だけがその作品を知っているという状況を楽しみたかったのだ。たべおそにはそうしたくなる作品がいくつかあった。
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 前述したWebページでも全文公開されている(誤植修正もされている)作品ガイドですが、Little 8掲載版だと縦書きで読めるというのが大きい。まさに『たべおそ』の新刊を読んでいる気分になるのです。


「昨日あったもの明日あるもの」(西崎憲)
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 大きな非合理は時に大きな禍を起こす。しかし小さな非合理というものは時々うまい形で、人には限界があることをやんわりと教えてくれる。それはわたしには恩寵であり、慰めであるようにも見える。
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 たべおそ連載の予定だったが方向性の違いで没になったというエッセイシリーズ〈眠れない夜のために〉、幻の第一作。


「恋する男」(レオノーラ・カリントン、西崎憲:翻訳)
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「お嬢さん、自分はこういう機会を四十年間待っていたんですよ。四十年間オレンジの山の陰に隠れていたんです、誰かが店の果物を盗っていかないかって思いながら。なんで待ってたかっていうと、自分は話したいんです。話を聞いて欲しいんです。あんたが聴かないって云うんだったら、警察に引きわたします」
「聴いてる」わたしは云った。
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 メロンを万引きしたところ、オレンジの山の陰で四十年間ずっとその機会を待ち続けてきたという男につかまった。男は見逃す代わりに自分の話を聞けという。えっ、と思わず読み返したくなる奇妙なディテールがなにげなく散りばめられ、どこに向かうか見当もつかないへんちくりんでなぜか気になる物語がそこから始まる。これ一篇があるだけで『たべるのがおそい 8号』だなあと読者を納得させてしまうパワフルな短編。





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