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『ミューズ叢書<1> 特集『妖怪探偵・百目』対談&インタビュー』(上田早夕里、八杉将司) [読書(随筆)]

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 私にとって「妖怪」や「異形のもの」は、子供の頃から慣れ親しんできた友達にも等しい存在です。一度はどこかで作品の形にしなければ――と思っていたところ、『異形コレクション』という素晴らしいホラーアンソロジーに招待して頂く機会を得て、その後、様々な幸運に恵まれたおかげで、ここまで辿り着くことができました。
 執筆中は、自分の意思で書いているというよりも「何かに書かされている」という気持ちが強くあり、自分の中にそのような不思議な通路が開いている感覚を、何よりも大切にしながら書きました。
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Kindle版No.1035


 人気作『妖怪探偵・百目』シリーズはどのようにして生まれたのか。著者である上田早夕里さんが経緯や裏話を余すところなく語った対談&インタビュー集。Kindle版配信は2016年1月です。


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 異形コレクションは、様々なタイプの短篇ホラーを集めたアンソロジーだが、テーマによっては、SFと怪奇幻想との融合を目指した意欲的な作品を集めていた。このとき同シリーズが求めたのは、進化する妖怪、宇宙空間に潜む妖怪、科学で解き明かされたかに見えつつも新たな様相を呈する妖怪、未来へ伝承される古来の姿そのままの妖怪――すなわち《未来》と《妖怪》という、あまり類を見ない取り合わせを描く試み。これに応じて書かれた50枚の短篇「真朱の街」が、のちに『妖怪探偵・百目』シリーズとなっていく。
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Kindle版No.29


 テーマとなっている『妖怪探偵・百目』シリーズについては、以下の紹介を参考にして下さい。

  2014年07月16日の日記
  『妖怪探偵・百目1 朱塗りの街』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-07-16

  2015年04月14日の日記
  『妖怪探偵・百目2 廃墟を満たす禍』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-14

  2015年11月24日の日記
  『妖怪探偵・百目3  百鬼の楽師』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-11-24


 著者である上田早夕里さんから色々と聞き出すインタビューアーの担当は、八杉将司さん。個人的に『Delivery』しか読んでないのですが、かなりのSF者という印象。

  2012年06月18日の日記
  『Delivery』(八杉将司)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-06-18


 二人の対話は、シリーズの原点であり、また両名ともに係わってきた、「異形コレクション」の話から始まります。


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「異形コレクション」は、ジャンルホラーの作家とSF系の作家が半々ぐらいの割合で載っていて、あれがすごくありがたかったですね。ジャンルホラーの作家さんは、同じテーマでもアプローチの仕方が全然違う。SF作家さん同士でも全然違うんだけど、非SF系の発想はさらに別の視点から見る驚きと楽しさがあって。「異形コレクション」でやっているうちに、自分が子供の頃にホラーを好きだったことを思い出して、非常に懐かしい気持ちになったんです。SFだけ書いていると、これを忘れてしまう。
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Kindle版No.141


 続いて、百目が探偵なのは私立探偵=プライベート・アイだから(駄洒落か!)とか、「凶銃」という言葉が繰り返されるのは元ネタ(小松左京の短篇)に気づいてほしかったからだとか、どうして沖縄が出てくるのかとか、さらには本来なら5巻は必要な話なのになぜ3巻で終わらせなければならなかったのか、といった様々な話題。

 登場人物の人気というネタも盛り上がります。「ある年齢以上の男性読者に非常に受けがよかった登場人物」「好き嫌いが真っ二つに割れた登場人物」「著者が“非常に気に入っている”と語る登場人物」、それぞれ誰でしょう。

 個人的には、シリーズそのものの話より著者に関する話題の方が興味深く読めました。


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自分の作品が、「真面目な人物が真面目に社会のことを考えて、理想の社会を作ろうとする話」としか評されないのがものすごく嫌で、居心地の悪いものを感じていました。それだけじゃあないんだと。だから百目シリーズでは、意図的に、それを全部ひっくり返そうとした。
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Kindle版No.347


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でも、フィクションの中で人格者を書くのが嫌なのね私は。変なことに拘り続けて、その拘りと共に破滅していく人間のほうが好きなんですよ。
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Kindle版No.531


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 百目シリーズに関しては、SFとして読めるという人もいるし、いや違うよという人もいて、それぞれに見方があるらしいんです。その幅の広さは、著者から見ると大変興味深いものでした。いま日本で、 SFというものが、どう思われているのかという意味で。
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Kindle版No.792


 というわけで、百目シリーズを気に入った方は必読といってよい充実した一冊。また、対談でもあるので八杉さんもそれなりにご自身のことを語りますし、上田さんが八杉さんにインタビューするパートも収録されていますので、八杉将司さんの読者にもお勧めです。



タグ:上田早夕里
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