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『エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 憑かれた鏡』(エドワード・ゴーリー:編、柴田元幸:翻訳) [読書(小説・詩)]

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 ゴーリーは、典型的な幽霊屋敷ものや、悪趣味ギリギリの犯罪もの、秘術を上手く使ったミステリなどと混ぜることで、こういった作品の味を引き立たせることに成功し、アンソロジーという一冊の書物を読む愉しみを提供してくれている。しかし、全く根拠はないのだが、私には、ゴーリーが緻密な計算に基づいて本書を編んだとは思えない。むしろ、優れた読者としての直感で、「こう配した方が面白い」と判断しただけなのではないだろうか。
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『解説――ルッキング・グラス・ライブラリーのゴーリー』(濱中利信)より


 不気味なイラストによって大人の読者も魅惑する絵本作家エドワード・ゴーリーが選んだ怪談を集めた怪奇小説アンソロジー。ハーヴィ『八月の炎暑』、ディケンズ『信号手』、ストーカー『判事の家』、ジェイコブズ『猿の手』などの定番から、あまり知られていない小品まで12話が収録され、それぞれにゴーリー自身によるイラストが付けられています。単行本(河出書房新社)出版は2006年8月、文庫版は2012年6月に出版されました。


収録作品

『空家』(A.ブラックウッド)
『八月の炎暑』(W.F.ハーヴィ)
『信号手』(C.ディケンズ)
『豪州からの客』(L.P.ハートリー)
『十三本目の木』(R.H.モールデン)
『死体泥棒』(R.L.スティーヴンスン)
『大理石の躯』(E.ネズビット)
『判事の家』(B.ストーカー)
『亡霊の影』(T.フッド)
『猿の手』(W.W.ジェイコブズ)
『夢の女』(W.コリンズ)
『古代文字の秘法』(M.R.ジェイムズ)





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『オーグメンテッド・スカイ』(藤井太洋) [読書(小説・詩)]

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「泊君、わかんないのか?」
 それまで聞いたことのない口調だった。飲酒や喫煙、無断外出を叱るときとは違う、訴えるような声に、マモルたちは背筋を伸ばした。
「偽善かもしれないが、彼らは自分の手で社会を動かそうとしているんだ。テコの原理でデカく膨らませてるだろうが、何十億かを動かしてるんだよ。取引所の中に置いたサーバーで後出しジャンケンしてるのは汚いが、そこに入るために利益を上げられることを証明してるんだ」
 佐々木はタブレットの目論見書をマモルたち、一人一人に突きつけた。
「何より彼らは、自分たちの計画を公表してるんだよ。正しいことをやってる、ってな」
 佐々木は口にしなかった。「お前らは?」という言葉がマモルの胸に響いた。
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 国内で開催される学生VRコンテストの常連参加校、鹿児島県立南郷高校。その中心である蒼空寮のメンバーたちは、世界中の若者たちがVR技術を使ったプレゼンテーションを競う世界大会「ビヨンド」の存在を知り、出場を決意する。技術の力で世界を変えようとする若者たちの成長をえがく青春小説。単行本(文藝春秋)出版は2023年6月です。

 著者の出身校をモデルにしたと思しき鹿児島の高校と男子寮が舞台となる長篇小説。設定は現代(技術スペック的にはやや近未来)ですが、男子寮の描写などはおそらく著者が在校していた頃の記憶なのでしょう。わりと体育会系というか後輩は先輩に絶対服従、どんな理不尽にも耐えるべし、みたいな伝統が残っています。そういう古めかしい体質と全国有数の進学校の生活、そして最新のVRテクノロジーが、自然にストーリーに溶け込んでいるところが見事。

 プロットはいわゆる部活モノで、若者たちが大会を目指して頑張るという物語ですが、部活に相当するのが最新技術を活用したプレゼンテーションの世界大会というのがいかにも著者らしい。ヘッドマウントディスプレイを通して自分たちの未来と世界の未来を見つめ成長してゆく若者たちのさわやかな物語です。





タグ:藤井太洋
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『ぢべたくちべた』(松岡政則) [読書(小説・詩)]

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うちなる世阿弥の聲、ドストエフスキーの聲、一叢の艸の聲
おぐらいこそが艸を嗣ぐ運動
原意からもズレてしまうことばの動きはまだか
老いてなおもって励みたい
ただ一篇でいい
不穏なる傑作をものにしたい
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「聲の身の上」より


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ノミ、セットウ、コヤスケ
使いやすい道具ほど美しいものだ
背戸の石垣は二年近くかけて一力で修復した。
晩飯は大根のツナサラダにインド風スパイシーハンバーグ
下拵えをすませ今これを書いている
言葉の身ぶりが詩であるなら
想は無防備であってもいいだろう
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「春の一日」より




まだ読んではいないのだがそこにあるだけで幸せな本がある
背表紙に気配があるあなたがわたしの部屋に棲んでおられる
                「キリンの黒い舌」より


 あるく。たべる。旅。土地。艸。命の激しさをこめた、身体からくる嘘のないことば。あさましく取り繕いあるいは他人を扇動し支配するための言葉にまみれて生きている私たちの肺が求める最新詩集。単行本(思潮社)出版は2023年8月です。




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低くうねってくるエネルギー
アナーキーだのにどこか清潔で
静かな怒りのようなものもヒリヒリと伝わってくる
ニョニャ料理の店先では太り肉の女が全身でリズムを刻んでいる
バティックシャツ着たムスリム商人はパタイの木蔭で耳を傾けている
雑踏の中でこそ透き通るいのち、
にぎわいのさびしみのようなもの、
野良犬の慾動がシャツをべとつかせるのか
不意の息にふれることがあるマラッカ
人人のふるまいがやがてひかりとなるマラッカ
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「マラッカ」より




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あるくが祝福されているね
バンコクには迷いがないね
かぐわしい香りが漂ってくるラープ・パークという名の店に入る
パパイヤサラダに骨付きラム肉のマッサマンカリー
まだ食べてもいないのにもうアロイ
まずは一と口、また一と口
アロイけどペ(辛い)、けどアロイ
ペはペ、けどさっと引いていくペ
まったく愛想のない店だ、けどアロイ
プルメリアの白い花
アロイが止まらないずっと食べ続けていたいこのまま死んでもかまわない
この一食を味わう為にこそ生まれてきたのかも知れなかった息ができない
食べるはどこかエロい、エロアロイ
そしていつだって政治的だ
うまいものを食べているとからだのどこかさみしくなる
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「アロイ」より




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自分の不注意で誰かが拘束される夢をときどき見る
からだは静寂よりも都市の喧騒を欲していた、そのことだろうか
一所懸命働いてきたのに朝にはいらない人になっていたそのことだろうか
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「犬」より




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あるくという行為は
あらがうということだった
わたしはみんなではないただそのことだった
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「くぬぎあべまきうばめがし」より




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わからないまま書いている。
まだなにものでもないもののふるえ。
ことばの無駄な動きこそがわたしなのか。
蟲、艸、鐵、聲は本字で書きたい。
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「漫遊帖」より





タグ:松岡政則
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『湯治場のぶたぶた』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

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「こっちにいい湯治場があるから、来てみないか?」
「湯治場?」
「温泉に浸かって、病気や怪我を癒す場所だよ」
 そんなところがあるの?
「そこのご主人がとてもいい人だから。いろいろなことを聞いてくれるよ」
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文庫版p.117


「今回のテーマは湯治場です。私の願望が溢れ出るテーマです。まだまだ体調万全とはいえないのでねえ」(「あとがき」より)

 見た目は可愛いぶたのぬいぐるみ、中身は頼りになる中年男。そんな山崎ぶたぶた氏に出会った人々に、ほんの少しの勇気と幸福が訪れる。大好評「ぶたぶたシリーズ」は、そんなハートウォーミングな奇跡の物語。

 最新作は、癒しを求めて湯治場をおとずれる人々の物語3篇を収録した短編集。温泉に浸かって美味しいもの食べてぶたぶたのカウンセリングを受けるだけで、メンタル不調もみるみる回復そりゃそうだ。文庫版(光文社)出版は2023年7月です。


収録作品
『最初の一歩』
『特別室』
『密かな告白』




『最初の一歩』
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 まだ不安はある。でも一日数分でも、こんな楽しい時間が持てれば、なんとかなるかもしれない。また少し調子が悪くなったら、ここに来ればいい。ぶたぶたに話を聞いてもらおう。好きな本の話、まだしてないし。
 あと、小説のモデルになってもらってもいいかって。
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文庫版p.80

 うつ病で仕事を休んでいる男が湯治場に向かう。そこで療養しつつ小説を書いてみようと思っていたのだが、そこでは小説どころではない出会いが待っていた。心身不調描写がリアルというか実感こもっている癒し願望充足小説。「山崎ぶたぶた氏をモデルに小説を書こう」と考えた登場人物ははじめてではないかと思う。




『特別室』
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「あと、Wi-Fiも届かない」
「あー、それは今どきの旅館としてはいかんかもしれませんね」
 すでに「売り」にもできないごく普通の設備であろう。
「けど、それがいいって言った人がいてね。それで『特別室』とも言ってたんだよね」
 確かに今、そういうところは「特別」なのかも。けど、
「不便じゃありませんか?」
「いや、Wi-Fiも携帯の電波も届かないのがいいんだって。これがいわゆるデジタルデトックスだよね」
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文庫版p.91

 湯治場の離れにある「特別室」は、携帯電波圏外でWi-Fiもないことから、スマホ依存症などの治療に使われていた。そこに親といっしょに連泊している幼い女子。何やらワケアリのようだが……。現実に多くの若者たちを苦しめている現代的な問題がテーマとなります。構成とプロットのひねりが工夫されたミステリ作品。




『密かな告白』
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 満知子のことを思い出した。ほんの一時隣り合って話しただけなのに、覚えてくれていた。琴代自身があるはずないと思っていた悲しみを、汲み取ってくれた。「わたしと似ている」と言ってくれた。
 あるはずのない痛みと、あるはずなのにない痛み。
 それはどちらも幻ではなかった。
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文庫版p.221

 何度も利用している常連客である語り手は、湯治場での出会いがきっかけで、ぶたぶたに自分の悩みを話す気になる。ぶたぶたとの会話によって心の傷と痛みが癒される過程を丁寧に描く感動的な作品。





タグ:矢崎存美
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『Down Beat 21号』(柴田千晶、小川三郎、他) [読書(小説・詩)]

 詩誌『Down Beat』の21号を紹介いたします。


[Down Beat 21号 目次]
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『恥ずかしい古びた一枚のもの』『小林さん』(金井雄二)
『春の葬』(柴田千晶)
『うたの日』(谷口鳥子)
『鍵っ子』『水売り』(廿楽順治)
『春』(徳広康代)
『動物ということ』(中島悦子)
『どうぶつ(詩)』(今鹿仙)
『かりそめ』(小川三郎)
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お問い合わせは、次のフェイスブックページまで。

  詩誌Down Beat
  https://www.facebook.com/DBPoets




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みんなには、くーちゃんの死が見えないのでしょう。カウントされてもいないのだから、当然ですね。町々に元気に溢れかえっているみんなには、そんなみんなをテレビで見ているみんなには、そして、みんな全部全部を動物としか思わない動物には。

わめく声 わめく声しかない世界は。
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『動物ということ』(中島悦子)より




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人を神に似せることが
罪とまでは言えなくても
神に愛されるつもりなら
美につきもっと知らなくては。
人間と言う技法についても
もっと深く学ばないと。

幸福などは口にせぬこと。
悪について調べないこと。
疑問はすべて
我が子が汲み取る。
私はそれを否定しよう。
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『かりそめ』(小川三郎)より





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