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『大野一雄について』(川口隆夫) [ダンス]

 2017年12月3日は夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、川口隆夫さんの公演を鑑賞しました。伝説的な舞踏家、大野一雄さんの公演を記録映像から完コピして再現したという2時間(+プレパフォーマンス30分)の舞台です。

 個人的に、大野一雄さんの記録映像といえばただ一度だけ、詩人の吉増剛造さんと一緒に映った映像を観たことがあるだけです。

  2016年08月01日の日記
  『声ノマ 全身詩人、吉増剛造展』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-01

 まず開演時間の30分前から、屋外でのプレパフォーマンスが始まります。大野一雄さんの『O氏の肖像』(1969年)を再構成したもので、あちこちに一見無造作に置かれたゴミのような雑多なアイテムを使って、川口隆夫さんがうろつき周りながらパフォーマンスを繰り広げます。

 観客はその周囲を取り巻くようにしてぞろぞろと移動。川口隆夫さんが急に突進してくると海が割れるように左右に避けたり。そうこうするうちにも、新たに到着した観客が次々と集まってきて、屋外はかなりの混み具合に。

 開演時刻が過ぎてもパフォーマンスは続き、やがて「O氏の肖像」という垂れ幕を下ろした後、川口隆夫さんはよろめくようにホールに入ってゆきます。そのまま後をついてゆく観客たちに必死で「チケットを拝見します!」と叫ぶ劇場スタッフの皆さん。

 という具合に最初から心をつかむ公演です。大野一雄さんの代表作である『ラ・アルヘンチーナ頌』(1977年)、『わたしのお母さん』(1981年)、『死海』(1985年)からの抜粋シーンを、記録映像の音声だけを流して、舞台上で画像を再現してゆきます。

 様々な感情がダイレクトに胸に刺さってくるような感じ。ちょっとした手の動きからも、視線の動きからも、情動がほとばしるようなダンス。

 川口隆夫さんが目の前の床を「どんっ」と踏みならすとき、わずかにずれて、古い録音の中から大野一雄さんが立てているであろう「どんっ」という足音がかすかに響く。この数秒のずれが効果的で、まるで40年の時差が数秒に圧縮されたような、あるいは40年の時を隔てて二人がいっしょに踊っているような、そんな不思議な感慨を覚えます。

 終演後の花束贈呈(これも映像のコピーなのでしょうか)と、それに続くパフォーマンスが胸にせまってきて、けっこう泣きそうになりました。


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