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『暗号という』(中島悦子) [読書(小説・詩)]

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あんたのどうにもならないところ
混ぜて炒めてあげようか?
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「新島」より


 幻想的な光景を通じて現実に切り込んでくる詩集。単行本(思潮社)出版は2019年8月です。


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でんきで肉を焼く暮らしは きれいだ
みんなが手拍子 照らされて
耳を疑うようなことでも平気になる
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「訃肉」より


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私もあなた様もどこまで平気でいられるのか
十六洛叉の底まで腐敗した議会を子どもには見せられない
や、見せたほうがいいのかな
グロの程度は R7とか年齢で指定せず
密度や濃度でお示しください
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「被流」より


 思わずヒヤリとするような言葉で世相や政治状況を斬ってくるかと思うと、じわじわと不安をかきたててくるような言葉を撃ち込んできたり。


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柿の落ち葉の
鮮やかな
欲望をそそる赤黄を
拾おうと思ったら
毒亀だった
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「堕秋」より


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公道で
誰もいない
鉄骨の足場が
ひたすら組みあがる
――――
「堕秋」より


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空に
黒い骨が飛ぶのは
小数の象徴
二人にしか通じない
賞賛の言葉
(ただし、一人は欠席)
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「屋上」より


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隣家の洗濯機の音
静寂の中に
薄暗い戸口はあらゆるところにあって
その一軒一軒に洗濯機が回っている
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「回転」より


 個人的には、何かが隠されている、世界は見た通りではない、という印象を受ける作品に特に感銘を受けました。


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ある未開の家の梁には
家長の頭蓋骨が代々
うやうやしく飾られ
小さな探検隊をぎょっとさせる
生きている家長は笑って言う
すべてが人間の頭ではない

ここでは
猿も人間として数える
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「猿罪」より


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解読できない
不能となった通信機が
秘匿の地層に埋もれていた
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「深谷」より


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暦の規則正しい分かれ目で
必ず別れていけば
二度と
物語は繰り返されず
忘れられるだけの
落石になれる
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「深谷」より


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通風口からかろうじて空気は流れる
確かに空気がなくては生きていけないが
吸いたくない空気というものがある
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「人穴」より


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そこが固くて
何も通さず
安定していたらいいなと思います
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「岩盤」より


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人間の末路は 厳しく
帰り道に力尽きることが多い

どうか
早く路傍の骸となって
私のもとに帰ってきてください
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「嗄声」より



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