『裏世界ピクニック ファイル9 ヤマノケハイ』(宮澤伊織) [読書(SF)]
――――
「こ──こうして二人きりでさ、知らない世界を探検できて、私すごく嬉しいの。鳥子が私を選んでくれて、ほんとに感謝してる」
喋っているうちに調子が出てきて、口からつるつる言葉がこぼれてきた。「あのとき、この世でいちばん親密な関係って言ってくれたよね。正直最初は、こいつ何言ってんだろって感じだったけど──」
「ちょ、ちょちょちょ、待って、なに?」
耐えかねたのか、鳥子が目を丸くして私を振り返った。
「どうしたの空魚、今日テンションおかしくない?」
「そ、そうかな。いつもこんな感じじゃない?」
――――
Kindle版No.309
裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知を超える超常現象や危険な生き物、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第9話。Kindle版配信は2018年4月です。
ストルガツキーの名作SF『路傍のピクニック』をベースに、ゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』の要素を取り込み、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。
もともとSFマガジンに連載されたコンタクトテーマSFだったのが、コミック化に伴って「異世界百合ホラー」と称され、やがて「百合ホラー」となり、ついには「百合」となって、SFセミナーで「“2018年の百合”について『裏世界ピクニック』著者の宮澤伊織先生に語っていただき、皆さんにも百合と“遭遇”してもらおうというドキドキの企画」(早川書房の4月30日付けツイートより)が開催されるという、もうストルガツキーもタルコフスキーも関係ない世界に。
ファーストシーズンの4話は前述の通りSFマガジンに連載された後に文庫版第1巻としてまとめられましたが、セカンドシーズン以降は各話ごとに電子書籍として配信。ファイル5から8は文庫版第2巻に収録されています。既刊の紹介はこちら。
2017年03月23日の日記
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23
2017年11月30日の日記
『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』(宮澤伊織)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-30
そして、このファイル9からサードシーズンが始まりました。
――――
「おまえらさ、あれだけ怖い目に遭って、なんでやめないんだ? 第四種接触者がどんな悲惨なことになったか、見たよな? あれを見てまだ行こうと思えるのが信じられない。なんでだよ」
――――
Kindle版No.142
いったいなぜ、危険極まりない裏世界の探検を続けるのか。語り手である空魚の過去が少しずつ明かされ、やや危ういその動機が語られます。
――――
被害者をやめるのは、その気になれば可能だった。
でも被害者じゃないなら、自分はなんなんだろう、という疑問に答えは出なかった。
加害者になるつもりはない。誰かを傷つけたいわけじゃない。
別に被害者と加害者は対立概念ではないけれど、なんだかその二つの間で、自分自身が宙ぶらりんになった気がしていたのだ。
そこに鳥子が現れて、あの言葉を投げかけてくれた。
──共犯者。 最初はピンと来なかったその概念が、大事なものになったのはいつからだろう。
あの一言で、鳥子は私に、新しい居場所を与えてくれたのだ。
――――
Kindle版No.482
――――
ときどき考えることがある。裏世界から認識のヴェールを剥ぎ取る私の右目の力を、もし鳥子が手に入れていたらどうなっていたか。
きっと鳥子は目の能力を使いまくって、一人でどんどん裏世界の奥へと踏み込んでいただろう。閏間冴月を追いかけて、私なんか歯牙にも掛けずに。
――――
Kindle版No.165
今回は安全なルートを確保するという偵察ミッションなので、割と気楽に(お弁当持って)裏世界に入り込んだ二人ですが、もちろん裏世界はそんな甘いところではなく……。サブタイトルで『日本現代怪異事典』(朝里樹)をひくと何が起きるか予想できてしまうため、調べるのは読後にしておくことをお勧めします。ちなみに『裏世界ピクニック』の参考書としてもお勧めの『日本現代怪異事典』、紹介はこちら。
2018年01月23日の日記
『日本現代怪異事典』(朝里樹)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-01-23
というわけで、「空魚が鳥子に全身を撫で回される話」からスタートしたサードシーズン。この先どう展開してゆくのか、たぶんコンタクトテーマSFにはならないんだろうな、今後も読み進めたいと思います。
「こ──こうして二人きりでさ、知らない世界を探検できて、私すごく嬉しいの。鳥子が私を選んでくれて、ほんとに感謝してる」
喋っているうちに調子が出てきて、口からつるつる言葉がこぼれてきた。「あのとき、この世でいちばん親密な関係って言ってくれたよね。正直最初は、こいつ何言ってんだろって感じだったけど──」
「ちょ、ちょちょちょ、待って、なに?」
耐えかねたのか、鳥子が目を丸くして私を振り返った。
「どうしたの空魚、今日テンションおかしくない?」
「そ、そうかな。いつもこんな感じじゃない?」
――――
Kindle版No.309
裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知を超える超常現象や危険な生き物、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第9話。Kindle版配信は2018年4月です。
ストルガツキーの名作SF『路傍のピクニック』をベースに、ゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』の要素を取り込み、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。
もともとSFマガジンに連載されたコンタクトテーマSFだったのが、コミック化に伴って「異世界百合ホラー」と称され、やがて「百合ホラー」となり、ついには「百合」となって、SFセミナーで「“2018年の百合”について『裏世界ピクニック』著者の宮澤伊織先生に語っていただき、皆さんにも百合と“遭遇”してもらおうというドキドキの企画」(早川書房の4月30日付けツイートより)が開催されるという、もうストルガツキーもタルコフスキーも関係ない世界に。
ファーストシーズンの4話は前述の通りSFマガジンに連載された後に文庫版第1巻としてまとめられましたが、セカンドシーズン以降は各話ごとに電子書籍として配信。ファイル5から8は文庫版第2巻に収録されています。既刊の紹介はこちら。
2017年03月23日の日記
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23
2017年11月30日の日記
『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』(宮澤伊織)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-30
そして、このファイル9からサードシーズンが始まりました。
――――
「おまえらさ、あれだけ怖い目に遭って、なんでやめないんだ? 第四種接触者がどんな悲惨なことになったか、見たよな? あれを見てまだ行こうと思えるのが信じられない。なんでだよ」
――――
Kindle版No.142
いったいなぜ、危険極まりない裏世界の探検を続けるのか。語り手である空魚の過去が少しずつ明かされ、やや危ういその動機が語られます。
――――
被害者をやめるのは、その気になれば可能だった。
でも被害者じゃないなら、自分はなんなんだろう、という疑問に答えは出なかった。
加害者になるつもりはない。誰かを傷つけたいわけじゃない。
別に被害者と加害者は対立概念ではないけれど、なんだかその二つの間で、自分自身が宙ぶらりんになった気がしていたのだ。
そこに鳥子が現れて、あの言葉を投げかけてくれた。
──共犯者。 最初はピンと来なかったその概念が、大事なものになったのはいつからだろう。
あの一言で、鳥子は私に、新しい居場所を与えてくれたのだ。
――――
Kindle版No.482
――――
ときどき考えることがある。裏世界から認識のヴェールを剥ぎ取る私の右目の力を、もし鳥子が手に入れていたらどうなっていたか。
きっと鳥子は目の能力を使いまくって、一人でどんどん裏世界の奥へと踏み込んでいただろう。閏間冴月を追いかけて、私なんか歯牙にも掛けずに。
――――
Kindle版No.165
今回は安全なルートを確保するという偵察ミッションなので、割と気楽に(お弁当持って)裏世界に入り込んだ二人ですが、もちろん裏世界はそんな甘いところではなく……。サブタイトルで『日本現代怪異事典』(朝里樹)をひくと何が起きるか予想できてしまうため、調べるのは読後にしておくことをお勧めします。ちなみに『裏世界ピクニック』の参考書としてもお勧めの『日本現代怪異事典』、紹介はこちら。
2018年01月23日の日記
『日本現代怪異事典』(朝里樹)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-01-23
というわけで、「空魚が鳥子に全身を撫で回される話」からスタートしたサードシーズン。この先どう展開してゆくのか、たぶんコンタクトテーマSFにはならないんだろうな、今後も読み進めたいと思います。
タグ:宮澤伊織