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『目に見えるものはやさしい』(大崎清夏、装幀/制作:カニエ・ナハ) [読書(小説・詩)]

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昨日の文フリ戦利品、カニエ・ナハデザインによる大崎清夏さんの詩集/ペーパークラフトを作ってみてます。が案の定!難易度高いよこれ、カニエさん!
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河野聡子さんの2018年5月7日付けツイート


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『目に見えるものはやさしい』ですが、組み立てるのは(いがいと)むずかしい、です。。
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カニエ・ナハさんの2018年5月7日付けツイート


 フランス装(アンカット)、ポップアップなど、読者が自らの手で製本(組み立て工作)することで世界に一冊しか存在しない自分だけの詩集を完成させる。カニエ・ナハさんの装幀/制作によるペーパークラフト詩集最新作は、大崎清夏さんのプラトン立体展開図詩集。発行は2018年5月6日です。

 今回も驚きの装丁、というかペーパークラフトです。正多面体の展開図が描かれた五枚のシート、それに表紙を合わせて全六枚のシートから構成されています。一枚のシートには一つの正多面体(プラトン立体)の展開図、そこに大崎清夏さんの詩が印刷されており、正多面体を組み立ててから読む、という仕組みです。

 プラトン立体のうち四つには四大元素が対応していますから、詩のテーマもそれぞれその元素と関係あるものになっています。紹介のために一部だけ引用してみます。


表紙
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ここに収録された詩は、美術家・毛利悠子による2017年の2つの展示「そよぎ または エコー」及び「グレイ スカイズ」のために書かれました。括弧内は初出時のタイトルです。
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 真っ白な、表面に何も書かれていない正四面体の展開図。タイトルと奥付。


風(Everything flows のための詩)
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もうずっと前から、こうして
踊っていたの。ここは、図書館
じゃないから。どんなページだって
いくらでも翻弄されている。
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 正八面体の展開図。プラトン立体としての対応元素は「空気」。


光(Everything flows のための詩)
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感情は放射冷却され。
壁は光にやわらかくなり。
複雑なステップを踏んでも
目に見えるものはやさしい。
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 正四面体の展開図。プラトン立体としての対応元素は「火」。


水(モレモレのための詩)
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きみの あたまの 上を 水が 流れ てゆく
きみの あたまの 上から 水が ぽたり 落ちる
きみは 水を 見上げ そして おもう
水の ための 新しい 道を つくろう
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 正二十面体の展開図。プラトン立体としての対応元素は「水」。


音(パレードのための詩)
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泡立て器に生まれ変わっても
わたしたちは鳴るだろう
わたしたちに形があるかぎり
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 正十二面体の展開図。プラトン立体としての対応元素はありません。宇宙、空間、場を象徴するとされています。


土(そよぎ または エコーのための詩)
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みんながよいことをしようとしたから
いろんな素材の材料が集められたし
いちばんよいものでつくろうとしたから
選ばれなかったものがたくさん残った
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 正六面体の展開図。プラトン立体としての対応元素は「土」。



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『つまり猫が好きなんです vol.1』(杉中昌樹:編集) [その他]

 北海道の小樽で個人誌(詩誌「詩の練習」など)を刊行している杉中昌樹さんによる、猫愛をテーマにした詩誌の創刊号です。配偶者も寄稿しているということで、宣伝を兼ねてご紹介いたします。


[つまり猫が好きなんです 第1号 目次]
――――――――――――――――――――――――――――
カバー写真        北爪満喜
a final home       北爪満喜
キャッツ         杉中昌樹
猫の道          島野律子
知ってる/知らない    辻和人
猫が呼ぶ         唐作佳子
わが子に――愛猫の死より なかむらたけひこ
いつかジャガー      佐々木紺
ではなくて        陶原 葵
地下           宿久理花子
――――――――――――――――――――――――――――

発行日 2018年5月5日
編集発行人 杉中昌樹
発行所 詩の練習


[サンプル]

――
シロとクロを預けてくれて
ここんちしかないと信頼してもらえて
私んちは嬉しかった。
最後の最後 来てくれて
泊らせてあげることができて
私は嬉しかった。私んちは私んちになれた。
――
『a final home』(北爪満喜)より


――
ひょっとして、このおねーさんは、人間の姿をしているが、実は、その実体は、猫なんじゃないか。猫が人間に化けて。化け猫。僕のとなりに蹲っていた猫が、ごろごろごろと喉を鳴らす。僕は猫を見つめる。猫は目を瞑っている。月の明かりが、猫の閉じた細い目を照らす。このおねーさんが、本当は猫なのに、人間に成ることができたのだとすれば、僕も、いつか、猫に成ることができるんじゃないか。
――
『キャッツ』(杉中昌樹)より


――
水の中の破れたフェンスから猫がしゅりりと歩くように泳ぎ出る
ぬれたらいやなんだよ
それを決めるのは猫なのにどうしてか止めようとして
(わたし、知ってるのよ)
険しい目つきで気分よく尻尾を上げ 前だけを見ている
水の中の猫たちのオレンジの灯り
後姿ばかりになって水溜りの中をまるで網目の数だけ
生まれたみたいに
――
『猫の道』(島野律子)


――
鷹化して鳩となりけり元ジャガー

麗らかや背筋すみずみまでつかふ

黒猫のとろりと凹み桜東風
――
『いつかジャガー』(佐々木紺)



タグ:同人誌
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『宝石 欲望と錯覚の世界史』(エイジャー・レイデン、和田佐規子:翻訳) [読書(教養)]

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 宝石には力があるように見える。世界を何度も何度も作り変える力があることは確かだ。だが、それらは単なる物質にすぎない。殺すことができる物質でもない、癒やすことができる物質でもない。何かを建設することや、考えることができる物質でもない。
 宝石の目的、宝石の本質はただ一つだ。人間の眼を釘付けにすることと、反射することだ。ちょうどそれは宝石の光を放つ表面のようだ。宝石はただ一つの真の力を持っている。宝石は人間の欲望を映し出し、反射して人間に投げ返してくる。そうして、自分がどんな人間なのかを突きつけてくるのだ。
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単行本p.359


 マンハッタン島をガラス玉と交換した原住民は、はたして「騙された」のか。ダイヤモンドの婚約指輪の価値は誰が作り出したのか。スペイン帝国の盛衰と新大陸のエメラルド、フランス革命とマリー・アントワネットの首飾り、大英帝国を築き上げた一粒の真珠、そして世界の真珠市場を一夜にして支配した日本人。世界史の様々なエピソードの背後にある、宝石と価値と欲望の本質を追求した一冊。単行本(築地書館)出版は2017年12月です。


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 ここに集めた物語はどれも美しいものやそれを求めた男や女の物語だ。欲求と所有とあこがれ、貪欲の物語だ。しかし、本書は美しいものを題材にした書物にとどまらない。欲望というレンズを通じて歴史を理解しようと企てるものである。また、希少性と需要の経済がもたらす驚くべき結果を眺めることにもなる。希少で熱烈に求められた宝石が個人の人生行路の上に、また歴史の上に、さざ波のように波紋を広げる効果について論じていく。宝石は文化を生みだし、王家による支配や、政治的軍事的紛争を生み出す原因ともなった。(中略)これは欲望の物語であり、欲望とは世界を変貌させる力を持っている。
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単行本p.6、8


 全体は8つの章から構成されています。

『第1章 マンハッタンを買い上げたガラスビーズの物語』
『第2章 「永遠の輝き」は本物か? 婚約指輪の始まり』
『第3章 エメラルドのオウムとスペイン帝国の盛衰』
『第4章 フランス革命を起こした首飾り』
『第5章 姉妹喧嘩と真珠
『第6章 ソヴィエトに資金を流す金の卵』
『第7章 真珠と日本 養殖真珠と近代化』
『第8章 タイミングが全て 第一次世界大戦と最初の腕時計』


『第1章 マンハッタンを買い上げたガラスビーズの物語』
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 マンハッタンの購入はアメリカ史の中でも最も異論が多く、繰り返し論争を引き起こしている事件の一つである。この破格の取引は史上最大の詐欺事件として後世に伝えられることとなった。(中略)しかしこの1626年にも、またその後の長い間も、売り手も買い手も両者ともに非常に満足していたことは最も驚くべきことだが、事実なのである。
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単行本p.19、20

 マンハッタン島をガラス玉と引き換えに購入した話は、まるで詐欺事件のように語られてきた。しかし、それは現代の価値観でものごとを見ることからくる錯覚だ。原住民は決して愚かだったわけでも、騙されたわけでもない。

 「ガラス玉の価値がマンハッタン島に匹敵すると判断されたのはなぜか」という魅力的な問いかけから始まります。そして、宝石の「価値」とは何なのか、誰が決めるのか、という本書全体を貫くテーマへとつながってゆくのです。


『第2章 「永遠の輝き」は本物か? 婚約指輪の始まり』
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 ダイヤモンドは永遠ではない。ダイヤモンドの婚約指輪が「必要な贅沢品」となっておよそ80である。私達は結婚という制度自体と同じくらい古いかのように、ダイヤモンドの婚約指輪の伝統を当然のことと考えている。しかし、そうではない。実際、電子レンジの歴史と同じくらいのものなのである。
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単行本p.49

 ダイヤモンドの価値はどこから来るのか。それは美しさからでも、硬さからでも、驚くべきことに希少性からでもない。ダイヤモンドは供給過剰であり、もし価格がコントロールされていなければすぐに市場は崩壊するだろう。ダイヤの価値という完全な幻想を作り上げた巧妙な宣伝戦略について解説します。


『第3章 エメラルドのオウムとスペイン帝国の盛衰』
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 市場が飽和状態となって、エメラルドが無価値となるに至って、スペインは決定的な転換点に到達した。歴史的な量で流れ込んだ財宝によりスペイン経済は供給過多となり、財宝自体が無価値となる事態に及んだ。1637年のオランダのチューリップ・バブルの崩壊のように、希少性効果が誘発した幻想は破られた。綺麗だけれど、どこにでもある石を自分達が取引していることに気がついた時、エメラルドの価値は霧消したのである。
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単行本p.116

 新大陸に到達したスペイン人は大量のエメラルドを略奪し、故国に運び込んだ。その結果、スペイン帝国は崩壊した。なぜだろう。エメラルドが歴史を変えた経緯を解説します。


『第4章 フランス革命を起こした首飾り』
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 呪われたダイヤモンドにまつわる物語はどれも同じだ。理由は、そのどれもがモラルを語る物語だということだ。たぶん人間は、そんなにも美しく、そんなにも高価な物をたった一人で所有しているということが想像できないのだ。しかし、何か宇宙的な、さらに隠された霊的な欠陥があるのだと思い込むことならできる。そこで人間は、呪われたダイヤモンドの物語をでっちあげて、富の不平等さに納得できる理由をつけるのだ。ホープ・ダイヤモンドのようなダイヤモンドの場合には、呪いや死、不幸の物語がまことしやかに立ち現れる。首飾り事件の場合、ダイヤモンドは暴力的な革命と一時代の終わりの始まりを焚きつけたのだった。
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単行本p.173

 フランス革命のきっかけとなったダイヤの首飾り。以来、マリー・アントワネットにまつわる数多くのダイヤが「呪いのダイヤ」として噂されることになった。妬みとゴシップとフェイクニュース、革命と呪いと宝石。人間の興味を惹き付けてやまない歴史が語られます。


『第5章 姉妹喧嘩と真珠
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 無敵艦隊の敗北はスペインの海上支配の終焉と、西欧列強の新しい勢力図、さらには英国の商業帝国としての幕開けを記念するものとなる。(中略)これは単に大英帝国の始まりと言うにとどまらなかった。まさに実際的意味において、商業帝国の誕生だったのである。
 そして、全ては一粒の真珠から始まったのだった。
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単行本p.180、224

 スペイン帝国の没落と大英帝国の興隆。その背後にあったのは、一粒の真珠をめぐる姉妹の意地の張り合いだった。宝石の象徴性がどれほどのパワーを持つかが明らかにされます。


『第6章 ソヴィエトに資金を流す金の卵』
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 ハマーは嘘つき、泥棒、裏切り者、戦争成金(冷戦であろうとも)、似非芸術家、見世物芸人、そのような人の最も悪い要素を集めたような人物だった。彼の頭脳明晰さは否定しがたいものがあり、驚くばかりの成功を収めた。(中略)ハマーの最も大きな信用詐欺は、ファベルジェ・エッグを利用して、捨てられたロマノフ王朝を巡る感情的な神話をアメリカに信じ込ませ、その王朝を倒した、まさにその者達に金をつぎ込んだことだった。そして結果的に彼らは後になって私達の仇敵となるのだ。
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単行本p.271

 ロシア革命後、ロマノフ王朝が抱えていた大量の宝飾品が米国に流れ込んだ。人々を魅了したのは宝飾品そのものというより、「ロマノフ王朝の悲劇」というロマンと伝説。そしてそれは、一人の詐欺師が仕組んだものだったのだ。


『第7章 真珠と日本 養殖真珠と近代化』
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 何千年という長きにわたって、完璧な真珠は手に入らないという考えのうえに真珠産業は築かれてきていた。しかし、御木本の真珠は完璧だった。実際、いわゆる「本物の真珠」よりも完璧だった。御木本の真珠は、より低価で全く見事だというだけでなく、数が豊富だったのである。養殖真珠は津波のように日本から押し寄せてきて、市場から競争をかき消してしまった。御木本の真珠が自然界から見つけ出された真珠と品質が同じだったとしても、その供給量の多さは真珠産業の存続に対して破壊的な威力となった。1938年のピーク時で日本には約350カ所の養殖場があり、年間生産量は1000万個だった。それに対して、天然の真珠は年間およそ数ダースから数百個の範囲で採集されていた。
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単行本p.309

 真珠の養殖に成功した日本は、瞬く間に世界中の真珠市場を支配するに到る。だが、その道のりは決して平坦なものではなかった。真珠の価値をめぐる宣伝とプロパガンダの熾烈な戦いに果敢に挑んだ御木本幸吉の伝記。


『第8章 タイミングが全て 第一次世界大戦と最初の腕時計』
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 これは虚栄心の強い伯爵夫人の発明品の物語である。ファッションに関わるたった一言で、その後、戦争を変え、現代人の時間の概念まで永久に変容させてしまうことになる物語だ。
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単行本p.324

 最新技術を駆使して作られた工芸品を身につけて見せびらかしたい。そんな欲望から生まれた「腕時計」という発明は、やがて近代戦争を遂行する上で必須のものとなり、私たちの時間感覚そのものを変えてしまうことになった。人間の欲望や妬みや虚栄心で世界を動かすのは必ずしも宝石とは限りません。



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『さみしいUFO。 Cry for Flying Saucer』(Spファイル友の会) [その他]

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Cry for Flying Saucer

さみしさは、飛ぶ。

円盤のために泣け!
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 私も参加している「Spファイル友の会」の新刊について、宣伝を兼ねてご紹介。2018年5月に開催された資料性博覧会および第26回文学フリマ東京にて、『UFO手帖』の編集長でもある秋月朗芳(ペンパル募集)さんが個人誌を発行しました。

 タイトルからSpファイル第8号『ちょっと、さみしいよね』を連想する方も多いと思いますが、これまでに秋月氏が『Spファイル』などに発表した文章から「UFOとさみしさ」をテーマにしたものを集めて、再編集したものです。

 詳しい情報はこちら。

  Spファイル友の会ホームページ
  http://sp-file.oops.jp/spf2/?p=1249


[目次]

『ひとりUFO。』
『イーグルリバーの変人。』
『UFOと、さみしい死体。』
『死体生物としてのリトル・グレイ。』
『主観的な宇宙。』
『クレクレ行動。』
『犬事例。』
『ハロルド・ダールの犬は海に埋葬されました。』
『ボーが恥ずかしがり屋なので、誰も彼を見ることができないと言った。』
『ミシンのセールスマン、ブレイクダウン。』
『ブリキ絵。祈り、円盤。』
『黒人の宇宙人。』


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 このような「不全が永遠に続く感じ」が、ちょっとさみしいのです。
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 彼らは墜落によって死んだのではなく、最初から死体だったのかもしれない。
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 宇宙人は「牛」に対して、強い関心を持っていると勘違いしている方が多いと思います。勘違いは誰にでもあることなので、そのことについて、とやかく言いません。でも、ここではっきりさせておきましょう。彼らがもっとも関心を持っている動物は「犬」だってことを。
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 僕はこの事件を思い出すたびに、その死んだ犬が、その後どうなったのか気になっていたのです。
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 多様性の無き様がユートピアであると、彼らはメッセージするのです。
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 UFOも、搭乗者も、目撃者も、犠牲者も、犬も、冷静に考えてみると、ちょっと、いやかなり、さみしいよね。それをいうなら、いい歳してUFO同人誌を一生懸命に作っている人々も、ずいぶんさみしい。でも、一番さみしいのは、もしかして、読者である、わたし? そんな気持ちにさせる文章が並びます。



タグ:同人誌
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『裏世界ピクニック ファイル9 ヤマノケハイ』(宮澤伊織) [読書(SF)]

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「こ──こうして二人きりでさ、知らない世界を探検できて、私すごく嬉しいの。鳥子が私を選んでくれて、ほんとに感謝してる」
 喋っているうちに調子が出てきて、口からつるつる言葉がこぼれてきた。「あのとき、この世でいちばん親密な関係って言ってくれたよね。正直最初は、こいつ何言ってんだろって感じだったけど──」
「ちょ、ちょちょちょ、待って、なに?」
 耐えかねたのか、鳥子が目を丸くして私を振り返った。
「どうしたの空魚、今日テンションおかしくない?」
「そ、そうかな。いつもこんな感じじゃない?」
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Kindle版No.309


 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知を超える超常現象や危険な生き物、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第9話。Kindle版配信は2018年4月です。


 ストルガツキーの名作SF『路傍のピクニック』をベースに、ゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』の要素を取り込み、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。

 もともとSFマガジンに連載されたコンタクトテーマSFだったのが、コミック化に伴って「異世界百合ホラー」と称され、やがて「百合ホラー」となり、ついには「百合」となって、SFセミナーで「“2018年の百合”について『裏世界ピクニック』著者の宮澤伊織先生に語っていただき、皆さんにも百合と“遭遇”してもらおうというドキドキの企画」(早川書房の4月30日付けツイートより)が開催されるという、もうストルガツキーもタルコフスキーも関係ない世界に。

 ファーストシーズンの4話は前述の通りSFマガジンに連載された後に文庫版第1巻としてまとめられましたが、セカンドシーズン以降は各話ごとに電子書籍として配信。ファイル5から8は文庫版第2巻に収録されています。既刊の紹介はこちら。


  2017年03月23日の日記
  『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23


  2017年11月30日の日記
  『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』(宮澤伊織)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-30


 そして、このファイル9からサードシーズンが始まりました。


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「おまえらさ、あれだけ怖い目に遭って、なんでやめないんだ? 第四種接触者がどんな悲惨なことになったか、見たよな? あれを見てまだ行こうと思えるのが信じられない。なんでだよ」
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Kindle版No.142


 いったいなぜ、危険極まりない裏世界の探検を続けるのか。語り手である空魚の過去が少しずつ明かされ、やや危ういその動機が語られます。


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 被害者をやめるのは、その気になれば可能だった。
 でも被害者じゃないなら、自分はなんなんだろう、という疑問に答えは出なかった。
 加害者になるつもりはない。誰かを傷つけたいわけじゃない。
 別に被害者と加害者は対立概念ではないけれど、なんだかその二つの間で、自分自身が宙ぶらりんになった気がしていたのだ。
 そこに鳥子が現れて、あの言葉を投げかけてくれた。
 ──共犯者。 最初はピンと来なかったその概念が、大事なものになったのはいつからだろう。
 あの一言で、鳥子は私に、新しい居場所を与えてくれたのだ。
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Kindle版No.482


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 ときどき考えることがある。裏世界から認識のヴェールを剥ぎ取る私の右目の力を、もし鳥子が手に入れていたらどうなっていたか。
 きっと鳥子は目の能力を使いまくって、一人でどんどん裏世界の奥へと踏み込んでいただろう。閏間冴月を追いかけて、私なんか歯牙にも掛けずに。
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Kindle版No.165


 今回は安全なルートを確保するという偵察ミッションなので、割と気楽に(お弁当持って)裏世界に入り込んだ二人ですが、もちろん裏世界はそんな甘いところではなく……。サブタイトルで『日本現代怪異事典』(朝里樹)をひくと何が起きるか予想できてしまうため、調べるのは読後にしておくことをお勧めします。ちなみに『裏世界ピクニック』の参考書としてもお勧めの『日本現代怪異事典』、紹介はこちら。


  2018年01月23日の日記
  『日本現代怪異事典』(朝里樹)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-01-23


 というわけで、「空魚が鳥子に全身を撫で回される話」からスタートしたサードシーズン。この先どう展開してゆくのか、たぶんコンタクトテーマSFにはならないんだろうな、今後も読み進めたいと思います。



タグ:宮澤伊織
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