『オーグメンテッド・スカイ』(藤井太洋) [読書(小説・詩)]
――――
「泊君、わかんないのか?」
それまで聞いたことのない口調だった。飲酒や喫煙、無断外出を叱るときとは違う、訴えるような声に、マモルたちは背筋を伸ばした。
「偽善かもしれないが、彼らは自分の手で社会を動かそうとしているんだ。テコの原理でデカく膨らませてるだろうが、何十億かを動かしてるんだよ。取引所の中に置いたサーバーで後出しジャンケンしてるのは汚いが、そこに入るために利益を上げられることを証明してるんだ」
佐々木はタブレットの目論見書をマモルたち、一人一人に突きつけた。
「何より彼らは、自分たちの計画を公表してるんだよ。正しいことをやってる、ってな」
佐々木は口にしなかった。「お前らは?」という言葉がマモルの胸に響いた。
――――
国内で開催される学生VRコンテストの常連参加校、鹿児島県立南郷高校。その中心である蒼空寮のメンバーたちは、世界中の若者たちがVR技術を使ったプレゼンテーションを競う世界大会「ビヨンド」の存在を知り、出場を決意する。技術の力で世界を変えようとする若者たちの成長をえがく青春小説。単行本(文藝春秋)出版は2023年6月です。
著者の出身校をモデルにしたと思しき鹿児島の高校と男子寮が舞台となる長篇小説。設定は現代(技術スペック的にはやや近未来)ですが、男子寮の描写などはおそらく著者が在校していた頃の記憶なのでしょう。わりと体育会系というか後輩は先輩に絶対服従、どんな理不尽にも耐えるべし、みたいな伝統が残っています。そういう古めかしい体質と全国有数の進学校の生活、そして最新のVRテクノロジーが、自然にストーリーに溶け込んでいるところが見事。
プロットはいわゆる部活モノで、若者たちが大会を目指して頑張るという物語ですが、部活に相当するのが最新技術を活用したプレゼンテーションの世界大会というのがいかにも著者らしい。ヘッドマウントディスプレイを通して自分たちの未来と世界の未来を見つめ成長してゆく若者たちのさわやかな物語です。
「泊君、わかんないのか?」
それまで聞いたことのない口調だった。飲酒や喫煙、無断外出を叱るときとは違う、訴えるような声に、マモルたちは背筋を伸ばした。
「偽善かもしれないが、彼らは自分の手で社会を動かそうとしているんだ。テコの原理でデカく膨らませてるだろうが、何十億かを動かしてるんだよ。取引所の中に置いたサーバーで後出しジャンケンしてるのは汚いが、そこに入るために利益を上げられることを証明してるんだ」
佐々木はタブレットの目論見書をマモルたち、一人一人に突きつけた。
「何より彼らは、自分たちの計画を公表してるんだよ。正しいことをやってる、ってな」
佐々木は口にしなかった。「お前らは?」という言葉がマモルの胸に響いた。
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国内で開催される学生VRコンテストの常連参加校、鹿児島県立南郷高校。その中心である蒼空寮のメンバーたちは、世界中の若者たちがVR技術を使ったプレゼンテーションを競う世界大会「ビヨンド」の存在を知り、出場を決意する。技術の力で世界を変えようとする若者たちの成長をえがく青春小説。単行本(文藝春秋)出版は2023年6月です。
著者の出身校をモデルにしたと思しき鹿児島の高校と男子寮が舞台となる長篇小説。設定は現代(技術スペック的にはやや近未来)ですが、男子寮の描写などはおそらく著者が在校していた頃の記憶なのでしょう。わりと体育会系というか後輩は先輩に絶対服従、どんな理不尽にも耐えるべし、みたいな伝統が残っています。そういう古めかしい体質と全国有数の進学校の生活、そして最新のVRテクノロジーが、自然にストーリーに溶け込んでいるところが見事。
プロットはいわゆる部活モノで、若者たちが大会を目指して頑張るという物語ですが、部活に相当するのが最新技術を活用したプレゼンテーションの世界大会というのがいかにも著者らしい。ヘッドマウントディスプレイを通して自分たちの未来と世界の未来を見つめ成長してゆく若者たちのさわやかな物語です。
タグ:藤井太洋
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