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『短歌と俳句の五十番勝負』(穂村弘、堀本裕樹) [読書(小説・詩)]

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堀本 よくこの連載の読者に言われたんですよ。「堀本さんと穂村さん、全然テイストが違いますね」って。そこがおもしろい、と。

穂村 ジャンルの違い以上に、気質や体感が違うタイプですよね。

堀本 そうですね、本当に。俳句と短歌というジャンルの違いだけじゃなくて、お互い持っているものの出し方とか書き方が全然違うので、そこがコントラストになっているかな、と思います。

(中略)

穂村 「AKB48が走り出す原子炉の爆発を止めるため」、みたいな発想は、自分らしいって思います。

塚本 なるほど。

穂村 言いそうなことだ、と。
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単行本p.211、217


 歌人と俳人に同じお題を与えて競作させたら、短歌と俳句という文芸ジャンルの違いが明確になるのではないか。やってみたら二人の発想があまりにも違いすぎて、ジャンルの比較どころじゃないという結果に。単行本(新潮社)出版は2018年4月です。


お題「四十八」
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穂村弘
「AKB48が走り出す原子炉の爆発を止めるため」

堀本裕樹
「角落ちて四十八滝鳴りやまず」
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 同じお題を歌人と俳人に与えてそれぞれ作品を作ってもらうという新潮社のPR誌『波』に連載された企画が単行本化されました。二人の作風というか発想の違いをご覧ください。


お題「かわいい」
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穂村弘
「(かわいいな)(かわいくないや)(かわいいじゃん)(かわいいのかな)転校生は」

堀本裕樹
「山雀のかわいい舌よ春の宵」
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お題「流れ」
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穂村弘
「流れよわが涙、と空が樹が言った警官はもういなかったから」

堀本裕樹
「わが胸へ流れ弾なす金亀虫」
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お題「ゆとり」
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穂村弘
「『「ゆとり世代」が職場に来たら読む本』を立ち読みしてるランドセルの子」

堀本裕樹
「秋扇のゆとりや時に海指して」
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お題「水際」
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穂村弘
「水際の郵便ポスト 満ち潮になれば口ぎりぎりまで水が」

堀本裕樹
「冬蜂や風に水際立つ少女」
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お題「ゲーム」
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穂村弘
「五円玉にテープを巻けばゲーム機は騙されるって転校生が」

堀本裕樹
「賀客迎へゲーム対戦相手とす」
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お題「部長」
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穂村弘
「部下たちの耳つぎつぎに破壊して出世してゆく部長の笑顔」

堀本裕樹
「胡瓜など蒔きしと部長話し出す」
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お題「適性」
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穂村弘
「火星移民選抜適性検査プログラム「杜子春」及び「犍陀多」

堀本裕樹
「瓜番として適性を見るといふ」
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お題「楕円」
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穂村弘
「猫パンチされてほっぺた腫れあがる楕円軌道の惑星の夜」

堀本裕樹
「切り口の楕円うつくし胡瓜漬」
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お題「安普請」
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穂村弘
「安普請の床を鳴らして恋人が銀河革命体操をする」

堀本裕樹
「鎌風の抜け道のある安普請」
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 企画の意図としては、同じお題で競作させることで短歌と俳句を比較してみようということなのだと思いますが、とにかく発想から言葉の選び方まで、あまりにもタイプが違うので、それに世代の違いというのも大きく、まあ文芸ジャンルとしての短歌と俳句の比較にはならなかったなあという印象です。

 それぞれの作品には作者による解説がついていて、鑑賞の手引きとしても役立ちます。巻末には二人による対談が収録されています。



タグ:穂村弘
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