SSブログ

『NOVA 2019年秋号』(大森望:編集) [読書(SF)]

――――
中身がめちゃくちゃ? 辻褄が合わない? いいんだよ、これはSFなんだから。SFってのはめちゃくちゃで辻褄が合わないもんだろ。
――――
収録作『宇宙サメ戦争』(田中啓文)より 文庫版p.158


 小さなSF専門誌になって帰ってきた新生《NOVA》。科学考証とか気にもしない現代SFのトップランナーたちが書き下ろす日本SFアンソロジーNOVA、その第3シーズン2冊目です。文庫版(河出書房新社)出版は2019年8月です。


[収録作品]

『夢見』(谷山浩子)
『浜辺の歌』(高野史緒)
『あざらしが丘』(高山羽根子)
『宇宙サメ戦争』(田中啓文)
『無積の船』(麦原遼)
『赤羽二十四時』(アマサワトキオ)
『破れたリンカーンの肖像』(藤井太洋)
『いつでも、どこでも、永遠に。』(草野原々)
『戯曲 中空のぶどう』(津原泰水)




『あざらしが丘』(高山羽根子)
――――
 捕鯨のイメージアップアイドルグループに捕鯨をさせる/日本初の捕鯨アイドルユニット、というフックは話題性においてこの上なく強力だったというのが大きい。彼女たちはその後しばらく楽曲発表を続けながら、一年に二回の捕鯨活動を行った。大きな野外ステージを湾岸に作って『ライブ』と呼称し、捕鯨の様子をエンターテインメントにして配信する。そこに照準を合わせた活動にシフトチェンジをした。
――――
文庫版p.92


 日本の商業捕鯨をアピールするために結成された女子アイドルグループ。今では捕鯨そのもの、すなわち捕鯨「ライブ」による集客と配信が主要な活動となっていた。捕鯨アイドルグループ「あざらしが丘」の捕鯨ライブのバックステージを描いた擬似イベントテーマSF。




『宇宙サメ戦争』(田中啓文)
――――
 これはサメ類最初の試みとして五年間の調査飛行に飛び立った宇宙船U.S.Sマンタープライズ号の驚異に満ちた物語である。

「シャーク船長」(中略)
「どうした、ミスター・シュモック」
――――
文庫版p.112


 サメ類最初の試みとして五年間の調査飛行に飛び立った宇宙船U.S.Sマンタープライズ号のキャプテン、ジェイムズ・シャークと副官ミスター・シュモックは、宇宙海賊キャプテン・シャークロックと対決する。言語道断問答無用のサメSF。




『赤羽二十四時』(アマサワトキオ)
――――
「何が起こってる!」とりゅうちぇるが叫んだ。
「当店はただいまセブン-イレブンを捕食中です!」とスリムは答えた。
 セブン店内から掻き出された大量の商品群が、ファミマ店内になだれ込む。スリムとぺこは骨格棚をバリケードにして身を守ったが、りゅうちぇるは散弾銃のようなセブン商品群の直撃を被った。缶飲料や缶詰などの商品が、りゅうちぇるの巨体をしたたかに打った。
 ようやっと傾斜が収まり、地面が水平に戻ると、その後コンビニはついに、のしのしと、セコイヤの大樹のような二本の足を交互に動かして歩き始めた。無数の触手が獰猛に踊り狂い、店の行く手を塞ぐビルを蹂躙する。団地が闇に飲まれ、首都高が細切れになる。破壊の振動が街と店内を震撼させる。行く手には光が密集している。赤羽駅周辺エリア――繁華街だ。
――――
文庫版p.238


 ファミリーマート赤羽西六丁目店が、野生に目覚める。もともと離島で捕獲された野生店舗を調教して運用していたコンビニがついに立ち上がり、咆哮をあげ、触手でセブン-イレブンを捕食しながら移動を開始したのだ。破壊される赤羽。たまたま店内にいたバイトとコンビニ強盗コンビの三人は、暴走するファミマを抑えられるか。疾風怒濤のコンビニSF。




『破れたリンカーンの肖像』(藤井太洋)
――――
 ヨーロッパの加速器で、時間旅行効果が認められたというニュースは、わずかに記憶していた。確か、加速器のアインシュタイン効果で延命したワームホールにエックス線を当てたら、一週間後ほど遡った時間に照射することができた――そんな話だっただろうか。
「つまり、ハインツさんたちはあの研究の成果を発展させて、五ドル札を未来から送り込んできた、と言いたいわけなんだな。いやたいしたもんだ」
 言いながらフォークの口調はぞんざいなものになっていった。
――――
文庫版p.284


 どんなに精密検査しても見分けのつかない二枚の「本物」の五ドル札。その謎を追う若き日のフォーク・ドミトリは、未来から過去に五ドル札を送った、と主張する男に出会う。ワームホール型タイムマシンを駆使した『ノー・パラドクス』(『書き下ろし日本SFコレクション NOVA+ バベル』収録)の前日譚で、ミステリ的な落ち着いた導入部からの多段式ロケット的な飛躍がものすごい時間テーマSF。



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ: