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『A Love Supreme ~至上の愛』(アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、ローザス) [ダンス]

 2019年5月11日は、夫婦で東京芸術劇場プレイハウスに行ってローザスの公演を鑑賞しました。ローザスの四名のダンサーがジョン・コルトレーンの名盤<至上の愛>と共演する上演時間55分の作品です。


[キャスト他]

振付: サルヴァ・サンチス、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
     Salva Sanchis, Anne Teresa De Keersmaeker

音楽: ジョン・コルトレーン<至上の愛> 1965年発表音源
     John Coltrane <A Love Supreme>

出演: 
ベース(ジミー・ギャリソン)  : Jason Respilieux
ピアノ(マッコイ・タイナー)  : Robin Haghi
ドラム(エルヴィン・ジョーンズ): José Paulo dos Santos
サックス(ジョン・コルトレーン): Thomas Vantuycom


 舞台装置のないシンプルな空間で、これまた簡素な服を来た四名が、アナログレコードの擦過音だけが静かに流れるなか、踊りはじめます。針が落ちてからの数秒間を引き延ばしたような。あるいはセッション開始前のリハーサルを連想させます。

 やがて唐突にジョン・コルトレーン<至上の愛>が始まり、すぐにダンサーそれぞれが楽器パートに対応して動いていることが分かります。音に合わせて踊っている、あるいは楽譜をパート毎に分解してそれぞれの演奏を動きにより視覚化している、かのように最初は思えるのですが、すぐにケースマイケル版<至上の愛>を身体の動きで「演奏」しているのだということに気づきます。

 視覚的に「演奏」されるケースマイケル版<至上の愛>だけでも凄いのですが、それが録音として流れているコルトレーン<至上の愛>と、即興で絡んでゆく(と感じられる)ライブ感覚は超絶的。

 録音され固定されたセッションとの共演という離れ業だけでもシビれるのですが、ダンサー各人の動きがまたカッコイイ。思わず「今のとこ、ちょっと巻き戻して」と言いたくなるような素敵な動きが次々と。最後の方になるとダンサー同士の絡み(リフトなど)が多くなり、「リハーサル」で練習していた動きも出てきて、また背後の壁に投影されたダンサーの影も加わってゆきます。



タグ:ローザス
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『9つの脳の不思議な物語』(ヘレン・トムスン:著、仁木めぐみ:翻訳) [読書(教養)]

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 本書に登場した人たちは特別な人々だが、願わくばその風変わりさではなく彼らの人間性に驚嘆し、彼らとの違いより共通点に驚いていただきたい。彼らは、我々はみな一人一人特別な脳を持っていると教えてくれた。我々にはボブのような頭脳はないが、誰しも過去を思い出し、数え切れない素晴らしい瞬間で心を彩ることができる。我々は存在しない音楽を聴いたり、宙に浮かぶカラフルなオーラを見たりはしないが、それでも幻覚は見ている。我々が感じる現実はその幻覚の上に成り立っているのだ。我々はジョエルほど他人の痛みをありありと感じることはないが、ミラーニューロンのおかげで、程度は違うがそれを感じることができる。
 我々はみな素晴らしく精巧な神経システムを持っているおかげで、強い愛情を感じ、他の人を笑わせ、誰とも違う、予想もつかない人生を作り出す力を持っている。
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単行本p.302


 完全記憶、脳内地図喪失、幻音楽、狼への変身、ミラータッチ共感覚。他人にはない特別な能力を持っている人々はそれをどう感じているのか、どのように生きてきたのか。特殊な脳を持つ人々に取材した驚愕のノンフィクション。単行本(文藝春秋)出版は2019年1月、Kindle版配信は2019年1月です。


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 人生のほぼすべての日のことを細大漏らさず、完璧に覚えているボブや、荒れた人生を送っていたのに脳出血を起こして以来、別人のように繊細で優しい性格になり、絵を描き続けるようになったトミー、他人にオーラのような色を感じるルーベンのように、その脳の特別さと共存し、ある意味楽しんでいる人たちもいれば、自宅内でも迷子になってしまうシャロン、頭の中で絶え間なく響く音やメロディに苦しめられているシルビアのように症状と戦い、想像を絶する苦労をしている人たちもいます。どれだけ不自由で辛い毎日であったのかは想像に余りあります。さらに自分が死んだと感じる絶望、なくなった手足があるはずだと感じたり、実際にはある手足がないと感じる激しい違和感などは、筆舌に尽くしがたい苦しみだと思います。
 相手の感覚を自分のものとして感じる能力がある医師のジョエルは、患者から見れば自分のことをよくわかってくれる名医ですが、本人の精神的、肉体的負担は想像もつかないほど大きいでしょう。また、日本の読者の中には突然、トラに“変身”してしまうマターのエピソードに、中島敦『山月記』を思い出す人もいるでしょう。
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単行本p.315


 オリヴァー・サックスの著作と同様、脳の高度機能の働きが他人とは違う人々について書かれた本です。「症状」についての最新知見も含まれますが、むしろ多くのページが割かれているのは、本人の人生や生活、主観体験を聞き出すこと。バラエティに富んだ「ユニークな脳」の世界を知るにつれて、逆に「平凡な脳」がどれほど高度なことを行っているのかが分かってきます。そして、私たち一人一人が見ている感じている世界が、思ったよりも大きく異なっているということも。


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 我々は脳の全てを理解しているとは言い難い。実際、我々が「高度な機能」と呼んでいる、記憶や意思決定や創造性や意識といったものについて、満足な説明がなされているとは決して言えない。(中略)わかっているのは、奇妙な脳はいわゆる「正常」な脳の謎を解くためのユニークな窓だということだ。こうした脳は我々みなの中にも特別な能力が隠されていて、解き放たれるのを待っていると教えてくれる。また、我々がそれぞれ知覚している世界はみな同じではないことを示してくれる。さらには自分の脳は今まで思っていた通り正常なのかという疑問まで抱かせる。
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単行本p.19


 全体は序章と終章に加えて9つの章から構成されています。


[目次]

序章 「奇妙な脳」を探す旅へ出よう
第1章 完璧な記憶を操る
  過去を一日も忘れない“完全記憶者”ボブ
第2章 脳内地図の喪失
  自宅で道に迷う“究極の方向音痴”シャロン
第3章 オーラが見える男
  鮮やかな色彩を知る“色盲の共感覚者”ルーベン
第4章 何が性格を決めるのか?
  一夜で人格が入れ替わった“元詐欺師の聖人”トミー
第5章 脳内iPodが止まらない
  “幻聴を聞く絶対音感保持者”シルビア
第6章 狼化妄想症という病
  発作と戦う“トラに変身する男”マター
第7章 この記憶も身体も私じゃない
  孤独を生きる“離人症のママ”ルイーズ
第8章 ある日、自分がゾンビになったら
  “三年間の「死」から生還した中年”グラハム
第9章 人の痛みを肌で感じる
  “他者の触覚とシンクロする医師”ジョエル
終章 ジャンピング・フレンチマンを求めて


第1章 完璧な記憶を操る
  過去を一日も忘れない“完全記憶者”ボブ
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 自分の過去についての記憶力が素晴らしいからといって、ほかの事柄を覚えるのも得意なわけではない。しかし彼にある一日について聞くのは、話がまったく違う。彼は40年前のある日のことを、昨日のように容易に思い出せる。その日のことはにおいや味やそのときの気持ちなど、様々な感覚を伴ってありありと思い出せるのだ。
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単行本p.40


第2章 脳内地図の喪失
  自宅で道に迷う“究極の方向音痴”シャロン
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 シャロンの“迷子”はだんだん頻繁になって、ついには一日中常に起こるようになった。道がわからないので、近所や学校に行くこともできなくなった。それなのにシャロンはこの問題を誰にも打ち明けなかった。その代わりに生来のユーモアと鋭い知性を駆使して、いつも迷子になっていることを誰にも知られぬまま学校を修了し、友達を作り、結婚までした。
「25年も隠していたのよ」
「25年も?」
「そう……魔女って言われると思っていたから」
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単行本p.62


第3章 オーラが見える男
  鮮やかな色彩を知る“色盲の共感覚者”ルーベン
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 じっさい、ルーベンは2005年まで、自分の共感覚に気づいていなかった。彼はグラナダ大学で心理学を勉強していた女性と親しくしていた。彼女は共感覚の研究に参加することになったと話してくれた。このとき彼は「共感覚」という言葉をはじめて聞いたので、彼女に説明してもらった。
 これまでの多くの人たちと同じように、ルーベンもなぜそれを調べなければならないのかわからなかった。
「僕は『ふーん、ふーん、で?』みたいな感じでした。そんなの普通じゃないか!って」
 友人は驚き、あなたは共感覚者かもしれないと言った。
「そう言ってから、彼女は真っ青になりました」ルーベンは言った。「思い出したんです、僕が色盲だってことを」
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単行本p.111


第4章 何が性格を決めるのか?
  一夜で人格が入れ替わった“元詐欺師の聖人”トミー
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「側頭葉に損傷のある人々が、言語能力を失っているのに異常に多弁になるケースはよく見られます。そういう人たちは自分の発言を、以前より厳しく判断しなくなっていることが多いです。我々はそれを“政治家の話し方”(ポリティシャン・トーク)と呼んでいます。たくさんの言葉を話していても、内容はないということです」
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単行本p.144


第5章 脳内iPodが止まらない
  “幻聴を聞く絶対音感保持者”シルビア
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 セスは以前こう語ってくれた。「我々の現実というのは、感覚によって抑制されている、コントロールされた幻覚にすぎないのです」あるいは心理学者クリス・フリスはこう言う。「それは、現実と一致している幻想です」
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単行本p.172


第6章 狼化妄想症という病
  発作と戦う“トラに変身する男”マター
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 彼女は興奮し、張り詰めた様子で救命救急部門にやってきたという。彼女は突然カエルのように跳びまわったかと思うと、ゲコゲコ鳴き、まるでハエを捕まえるかのように舌を勢いよく突き出した。別のケースでは、蜂になったという奇妙な感覚を持った女性が報告されている。彼女は自分がどんどん小さくなっていくように感じていたという。
 2015年の終わり頃、ハムディは私に、長年にわたって狼化妄想症にかかったり、治ったりを繰り返しているマターという男性患者がいるというメールをくれた。
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単行本p.183


第7章 この記憶も身体も私じゃない
  孤独を生きる“離人症のママ”ルイーズ
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 ルイーズが離人症に本格的に悩まされはじめたのは大学生のときからだった。悪夢を見ているときに、彼女は急に世界が遠くなり、自分が身体から抜け出たように感じた。宙に浮かんでいて、世界の一員ではなくなっていたという。この感覚は一度起こると数日続いた。
「そのうちに一週間続くようになり、それからもっと長くなっていった。ついにいつもその状態になってしまって、元に戻らなくなった」
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単行本p.215


第8章 ある日、自分がゾンビになったら
  “三年間の「死」から生還した中年”グラハム
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「私は死んでいる」ある出来事を機に脳がなくなったと感じたグラハムは、そう訴えて周囲を当惑させた。彼を検査した医師らには衝撃が走る。起きて生活をしているのに、脳の活動が著しく低下し、ほとんど昏睡状態にあったのだ。
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単行本p.230


第9章 人の痛みを肌で感じる
  “他者の触覚とシンクロする医師”ジョエル
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 ジョエルが病院という環境の中で、どうやって冷静さを保っていられるのか不思議だ。痛みを抱え、咳をし、嘔吐している患者を前にすると、彼は自分の肺が締めつけられる感じがするという。喉にチューブを挿管されている患者がいると、チューブが喉に降りていくにつれて声帯が押される感覚を味わうという。脊椎に注射をするときは、針がゆっくりと自分の腰に滑りこんでくる感覚があるという。(中略)ジョエルが初めて人の死を目撃したときは、そこで自分が何を感じるのかわかっていなかった。
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単行本p.275、277



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『不自然な宇宙 宇宙はひとつだけなのか?』(須藤靖) [読書(サイエンス)]

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 物理法則を与えればそれを具現する宇宙が実在する、と述べました。したがって、任意の数学的体系には対応する宇宙が実在することになります。これが過激派の思想の根源で、なぜ宇宙には法則があるのか、そして、なぜ法則は数学で記述できるのかという疑問への答えは、宇宙と法則と数学はすべて同じものだから、なのです。
(中略)
 この結論に皆さんが納得してくれるかどうかわかりません。むしろ、その必要はないと思います。本書の読者が、「すべての数学的構造は具体的な宇宙として実在する」などと異口同音に主張するようになったとしたら、この私ですら恐ろしくなってしまいそうです。
 私がお伝えしたかったことは、マルチバースという概念を突き詰めればやがて、法則とは何か、数学と宇宙との関係とは何か、科学的検証とは何か、また知性が存在しない宇宙は実在していると言えるのか、などの通常の科学の範囲を逸脱した哲学的問題に向き合わざるを得ないという事実です。それらの問いに正解はないでしょう。しかし、レベル4マルチバースは、そのような「科学的思索の世界」へ我々を誘ってくれるのです。
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新書版p.142、147


 我々の宇宙はどうして知的生命の存在にとってあまりにも都合が良い「不自然な宇宙」なのか。その物理法則が数学によって完全に記述できるのはなぜか。我々の宇宙の「外側」はどうなっているのか。マルチバース概念をレベル1からレベル4に向かって突き詰めてゆき、そこに立ち現れる様々な哲学的難問と、それらを考えることの意義を解説してくれる一冊。新書版(講談社)出版は2019年1月、Kindle版配信は2019年1月です。


 我々の存在にとってあまりにも都合が良すぎるこのユニバースの「不自然さ」から、人間原理とマルチバースという結論が出てくる。しかもそれはインフレーション宇宙論や超弦理論との整合性が高い。ここまではいいとして、では具体的にマルチバースの全貌はどうなっているのか。この疑問に現代宇宙論がどこまで迫れるかを解説してくれるサイエンス本です。

 インフレーションモデルが正しければ必然的に実在するであろうレベル1マルチバースから、無矛盾なすべての数学的構造にはそれぞれ対応する宇宙が実在するというレベル4マルチバースまで、その実在の根拠とそこから派生する哲学的難問を示してゆきます。ある種のハードSFのファンならときめくこと間違いなし。


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レベル1マルチバース
 現在観測可能ではない地平線の外側にも、同様のユニバースが無限に存在。その後少しずつ観測可能な領域に入ってくる。
 同じ時空上に存在し、同じ法則を持つ無数の有限ユニバースの集合。空間体積が無限であれば、全く同じ性質のクローンユニバースがこのマルチバース内のどこかに(しかも無数個)実在。

レベル2マルチバース
 無限個のレベル1マルチバースが、原理的にも因果関係を持たないまま、階層的に存在。
 異なるマルチバースでは、物理法則が異なる。インフレーションモデルの予言と整合的。

レベル3マルチバース
 量子力学の多世界解釈に対応する無数の時空の集合。
 レベル3マルチバース内の異なるレベル3ユニバースを放浪する軌跡が我々の宇宙。

レベル4マルチバース
 異なる数学的構造に対応する具体的な時空は必ず実在。
 抽象的な法則は必ず対応する物理的実体を伴う。
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新書版p.92


[目次]

第1章 この「宇宙」の外に別の「宇宙」はあるのか?
第2章 宇宙に果てはあるのか? 宇宙に始まりはあるのか?
第3章 我々の宇宙の外の世界
第4章 不自然な我々の宇宙と微調整
第5章 人間原理とマルチバース
終章 マルチバースを考える意味


第1章 この「宇宙」の外に別の「宇宙」はあるのか?
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 この不自然さは、我々が知っている物理法則がまだ完全ではないことを示すに過ぎず、未だ知られていないより根源的な法則が明らかになればすべて解消されるのかもしれません。あるいは全く逆に、宇宙のすべての性質が自然に説明できる必然性はなく、それらは結局偶然に帰着させるしかない、という考え方もありえます。
(中略)
 事実上、これら2つの説の真偽を検証することは絶望的です。だからこそ、どちらがより強い説得力を持つのかが重要な判断基準となります。これは伝統的な科学的方法論とは違いますが、実験や観測で検証不可能な問題を考える際には不可避と言わざるを得ません。だからこそ、この「宇宙」の外に別の「宇宙」があるとすれば、それらはどのような形で存在し得るのか、それらの存在を認めることでどの程度不自然さが解消されるのか、といった様々な問題を考え抜く意義があるのです。
――――
新書版p.23、25


 サイズ、相互作用、宇宙定数。物理法則から予想される「平均的な宇宙」と比べると我々の宇宙は100桁ほどもはずれた極めて異常な、不自然な宇宙であることが分かる。なぜ、我々の宇宙はここまで不自然なのか。マルチバースという考えが出てくる前提を突き詰めてゆきます。


第2章 宇宙に果てはあるのか? 宇宙に始まりはあるのか?
――――
 これでついに、人間原理の基本的な結論「大多数の自然な宇宙では人間は誕生できないから、その宇宙の法則は極めて自然であると納得できる知性は存在しない。逆に、極めてまれで不自然な宇宙においてこそ人間が存在でき、彼らはなぜ自分たちの住む宇宙の法則がこれほど不自然なのかと必ず悩むはめになる」にたどり着きました。
 初めて聞けば、よくぞこれだけ怪しい論理を展開できるものだ、と呆れてしまうかもしれません。しかし、これは我々の宇宙が不自然さに満ち溢れていることに対する合理的な説明(の1つ)になっています。
――――
新書版p.70


 人間原理から「この宇宙の不自然さ」を説明するために、前提としてマルチバースの存在を認めなければならないことを解説します。


第3章 我々の宇宙の外の世界
――――
 仮にレベル1マルチバースが無限体積であれば、決して検証できないほどのはるか遠くであるにせよ、我々のクローンユニバースが(無限個)実在するというのが論理的帰結です。そこには、私(のクローン)がいて、この本(のクローン)が出版され、皆さん(のクローン)が、それを読みつつ、彼らにとってのクローンユニバース(すなわち我々)の存在に思いを馳せているはずです。(中略)実在が当たり前だと思えるレベル1ユニバースとレベル1マルチバースですら、突き詰めて考えると信じがたい帰結をはらんでいる可能性があることは強調しておきたいと思います。
――――
新書版p.96、99


 マックス・テグマークが提唱するマルチバースの分類に沿って、レベル1からレベル4までのマルチバースを概説します。またインフレーションモデルを認めるなら必然といえるレベル1マルチバースですら無数のクローンユニバースといった哲学的難問を引き起こすことを示します。


第4章 不自然な我々の宇宙と微調整
――――
 このように、現在の宇宙の物理法則や物理定数のどれかを少し変更しただけで、たちまち世界の安定性が崩れてしまうのです。当然、人間も存在できなくなるでしょう。逆に言えば、人間が存在できるような組合せは限られていて、何らかの微調整が必要となります。そのような微調整を保証する機構がない限り、我々の宇宙は「たまたま」不自然なほどうまくできていると言うしかありません。(中略)偶然か必然かという二者択一ではなく、偶然と必然の中間に対応するような折衷案的解釈はないものでしょうか。それが次章で紹介する人間原理にもとづく世界観です。
――――
新書版p.179、181


第5章 人間原理とマルチバース
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 科学、なかでも物理学は、世界からできる限り偶然を排し、すべてをすっきりと説明することを目指す営みです。そして物事の原因をどこまでも追求すれば、必然的に考えている系を拡大せざるを得ません。その端的な例が天文学なのです。
 地球の振る舞いは太陽系で決まり、太陽系の振る舞いは銀河系に、銀河系は宇宙に、そしてこの宇宙のあり方はその外にある(かもしれない)マルチバースに原因を求めることができるというわけです。残念ながら、そのマルチバースはなぜ存在するのかという究極の問いに答えられるかはわかりません。しかし、気が遠くなるほど幾重にも連なる深い階層の末端にいる我々が抱く疑問の大半は、我々の住む宇宙の外のマルチバースの実在を認めるだけでそれなりにすっきりと納得できるのではないでしょうか。
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新書版p.206


終 章 マルチバースを考える意味
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 科学の役割とは、未だ解かれていない難問に正解を与えることだと考える方が大半かもしれません。もちろん、それが重要であることはいうまでもありません。先人の絶え間ない努力によって科学は進歩を続け、その結果は、社会の発展と人々の生活の向上に大きく貢献してきました。
 しかし私は、それと同時に、今まで気づかれていないとびっきり面白い疑問を発見することもまた科学の重要な役割である点を強調したいのです。それらに対する正解を発見する必要はありません。次世代の科学者が解明してくれるのかもしれませんし、ひょっとすると正解など存在しないのかもしれません。いずれの場合でも、その疑問が本質的でありさえすれば、正解を模索する過程で、さらに新たな発見が生まれ、我々人類は少しずつ賢くなっていくはずです。
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新書版p.212


 最後の三つの章では、まず我々の宇宙における様々な物理定数の値が信じがたいほど生命の存在にとって都合がよいように「微調整」されていることを示し、人間原理とマルチバースによってその事実がすっきりと納得できるようになることを解説します。そして、検証不可能なことについて考えることが、科学という営みにとってどのような意義を持つのかを論じます。



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『愉快な鯨 味わうUFO。ウンモ事件 Appreciated Flying Saucer : Ummo - La Ballena Alegre』(Spファイル友の会) [その他]

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大切なことは、手紙で。
手紙をくれる! 皿を洗う! 宇宙人!!
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 さらにオシャレ度を増した、しみじみしみるUFO本。

 私も参加している「Spファイル友の会」の新刊について、宣伝を兼ねてご紹介。2019年5月6日に開催された第28回文学フリマ東京にて、『UFO手帖』の編集長でもある秋月朗芳(ペンパル募集)さんが個人誌を発行しました。

 前作『さみしいUFO。 Cry for Flying Saucer』はこれまでに秋月氏が『Spファイル』などに発表した文章から「UFOとさみしさ」をテーマにしたものを集めて再編集したものでしたが、こちらはオール新作書き下ろし、豪華イラスト多数収録(ただし描いたのは主にウンモ星人)。さらにオシャレ度を増した、しみじみしみるUFO本となっています。なお、前作の紹介はこちら。


  2018年05月09日の日記
  『さみしいUFO。 Cry for Flying Saucer』(Spファイル友の会)
  https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-05-09


 本作はUFO史上他に類を見ない特異ケース、ウンモ事件を紹介する冊子です。何しろペンネーム(ペンパル募集)の由来が「ウンモ星人から手紙が来るのを待っているというメッセージ」だという秋月さんですから、その思い入れも格別。味わう超常現象としての、その魅力を紹介してくれます。


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 ウンモ星人は、手紙を送ってくれる宇宙人です。地球にやってきている宇宙人は沢山いるようですが、手紙を送ってくる宇宙人は彼らしかいません。なので、とてもめずらしい宇宙人です。

 ユミットは、とても筆まめな宇宙人です。どのくらい筆まめかというと、すごくです。宇宙人からの手紙ですから、1通でもありがたいですが、何千通も送り届けられています。これは、同じ内容の手紙が何千通も送り届けられたという意味ではありません。ひとつひとつ違う内容の手紙が、何千通も送り届けられているということです。
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 もしもあなたのなかに「宇宙人って、だいたいこういうことをやる連中」というイメージがあるなら、それは偏見だということをウンモ星人=ユミットたちは教えてくれます。

 現実と非現実の境界を飛び、手紙を送ってくる彼ら。

 がぜん興味が湧いてきた方は、是非、この冊子をお読みください。

 今後の頒布予定など詳しい情報を知りたい方、またコンタクトを希望するユミットの方は、こちらを参照のこと。


  「Spファイル友の会」ウェブページ
  http://sp-file.oops.jp/spf2/


[目次]

手紙を送る、宇宙人
ただならぬ、筆まめ
敏感な指先で、皿を洗う
  ユミット達との晩餐(漫画)
  ユミットの身体的特徴
はじめての、地球
ものを盗んだら、つぐなう
人をころしてしまいましたと、こくる
完璧な事例
ユミットのことば
ひとつだけの大陸、ひとつだけの言葉、ひとつだけの人種、美しい星
愉快な鯨



タグ:同人誌
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