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『「研究室」に行ってみた。』(川端裕人) [読書(サイエンス)]

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 受験に理系・文系の壁があることは、今の日本では動かしがたい事実だ。でも、この本をまとめる中で、つまり6人の研究者たちの言葉に耳を傾けるうちに、実際の世界はそのように動いていないと知ることが重要だと思えてきた。研究は、既存の「教科」の枠や、文理の壁を超えて、自由だ。普遍的なことを知りたいという気持ちは、枠からはみだし、壁を壊して、越境する。
 本書の中の研究者たちは、まさに、枠からはみだし、壁を壊す人たちだ。突破し、越境し、旅する人たちである。その力強さと楽しさが伝わって読者の胸に響いたら、本当にうれしい。
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新書版p.236


 サハラ砂漠にバッタを追う。ロケットを、ロボットを、新元素を、巨大宇宙構造体を、創り出す。そして世界の見方を変える。六人の研究者たちへのインタビューを通じて、研究者の興奮や喜びを活き活きと描いたノンフィクション。新書版(筑摩書房)出版は2014年12月、Kindle版配信は2015年7月です。


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 自分がまとめたものを再読しながら、つくづく思ったのは、自分が十代の頃にこういう人たちに出会いたかったな、ということだ。ちょっと斜に構えながらも、実は感化されやすかったぼくは、きっとタマシイが震えるような興奮を憶えただろう、と。
(中略)
 活動拠点が日本国内か国外か。大学などの研究機関の研究室なのか、それとも企業の研究室なのか。研究のスタイルは様々だが、自分の関心を研究として結実させていく力強さは共通する。多少の障害は勢いではねのけたり、粘り強く働きかけたりすることで、道を切り拓く、いわば突破する力を素直に感じさせてくれる人たちである。
 こういう生き方、研究の仕方があるのだと、知ることで世界が広がるような、夢を感じさせるような、本書の中だけに存在する素敵な「チーム」ができたと信じる。
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新書版p.4、5




[目次]

『砂漠のバッタの謎を追う』
前野ウルド浩太郎(モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所)

『宇宙旅行を実現するために』
高橋有希(宇宙ベンチャー開発エンジニア)

『生物に学んだロボットを作る』
飯田史也(チューリッヒ工科大学バイオロボティクス研究室)

『地球に存在しない新元素を創りだす』
森田浩介(理化学研究所超重元素合成研究チーム)

『宇宙エレベーターは可能である』
石川洋二(大林組エンジニアリング本部)

『すべては地理学だった』
堀信行(奈良大学文学部地理学科)




『砂漠のバッタの謎を追う』
前野ウルド浩太郎(モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所)
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 サハラ砂漠で、捕虫網を降る「バッタ博士」。
 サングラスをしていても、喜びが伝わってくるほどの躍動感で、バッタを白い網の中に追い込んでいった。
 本当に、楽しげである。学術的な研究とはいえ、捕虫網を振るのは童心に戻る作用があると思う。ぼくも、前野さんが必要な数を取り終えた後で、網を借りて少しだけ捕まえさせてもらった。実に、楽しいひとときだった。
 とはいえ、このバッタの幼虫は、「悪魔」と呼ばれるほどの凶暴さを発揮する成虫の、まさに直前の状態であることを思い出し、ふと現実に立ち返ったのだった。
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新書版p.21


 大発生すると農作物に壊滅的な被害を与えるサバクトビバッタ。その生態を調べる研究者は、サハラ砂漠のフィールドワークで捕虫網を振り続ける。前野ウルド浩太郎博士とその仕事については、ご本人の著作にも詳しく紹介されています。

  2017年06月22日の日記
  『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎)
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-22


『宇宙旅行を実現するために』
高橋有希(宇宙ベンチャー開発エンジニア)』
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 高橋さんはこんな「現場」で「国際宇宙ステーションとドッキングできる」仕様のドラゴン宇宙船開発にかかわり、その打ち上げをガラスで仕切られただけのミッションコントロールの外側で見守った。
「すごくワクワクしてましたね。宇宙ステーションのミッションはドラゴン宇宙船が地球に戻ってくるまで2週間くらいだったんですけど、ほとんど寝なかったです(笑)。何も見逃したくなかったので、寝てるときでさえもずっとヘッドセットで通信を聞きながら、何が起こってるかちゃんとモニターしてましたよ」
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新書版p.87


 南極から宇宙へ。民間企業で宇宙船開発チームに加わった研究者が、宇宙開発の現場の興奮を活き活きと語ります。


『生物に学んだロボットを作る』
飯田史也(チューリッヒ工科大学バイオロボティクス研究室)
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 ミツバチは、情報処理の計算能力を上げるのではなく、脳はシンプルなまま、目の構造をうまく調整することで、そもそも計算量を増やさずに済む方法を、何億年もかけた進化の中で獲得していたのだ。
 飯田さんは、ロボットについてのアプローチにしても、人間についての理解にしても、「脳」の役割を大きく見すぎているのではないかと感じているようだ。
(中略)
 飯田さんの研究室では、ロボットの研究をするにあたって、常に生物を意識する。
 生物がおそろしく「効率がよい」というのがその一つの理由として挙げられたが、それは、エネルギー効率やら計算効率やらを、身体そのもののメカニズムによってクリアしているという事実に基づいているようだ。我々は、自分たちの行動が脳によって支配されていると考えがちだが、飯田さんの観点からは、「体に脳がついていってる」のである。
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新書版p.111


 ロボットの動きをリアルタイムに制御するために高速情報処理を行うという発想から、身体の仕組みをうまく活用して計算量を減らし効率よく動くという、生物に見習ったロボットの基本原理を探求する。ユニークなロボットを創り出す研究とその背後にある哲学を解説します。


『地球に存在しない新元素を創りだす』
森田浩介(理化学研究所超重元素合成研究チーム)
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「1回目は、僕がシフトだったんです。先に帰る研究員が、じゃあお先にって部屋を覗いたときに、『森田さん、出てますよ。イベントですよ』って言って……めっちゃくちゃドラマティックですよ、ほんとに。もう気が狂いそうでしたよ。2個目はね、2005年4月2日午前2時過ぎ。3時間早かったらエイプリルフールなんだよね。もう死ぬほど興奮して、言葉にならない、というか」
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新書版p.160


 自然界に存在しない超重元素を創り出す。17年間ずっと空振りを続け、ついに新元素の生成を確認した研究者の粘り強さと意志。113番元素にまつわる研究者の体験を描きます。


『宇宙エレベーターは可能である』
石川洋二(大林組エンジニアリング本部)
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「設計本部から、設計と意匠の専門家を呼びました。そもそも静止軌道ステーションをどんな形にしたらいいか、ですとか。これは、自由度が高くて、みんな嬉々としてやっていましたね。制約がないし、お客さんにプレゼンして納得してもらう必要もないし(笑)」
 石川さんをはじめとして、気象・土木・意匠・設計・施行、といった専門家が集まり、プロジェクトは、現時点で考え得る宇宙エレベーターの構想を描いた。
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新書版p.181


 地表から静止衛星軌道までをつなぐケーブルを伝わって、人や貨物が格安に宇宙まで行き来する。「宇宙エレベーター」構想を単なる理論的なモデルではなく実際の建築物としてデザインする。東京スカイツリーを施工した大林組の研究チームが挑む宇宙エレベーター建造プロジェクトについて紹介します。


『すべては地理学だった』
堀信行(奈良大学文学部地理学科)
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 堀さんという地理学者の研究史を経て、ぐるりと一周すると、「すべては地理学である」という、そんな領域にまで連れて行かれてしまった。
 きっとその観点からは、本書で取りあげた、サバクトビバッタも、宇宙船開発も、ロボット工学も、原子核物理学も、宇宙エレベーターも、すべてが地理学だ。ほんとうに見事なまでに、そう言えてしまう。
 その一方で、どのような分野の研究であれ、その道を極めていくにつれて、自ずとそこから見る世界の描像があり、そこには地図ができる。すべてが地理学だった、というのは、そのまま、あらゆるジャンルの中にも地理学的な認識がかならずある、ということでもある。
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新書版p.232


 地理学とは何か。森羅万象あらゆるものを位置付け関連づける学問としての地理学を通して、本書で取りあげた様々な研究テーマを一つのビジョンへと統合してゆきます。



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