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『煮汁』(戸田響子) [読書(小説・詩)]

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クレーンがあんなに高いとこにある罰せられる日が来るのでしょうか
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レーズンパンのレーズンすべてほじりだしおまえをただのパンにしてやる
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炊飯器で虹を作るという動画クリックしてもつながらなかった
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蚊柱が移動してゆく盛り塩をしてある家の電話が鳴ってる
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連写した見たこともない爬虫類SNSにはあげずにおいた
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いつもと同じ電車に乗ったはずなのにいくつも通り過ぎる無人駅
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 想像力の猛威をまざまざと見せつける歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2019年4月、Kindle版配信は2019年8月です。


 まずは、私的季節感。


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春だからぬれていこうじゃないですかフルーツ牛乳のふたをはね上げ
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夜道にてテレビの音がはっきりと聞こえてきたから夏が始まる
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終電は行ってしまった見上げれば月のまわりの淡い虹色
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標高五十から五十一メートルを行き来するスクワットの夜外は粉雪
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 続いて、食品に対する謎のオブセッション。


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いけないと思うほどつい食パンの断面に指をしずめてしまう
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レーズンパンのレーズンすべてほじりだしおまえをただのパンにしてやる
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ひとつずつ豆だいふくの豆だけを手術みたいに取り外してく
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思い出させてあげようじゃない次々と粉砕してゆくルマンドのくず
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くつくつとすべてを肯定してまわる鳩のようになり豆を食べたい
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賞味期限の近いものから順番に魚肉ソーセージ踊りはじめる
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 なにげない日常風景の奇妙さ。


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思い通りにならないようだと思ったが一応三分ぐらいはごねる
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いつも同じ時間にひとりで怒鳴ってるおじさんがいるバスターミナル
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街灯が灯る瞬間いくつもの影が貼り付きわたしを取り巻く
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じじ、じじと裸電球の残像が夢に出てくるあの日の夜市
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エンジェルを止めてくださいエンジンの見間違いだった地下駐車場
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どこかから水が漏れてる遊歩道遠くかすかに水音がする
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テラスから「ぃよっ」と母の声が降り雑巾は庭のバケツに入る
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リカちゃんで遊ぶ子らの声「ふりん」「てろ」「たなかさんちのじてんしゃがじゃま」
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 想像力の猛威。


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クレーンがあんなに高いとこにある罰せられる日が来るのでしょうか
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植え込みにピエロのカツラ落ちていて夕方見たらなくなっていた
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「ここの地下ディスコだったの」先輩がエレベーターの中で突然
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まさよしが多いんだよと絶叫し面接官は飛び出して行く
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なんだそういうドッキリかよと呟いた核シェルターからはい出た朝に
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人間の記憶はあいまいリカちゃんのお尻はきちんと割れてましたか
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やめろやめろーと月に向かって叫んでる男の手にはアスパラガスが
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炊飯器で虹を作るという動画クリックしてもつながらなかった
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ガスタンクが転がってくるのが怖いやることのない日曜のベランダ
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エレベーターの隙間の闇が見あげててまたぎ越すとき何かきこえた
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自販機の取り出し口から手が伸びて手をつかまれる気がしてならない
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 オカルト体験のイメージ。


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蚊柱が移動してゆく盛り塩をしてある家の電話が鳴ってる
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塀越しによくしゃべってた隣人の腰から下が人間じゃない
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この写真変じゃないです? ほらここの人の後ろに対戦車ミサイル
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エサが欲しいわけではなくて鯉たちの口の動きが送る警告
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連写した見たこともない爬虫類SNSにはあげずにおいた
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空気のように扱われてきたわけを知る自分の名がある墓石の前で
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薬屋の角から五軒目の家の庭からすごい怖い花出てる
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あっちだよ祭囃子に誘われて消えた彼女は今日も戻らず
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いつもと同じ電車に乗ったはずなのにいくつも通り過ぎる無人駅
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 もしかしたら同一人物かも知れない誰かの人物描写。


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どうぶつの形をしているビスケット頭から食べるような人なの
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さっきからずっとストローの袋をもんでもしかしてそれ鳥になるの?
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クリップをクリップとして使えない針金に伸ばす残虐なやつ
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携帯に「典型的なクズです」と言い雑踏に消えゆく男
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着信拒否をされている気がするんだと何度か言って帰っていった
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後入れのスープも全部入れちゃってよく読んでって言っても聞かない
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同じ誤字で君だとわかる昔から点が足らないと言ってるじゃない
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