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『とてつもない失敗の世界史』(トム・フィリップス:著、禰冝田亜希:翻訳) [読書(教養)]

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 世界で起こっている最近の出来事を見聞きして、あなたの個人的な意見がどうであるか、あなたの政治的な立場がどうであるかにかかわらず、こうぼやいたことがあるのではないだろうか。「なんてこった。どうして人間はこうなんだ?」
 そんなとき、本書はせめてもの慰めになってくれる。「大丈夫だよ。私たちはいつだって、こうだったじゃないか。今もまだ同じところにいるというだけだよ!」と。
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単行本p.9


 人類の歴史は悲惨で間抜けな大失敗に満ちている。私たちの脳は致命的な欠点を抱えているし、環境保護も統治も戦争も外交も何もかも壊滅的に下手で、科学技術の発展は失敗を地球規模にまで拡大させただけだった。木から落ちて死んだルーシーからアメリカを再び偉大にするリーダーを選出した米国民まで、多くの人びとがやらかしてきた大失敗の歴史について語る一冊。単行本(河出書房新社)出版は2019年6月、Kindle版配信は2019年7月です。


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 人類のこれまでの出来を率直に評価すると、あなたを目の敵にしている上司がくだす無慈悲な査定と同程度だ。私たちはありもしないパターンを想像してしまうし、仲間とのやりとりは心もとなくて、コミュニケーション能力はときに欠如している。したがって、こんなことを変えたらあのことも変わってきて、さらに悪いことに陥り、しまいには、ああやめてくれ、こんなことになっちまった、どうやって止めたらいいかわからない……となると、事前に気づけなかった残念な歴史がある。
(中略)
 人間の脳はこんなに優れているにもかかわらず、極端に変てこで最悪のときに果てしなくおかしなことをしでかしやすい。毎度のように恐ろしい決断を重ね、ばかげたことを信じ、目の前にある証拠から目をそむけ、まったくもってナンセンスな計画を行きあたりばったりに思いつく。(中略)国政の何もかもが最悪の状況になっているのが日を追うごとに明らかになっているときにでも、国を代表する大臣たちが「交渉はまことにうまくいっている」だとか、「前向きな進展があった」だとか、かたくなに言い張る。もう選択はなされたのだから、選択は正しかったに決まっているではないか、なぜなら選択をしたからだ、というわけだ。
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単行本p.9、21、29




目次

第1章 人類の脳はあんぽんたんにできている

第2章 やみくもに環境を変えたつけ
最後の一本まで木を伐採したイースター島

第3章 気やすく生物を移動させたしっぺ返し
鳥をみくびってはならない——中国からスズメを駆逐した毛沢東
鳥をみくびってはならない——米国にムクドリを放ったニューヨーカー

第4章 統治に向いていなかった専制君主たち
兄弟を幽閉するオスマン帝国の黄金の鳥かご

第5章 誰が誰を、誰をどう選ぶかの民主主義
初めからばかにされていたヒトラー

第6章 人類の戦争好きは下手の横好き
おざなりだったケネディーのキューバ侵攻

第7章 残酷な植民地政策をヘマばかり
スコットランドを破綻させた投資家、パターソン

第8章 外交の決断が国の存亡を決める
チンギス・カンに消された大国ホラズム

第9章 テクノロジーは人類を救うのか
二度も地球を汚染した発明家、トマス・ミジリー

第10章 人類が失敗を予測できなかった歴史




第1章 人類の脳はあんぽんたんにできている
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 私たちの独特な思考のしかたは、どんなに素晴らしい方法で世界を思うように変えることを可能にしてきたのだろう? それでいて、それがどんなに最悪かがわかりきっているのに、可能なかぎり確実に最悪の選択を絶えまなくできるのだろう? つまり、私たちは月に人を送ることができるほど賢いのに、どうしてあんなメッセージをもう別れたはずの元カノに送ることができるのか。煎じ詰めれば、その答えは私たちの脳の進化のしかたにある。
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単行本p.21


 まず、最悪の大失敗をしでかす理由について、私たちの脳が持っている様々なバイアスとその進化的由来を解説します。


第2章 やみくもに環境を変えたつけ
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 ポリネシア人は、私たちよりまぬけだったわけではない。野蛮でもなかったし、ましてや状況に気づいていなかったわけでもなかった。もしあなたが、いつ何どき環境災害に見舞われても不思議ではない社会が、みすみす問題をやりすごし、そもそもの問題の元となることをし続けるのはどうかしていると思われるなら……あ、ちょっとあなた、少しまわりを見まわしていただきたい。
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単行本p.57


 アメリカ中央平原のダストボウル、干上がったアラル海、カヤホガ川の炎上、イースター島の伐採。環境破壊により強烈なしっぺ返しを受けた大失敗の歴史について語ります。


第3章 気やすく生物を移動させたしっぺ返し
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 1890年のある寒い初春の日にシーフェリンがしでかしたことは、結果として、病気をばらまき、毎年何百万ドルもの値うちがある作物を台なしにし、飛行機事故で62人もが命を落とす羽目になった。これはどこかの誰かが、ただ自分がどんなに熱烈なシェイクスピアのファンであるかを見せつけようとした報いとしては、あまりにも損害が大きい。
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単行本p.74


 オーストラリアのウサギ大繁殖、ヴィクトリア湖のナイルパーチ災害、ダストボウル問題を解決するために導入されたクズ、スズメを駆逐したことで起きた中国の大飢餓、ムクドリの大繁殖。軽はずみな外来種導入で生態系をずたずたにしてしまった大失敗の歴史について語ります。


第4章 統治に向いていなかった専制君主たち
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 独裁者がどこまで愚行を犯せるかという好例を見てみたいなら、二度あることは三度あり、悪いことは三度続くことを地でいくオスマン帝国の時代に勝るものはない。(中略)この時期のオスマン帝国の歴史は、人を人とも思わない血塗られた白昼夢のようで、本当に起こった出来事とは信じがたい。
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単行本p.96、122


 永遠の命にとりつかれた始皇帝、シンデレラ城で国を埋め尽くそうとしたルートヴィヒ二世、窃盗症のエジプト王ファルーク、思いつきで動いたトルクメニスタンのサパルムラト・ニヤゾフ、そしてオスマン帝国の阿鼻叫喚。独裁者たちがしでかした大失敗の歴史について語ります。


第5章 誰が誰を、誰をどう選ぶかの民主主義
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 何かおぞましいことが起こると、私たちはその背後に統制の取れたインテリジェンスがあったに違いないと想像しがちである。そう思うのも無理はない。天才的な悪人が裏で糸を引いているのでなければ、そこまでひどい事態に陥るはずはないだろうと考えるからだ。このことのまずい面は、天才的な悪人が身のまわりにいなければ、〈何も問題はない〉から安心できる、と思いがちなことである。
 この考えが大はずれだということは歴史からよくわかる。これこそ私たちが何度も繰り返してきた過ちである。
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単行本p.122


 国民の投票で選ばれた犬、足パウダー、そしてヒトラー。大失敗をしでかす能力に関する限り専制君主制度に勝るとも劣らないことを証明してきた民主主義の歴史について語ります。


第6章 人類の戦争好きは下手の横好き
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 アーサー・シュレジンジャーはのちにこう述懐している。作戦会議は「すでにできあがったコンセンサスのある奇妙な場の空気」の中で行われ、内心、計画が愚かしいと思っていても、会議中は押し黙っていた。「遠慮がちにいくつか質問をする以上のことをできなかった私の落ち度を言葉にするなら、この愚かな計画に警鐘を鳴らそうとする意欲が、会議の場の空気のせいで削がれてしまったと言うことでしか説明できない」と書いた。シュレジンジャーの肩を持つわけではないが、私たちは皆そうした場を経験している。
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単行本p.144


 英国軍が戦わずして負けたカディスの戦い、オーストリア軍がそもそも敵すらいなかったのに大敗北を喫したカランセベシの戦い、まぬけな自滅で大敗したピーターズバーグの戦い、戦争していることにすら気づかなかったグアム、ナポレオンとヒトラーがしでかした同じ間違い、第二次世界大戦で同士討ちをしでかした米軍、トイレ問題で沈没したドイツ軍の潜水艦、そしてベトナム戦争にキューバ侵攻。愚行にあふれている戦史について語ります。


第7章 残酷な植民地政策をヘマばかり
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 口を酸っぱくして言うが、植民地支配は悪かった。実に悪いことだった。本書のこの部分はあまり愉快でなくて申し訳ない。
 本来、このことは言うまでもない大前提であるべきだ。こんなことをわざわざ言わなければならないのは、私たちは現在でも、植民地主義は良いものだったという強烈な反動のただ中にいるからである。(中略)人類は実際に起こった事実にもとづいて過去を考えようとすべきで、漠然たる郷愁の想いから、帝国がどんなに良かったかという短絡的でわかりやすい物語にすべきではない。
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単行本p.157、159


 探検家から征服者、統治者まで、ありとあらゆる人びとが悲惨で壊滅的な大失敗を重ねてきた植民地政策。そもそも最悪でありながら、なお愚行と蛮行の底を突き抜けようとし続けた植民地支配の歴史を語ります。


第8章 外交の決断が国の存亡を決める
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 ドイツは「敵の敵は友だ」という論理を鵜呑みにするという古い罠にはまった。これはつねに間違いだとは限らないが、友情の賞味期限はたいてい驚くほどに短い。実際に至上最悪の無数の決断の背後には、「敵の敵だ」という思い込みが潜んでいる。このことから、何世紀もの極端に混乱したヨーロッパの歴史を説き明かすことができる。
 この現象の別名は「戦後のアメリカの外交政策」と言ってもいい。
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単行本p.197


 残念な、あるいはまったく意味不明な、外交上の決断により滅びた国の数々。外交における愚行の歴史について語ります。


第9章 テクノロジーは人類を救うのか
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 科学、技術、産業の時代の夜明けは、これまで私たちの祖先が夢にも見なかった可能性を人類にもたらした。あいにく、これまで想像もしなかった規模で失敗をする機会ももたらした。
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単行本p.214


 ヤード・ポンド法のおかげで火星に激突した探査機、ポリウォーターやN線の大発見、優生学やルイセンコ学説の猛威、有鉛ガソリンとフロンの両方を発明して地球を徹底的に汚染した発明家。科学技術の発展が大失敗を防ぐのではなく、その規模をどんどん拡大していった歴史について語ります。


第10章 人類が失敗を予測できなかった歴史
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 私たちはたいして変わることなく、同じ行いを続けるのだろう。他人に責任をなすりつけ、空想世界を入念に築き上げさえすれば、自分のしたことに向き合わなくて済む。経済危機のあとでポピュリストの統治者たちが台頭し、金の争奪戦が繰り広げられる。集団思考に呑まれ、一過性のブームに浮かれ、確証バイアスに屈する。そしてまたもや性懲りもなく、この計画は抜かりなく、うまくいかないはずがないと心に言い聞かせるのだ。
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単行本p.264


 過去の過ちの再現速度が輪をかけて速まっている現代。私たちは過去から学ぶことはなく、これからも大失敗は続くだろう。それとも、今度こそ私たちは変わり、賢明になり、同じ大失敗を繰り返すことのない新しい時代を迎えたのかも知れません。現アメリカ合衆国大統領の、自信に満ちた笑顔の写真とともに、本書は幕を閉じます。



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