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『したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様』(成田聡子) [読書(サイエンス)]

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 本書では、それらの共生関係の中でも、小さく弱そうに見える寄生者たちが自分の何倍から何千倍も大きな体を持つ宿主の脳も体も乗っ取り、自己の都合の良いように巧みに操る、恐ろしくも美しい生き様を紹介します。
 まるで犬の散歩のようにハチの意のままに付いていくゴキブリ、生きながら自分の体内を食われ続けるイモムシたち、さらに食われた後にも自分の体を食べた憎き寄生者の子どもたちを守ろうとするテントウムシ、泳げるわけもないのに体内の寄生者に操られて入水自殺するカマキリ、本来オスであったにもかかわらずメスに変えられ寄生者の卵を一心不乱に抱くカニ、そして私たち人間でさえ体内に存在する小さな別の生き物に操られているかもしれないという研究例などがあります。生物たちのそれぞれの生きる戦略がせめぎ合う共生の世界にようこそ。
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新書版p.13


 自分の都合の良いように宿主の行動をコントロールする寄生者たち。寄生生物の思わずぞっとするような巧みな生態を紹介してくれるサイエンス本。単行本(幻冬舎)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。


「1 自然界に存在するさまざまな共生・寄生関係」
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 ロイコクロリディウムに寄生され、脳を操られたカタツムリは、なぜか昼間に動き出し、ふらふらと鳥に見つかりやすい木に登っていき、明るく目立つ葉っぱの表面へ移動します。それだけでも、鳥に捕食される確率は上がりますが、寄生者ロイコクロリディウムはさらにあと一工夫加えます。ロイコクロリディウムはカタツムリの触角をまるで鳥の大好物のイモムシのように見せかけるのです。
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新書版p.17

 カタツムリを操って自殺させる吸虫。様々な共生関係・寄生関係を紹介します。


「2 ゴキブリを奴隷化する恐ろしいエメラルドゴキブリバチ」
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脳手術をされたゴキブリは、麻酔から覚めると何事もなかったようにすっくと自分の脚で立ち上がります。元気に生きてはいますが、逃避反射をする細胞に毒を送り込まれているので、もうハチから逃げようと暴れたりはしません。いわゆるハチの言いなりの奴隷になっているのです。ゴキブリは自分の脚で歩くこともできますし、毛繕いなど自分の身の回りの世話をすることもできます。ただし動きが明らかに鈍くなり、自らの意思では動かなくなります。
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新書版p.43

 ゴキブリに精密な脳手術を施して意のままに動く奴隷にする寄生ハチ。その驚異的とも言えるあくどい生態を紹介します。


「3 体を食い破られても護衛をするイモムシ」
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 80個もの卵を産み付けられ体の中身を食い荒らされ、そのうえ体の表面の皮のあらゆる場所が破られているのですから、さすがにそろそろ死んでしまいそうですが、寄生されたイモムシはどういうわけか死んではいません。その姿がまるでゾンビのようなのです。
 そして、寄生されていたイモムシはただ生ける屍になっているのではありません。驚くべきことに、自分の体内を食いつくしたブードゥー・ワスプの蛹を全力で守る行動をし始めるのです。
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新書版p.54、56

 全身を食い荒らされながらも、すぐには死なずにゾンビとなって寄生ハチの幼虫を守り抜くイモムシ。寄生バチが宿主をぼろぼろになるまで利用し尽くす無情な生態を見てゆきます。


「4 テントウムシをゾンビボディーガードにする寄生バチ」
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 そうして、体中を食い荒らされながらも生き続け、意思を奪われ、ボディーガードをしていたテントウムシは、最終的にどうなるのでしょうか。死を迎えて当然だと思われるでしょうが、寄生されたテントウムシの4分の1が回復し、元の生活に戻ります。しかし、せっかくゾンビボディーガードから奇跡の生還を果たしたにもかかわらず、その生還したテントウムシの一部は、再び同じ種類のハチに寄生されてしまうのです。
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新書版p.62

 寄生バチから脳に感染するウイルスを打ち込まれ、ゾンビボディーガードにされるテントウムシ。しかも一部は殺さず生還させ、何度も「再利用」するという寄生バチのえげつない生態を紹介します。


「5 入水自殺するカマキリ」
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川の渓流魚が得る総エネルギーの60パーセント程度が、寄生され川に飛び込んでいたカマドウマであることがわかったのです。(中略)カマドウマが飛び込めないようにした区画では、渓流魚は水に飛び込む大量のカマドウマを食することができないので、他の水生昆虫類をたくさん捕食していました。そして魚のエサとなったこれら水生昆虫類のエサは藻類や落葉だったため、河川の藻類の現存量が2倍に増大し、川の虫の落葉分解速度は約30パーセント減少したことがわかったのです。
 このように、小さな寄生者であるハリガネムシが、昆虫を操り、入水させることは、河川の群衆構造や生態系に、大きな影響をもたらすことが実証されました。
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新書版p.70、71

 ハリガネムシに寄生され入水自殺させられるカマキリなどの昆虫の総量は、何と河川にすむ渓流魚が得る総エネルギーの60パーセントに達するという。河川の生態系を支えるほど大量の昆虫を自殺させるハリガネムシの驚くべき生態を紹介します。


 きりがないのでこのくらいにしておきますが、他にも

「アリを操り死の行進をさせる菌類や吸虫」

「アリを薬物中毒にして自分が分泌する蜜しか消化できないように改造する樹」

「カニを奴隷化してひたすら自分の卵を育てさせるフジツボ」

「エビに群れを作らせるサナダムシ」

「カエルの手足を増やして奇形化させる寄生虫」

などのびっくりするような寄生のやり方が次から次へと紹介され、最後は私たち人類も寄生者に操られて性格や行動をコントロールされているかも知れないというトピックに至ります。

 知らなかったことも多く、また知っていた寄生行動についても最近の研究により明らかになった新しい情報が追加されていたりして、最後まで飽きさせません。


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